腹筋トレは毎日やってはいけない? 腹筋のウソ・ホント【後編】
結局、腹筋ローラーが最強? 腹筋トレは毎日やってはいけない? 腹筋を鍛えすぎると猫背になる? ピンからキリまで巷にあふれる、腹筋のあんな話、こんな話。その真偽のほどは一体…? 百戦錬磨のトレーナー・澤木さんと、筋トレの科学的効果を検証するYouTuberのパーカーさんに聞いてみよう。
編集・文/オカモトノブコ イラストレーション/川崎タカオ 監修/澤木一貴(SAWAKI GYM代表)、パーカーフィットネス(YouTuber)
初出『Tarzan』No.855・2023年4月20日発売
目次
アスリートの腹筋1日4000回の腹筋運動は意味がない
ホント
ボクシング界のレジェンド、パッキャオ氏は1日に4000回もの腹筋運動をしていたらしい。事実だとして、腰がぶっ壊れたりしないんですか…!? 「これはもともと、カラダが丈夫だからこそなせるワザ。一般の人はマネしようと思わないこと」と、トレーナーの澤木一貴さんはクギを刺す。
また「オールアウトして筋肥大するレップ数は、1セット当たりで40回程度が最大。これを100セットできるとすれば、もはや負荷とは言えないでしょう」と最新のトレーニング科学を分析するYouTuberのパーカーフィットネスさん。
「ボクサーの腹筋トレは、強いパンチに耐えられるボディを作るのが目的。パッキャオ氏のストイックなメンタリティから、これが4000回という数につながったのでしょう。もはやメンタルトレの域とも言えますね」(澤木さん)
ボディビルダーの腹にボクシング王者がパンチを打っても効かない
ウソ
まずは“実はボディビルダーの腹筋は柔らかい”というウワサの検証から。「どの筋肉でも基本的に、脱力すると柔らかいのが普通。硬そうなイメージは、腹直筋のバキバキな見た目で美化された節もあるのでは」とパーカーさん。
では、ボクサーの場合は?「パンチの衝撃に耐えるため、腹まわりを硬く収縮させて腹圧を高め、瞬発的な動きを生み出す腹横筋を鍛えることが重要」と澤木さん。
さらに「ビルダーの腹筋は、パンプアップや呼吸コントロールで浮き上がらせた状態で競うもの。コンテスト前は筋肉痛を避けてあえて追い込まず、ウェストの細さを保つために腹筋トレはやらない人もいます」と続ける。鍛え方が違うので、当然、パンチは効いてしまう可能性が高かろう。
結局、腹筋ローラーが最強らしい
ホント
最初に腹筋ローラーの研究データから見ていこう。「他種目と比較しても腹直筋が強い筋活動を⽰し、最強種⽬のひとつなのは間違いないでしょう」とパーカーさん。その理由とは?
「腹筋ローラーの動作は筋肉が鍛えられる3つの動き、短縮性のコンセントリックと伸張性のエキセントリック、等尺性のアイソメトリックの全てを含み、腹筋を満遍なく強化できます。特に引っ張る力に耐え、筋肉痛が残りがちともされるエキセントリックの刺激が入りやすい。その“効いてる感”も含めて、腹直筋に関しては最強候補で間違いない」と澤木さん。
ちなみに器具を使わないトレでの最強候補はドラゴンフラッグにハンギングレッグレイズ、とのこと。
腹筋ローラーなら腹筋群を全体的に鍛えられる
各種目の筋活動をEMG(筋電図)データで比較。腹筋ローラーが腹筋群全般で高い数値を示した。レッグレイズとクランチがこれに続き、サイドプランクの効果は限定的という結果に。
腹にボールを落とすトレーニングで腹筋は割れない
ホント
メディシンボールを使ったボクサーの定番トレだが、「これで腹が割れる、との説は完全に誤解」と断言する澤木さん。「要は、何を目的として腹筋を鍛えるか。これはパンチによる衝撃耐性をつけるためで、あくまで実戦を想定したスポーツ選手の腹筋トレーニングといえます」。
プロレスにも造詣の深い澤木さんによると、レスラーには腹の上に乗った人を歩かせる、木槌で腹を叩くといった鍛え方もあるという。一般人にはマネできない、実にハードコアな世界なのである。
また「力を入れるだけでは筋肥大せず、伸ばす、曲げるといった短縮性の腹筋トレが必要」とパーカーさん。
では、メディシンボールで腹割りを目指すなら?澤木さんいわく「ボールを持ったロシアンツイストシットアップ、スローシットアップといった種目がお薦め」とのこと。
腹筋トレは、毎日やってはいけない
ウソ
かねてより、高頻度トレーニングを推奨するパーカーさん。「⼤きい筋群は回復に時間がかかるので低頻度、⼩さい筋群は逆なので⾼頻度ともいわれますが、科学的なデータに基づくものではありません。むしろ低頻度で⼀気にトレーニングした方が筋線維のダメージが⼤きいという研究結果も」と、その見解を示す。
これについて澤木さんからは「中程度レベルのトレーニングなら、毎日やってもOK」との回答が。「腹筋群は、内臓を守るためにも常に活動し続けるもの。姿勢の制御にも働くため持久性が高く、回復が早い部位でもあるのが理由」と話したうえで、こう続ける。
「もし腹筋の筋腹を厚くしたいなら、やはり追い込むトレーニングが必要です。負荷が軽い自体重の場合は20~30回×3~5セットを目安に、その後は42~72時間の休息時間を設けるのが筋肉を肥大させるためのセオリー。カラダの組織は3か月で入れ替わるといわれるので、根気よく行きましょう」
大笑いしたら、腹筋も鍛えられる
ホント
ネット界隈には、面白ネタの代名詞として“腹筋崩壊”というコトバがある。まさか本当に壊れはしないだろうが、果たして笑いで腹筋は強化できるのか??
「筋⾁が収縮するので何らかの効果はある」とは、回答者2人の共通した意見だ。さらに澤木さんは、体幹を支えるインナーユニットの構造に着目したうえで、笑いの効果をこう分析する。
「笑いで働くのは、呼吸筋と同じ筋肉。横隔膜を中心に、腹横筋、脊柱を支える多裂筋、肋骨まわりの外肋間筋といった、腹圧にも関連するインナーマッスルが活性化します。体幹を支えて姿勢を保つ筋肉でもあり、これらに連動して腹筋群が全体的に機能するため、健康効果があるのはまず間違いない。同様に、腹から声を出して歌うこともおすすめです」
久しぶりに友達をカラオケに誘って大笑いしてみる、なんていうのもアリだ。
腹直筋の厚みは誰でも同じだ
ウソ
誰もが本来、割れた腹筋(正確には腹直筋)を持ってこの世に生をうける。ならばその厚みも、みな同じでは?
「超音波体脂肪計の測定データを集めた分析によると、女性で5mm~1cm、男性では1~1.5cmという結果。つまり腹直筋の厚みは個人差が大きい」と澤木さん。当然、筋トレでも厚みは変化し「筋肥大で腱画の深みが増すと、脂肪が多少あっても腹が割れて見えることも」とのこと。
一方、女性は妊娠というライフイベントが大きく影響し、「運動習慣のない人は腹直筋が1~2mm程度になり、産後の女性に腰痛が多い大きな原因に。回復を考えると、妊娠・出産前にある程度は腹筋を鍛えておけるとベスト」だそう。
腹筋を鍛えすぎると猫背になる
ホント
まずは腹筋と姿勢の関係から。
「腹まわりには肋骨のような骨がなく、内臓を守るためにも腹筋の働きが必要です。腹圧を高めてポッコリ腹を防ぐ意味でも、腹筋の強さがある程度は姿勢に貢献すると言えるでしょう」と澤木さん。特に反り腰タイプの人は、腹筋の強化で姿勢の改善も期待できるという。
「ただし、クランチなどの屈曲トレーニングだけをひたすら続けると、腹の前側が縮んで猫背の原因に。さらに胸板を厚くしようと、ベンチプレスなどでカラダの前面ばかり鍛えている人は要注意です。健康でバランスのいいボディメイクを考えるなら、伸展系の背筋トレや、側屈・回旋ストレッチなどもセットで行い、背骨の可動域を損なわないように心がけて」