呼吸・回旋動作をサポートする「上後鋸筋」ケア|マイナー体幹筋

我々のカラダには大小、重要な筋肉が数多く存在する。なかでも、使える体幹には滑らかな関節の動きを支える深層部の筋肉=“ローカル筋”の活性が鍵を握る。今回は、吸気をサポートするローカル筋、「上後鋸筋(じょうこうきょきん)」を活性化するエクササイズを紹介。ローカル筋の動きを妨げる表層の“グローバル筋”をゆるめる→ローカル筋の活性化の2ステップで本来の機能を取り戻そう。

編集・文/オカモトノブコ イラストレーション/野村憲司、作山依里(共にトキア企画)、山口正児

初出『Tarzan』No.857・2023年5月25日発売

上後鋸筋(じょうこうきょきん)

中村直樹さん

中村直樹さん

教えてくれた人

なかむら・なおき/理学療法士。一般社団法人アジアNOVASTストレッチ協会代表理事。トレーナーとしてプロゴルファーの指導経験のほか、愛知・一宮市でコンディショニングサロン〈RIPS!!〉運営、運動器疾患のリハビリなども行う。

安定した体幹の鍵は「ローカル筋」にあり

安定して動ける体幹には、しっかりした「軸」があることが条件。そのためには、体幹を支える関節がその構造だけでなく、力学的にもバランスを保って安定していることが不可欠だ。

これを可能にするのが、カラダの深層にある「ローカル筋」の数々。これらが働くことで、ガチガチに固めた体幹にはない“滑らかな動的バランス”が機能する。運動パフォーマンスを上げ、疲れない・正しい姿勢を保つうえでも不可欠な筋肉なのだ。

関節を支えるローカル筋は常にオンの状態なため、これ自体がコリ固まることはない。問題は、運動不足や姿勢の悪化などで表在の「グローバル筋」が過度に緊張し、収縮のバランスが崩れること。持久力がない筋肉のため疲れやすく、凝りや痛みの原因にもなる。

関節を取り囲む支持組織が安定した動きを生み出す

ローカル筋 グローバル筋

ローカル筋とグローバル筋の例

ローカル筋

ここでの主役で、深層部に存在するインナーの筋肉。1つの関節をつなぐ単関節筋で、関節包や靱帯を守る“動的な支持組織”の一面もある。関節の安定性に寄与するが、グローバル筋の緊張によって働きが妨げられやすい。

グローバル筋

2つ以上の関節をまたぐ多関節筋で、アウターマッスルと同義。カラダの大きな動きを行うときに働くが、姿勢の悪化や動きのクセなどで過剰に緊張して凝り固まりやすい。

そこでローカル筋が持つ本来の機能を取り戻すには、これを妨げるグローバル筋の硬さや緊張を「STEP1」でゆるめるのが先決。ただし長時間伸ばしすぎると深層のローカル筋までが不必要にゆるんでしまうため、ストレッチは10~20秒までにとどめたい。

続く「STEP2」では、ローカル筋の働きを取り戻すエクササイズを行おう。これらを2段階で行うことで、滑らかに動く体幹コントロールに必要な、筋肉の協調性が取り戻せるのだ。

吸う息で胸郭を後ろから引き上げて拡張させる“上後鋸筋”

上後鋸筋は胸郭上部の背側にあって、「呼吸補助筋」としての働きを持つ。筋線維の方向からは胸郭を後方から持ち上げると見なされ、肺が広がる吸気(=息を吸うとき)で働くことはまず明らかだ。

上後鋸筋(じょうこうきょきん)の基本情報

上後鋸筋(じょうこうきょきん)

  • 起始:第6頸椎~第2胸椎の棘突起
  • 停止:第2~5肋骨角
  • 神経支配:第1~4胸椎の肋間神経
  • 作用:肋骨の挙上

また頸椎から胸椎にかけて付着するその構造から、これらの回旋動作にも関与する。ただしローカル筋である上後鋸筋そのものが動作を行うわけではなく、あくまで動作を安定化させる補助筋としての働きであることを補足しておこう。

上後鋸筋をその位置から見ると、姿勢の悪化によって硬く縮んだグローバル筋からの圧迫を特に受けやすい。例えば首の回旋では、首の側面にある胸鎖乳突筋、後面の板状筋などがメインに働くが、PCやスマホの使いすぎなどで頭の重心が前に偏ってしまうと、深部にある上後鋸筋が働きづらくなる、といった具合だ。

肩甲骨によって削られ、背中の痛みの原因にも

グローバル筋の硬直による悪影響は、肩甲骨の周辺でさらに顕著となる。その証左として近年のレビューでも、上後鋸筋がそのすぐ表層にある肩甲骨の上角によって「削られ」、痛みを引き起こす可能性があることが示唆されているのだ。

首から肩の後面には僧帽筋や肩甲挙筋などがあり、肩甲骨の内側上角に付着する。猫背や巻き肩になると、これらが引っ張られて硬く緊張。また、胸椎と肩甲骨の間にある菱形筋も硬直することで、ゴリゴリと音がしたり、滑りが悪くなったりして、肩甲骨の可動性がますます損なわれる。

このような姿勢の悪化要因が胸郭の後面をタイトにし、上後鋸筋が圧迫される状況を招くというわけだ。

このダメージを回避するには、グローバル筋をゆるめ、上後鋸筋本来の働き、つまり吸う息によって動きをよくすることが近道。頭の重みに影響されないうつ伏せ姿勢で胸郭の背側に呼吸を送り込み、日頃の姿勢で損なわれた機能を取り戻そう。

STEP1 ゆるめる|グローバル筋ストレッチ

菱形筋のストレッチ

菱形筋のストレッチ

菱形筋の硬直は肩甲骨の上方回旋を妨げ、腕の上げづらさの原因に。肩関節周辺を痛める可能性もある。両手を組んで伸ばし、背中を丸めて肩甲骨の間を10~20秒ストレッチ。

僧帽筋のストレッチ

菱形筋のストレッチ

硬くなると首の回旋や側屈が制限され、肩こりやいかり肩に。後ろに回した手首をつかんで下に引っ張りながら、首を手と反対側の斜め前に倒して10~20秒キープ。反対側も。

STEP2 活性化|上後鋸筋トレーニング

上後鋸筋トレーニング

うつ伏せになり、胸郭が前に広がるのを抑制。背中側に空気を送り込むように深い呼吸を5回繰り返す。ただし呼吸エクササイズは刺激も強め。やりすぎや、激しすぎる呼吸は避けること。