征矢英昭さん
教えてくれた人
そや・ひであき/医学博士。「脳フィットネス」という独自理論を打ち立て、運動が脳に及ぼす影響を研究。著書に『もっとなっとく 使えるスポーツサイエンス』他。
体験した人
中強度のランニングで脳機能&気分アップ
「中強度のランニングによって脳力がアップ」。一昨年にそれを実証したのが筑波大学の征矢英昭教授だ。
「10分ランで前頭前野を刺激できます。特に、認知、集中、判断など思考や行動の中心となる実行機能を担う背外側部が活性することがわかりました。
実験は厳密な条件下で26人の男女に実施。中強度のランニングの後は脳の実行機能が上がり、メンタルもポジティブになりました」
ランニングで活性する部位
色づけされている箇所がランニングで活性した部分。被験者26人の脳の活動結果を平均化したもので、10分間走ると、前頭前野の外側がまんべんなく刺激を受けることが判明した。
気分を表すグラフ
ランニングの前後で心持ちの変化もチェックする。走った後は「覚醒」と「快適」のゾーンに入っているパターンが多いそう。前頭前野が活性化されている状態であるともいえる。
走ると快適さがアップ、それがさらに脳の機能向上に好影響を与える。
「実験としては、トレッドミルでの中強度のランニング、前頭前野の働きを測るストループテスト、気分チェックの3工程です。被験者の体力を調査し、ストループテストにも慣れてもらうなど、事前準備を徹底しました。
運動の有無での効果を比較するために、走らない日もストループテストを実施。すると、全員がランの後のみ回答時間が短縮し、気分もアガっていたんです」
ランは「ややきつめ」が必須?
「ヨガ、太極拳などの低強度運動でも実行機能の活性化は期待できます。今回は海馬の結果はありませんが、海馬でも同様に神経が活性化し記憶能が高まることがわかっています」
実験の流れ
① ストループテストの練習:テストの内容を理解するための準備として15問を体験。
② ストループテスト:6分30秒の間に30問を解いていく。
③ 気分チェック:「落ち着いているか」「快適か」など、今の状態を確認。
④ ランニング:トレッドミルを用いて10分間、5km/時でスローランニング。
⑤ 気分チェック:「落ち着いているか」「快適か」など、今の状態を確認。
⑥ 休憩:心拍数が安静時程度に戻るまで休む。
⑦ ストループテスト:6分30秒の間に30問を解いていく。
ストループテストとは?
上段の言葉や記号の色と下段の色が一致しているか否かを〇×ボタンを押して回答。難易度の異なる問題が3種6パターンもあり、とっさの判断力もカギとなる。
低〜中強度のランの威力は?いざ実験にトライ
さて、運動でどれだけキレッキレの頭になれるか!? ライター松岡が二人の体験をレポートします。
① ストループテストの練習
まずはストループテストの練習から(通常はぶっつけ本番にならないよう数日前に実施)。画面上段に青字で「みどり」、下段に「あか」とあれば不一致なので×のボタンを押す。だいたい11秒ごとに1問、計30問答える。
「迷っているうちに間違えてしまいました」(カメラ石原)
② ストループテスト
慣れたところで本番へ。回答中は前頭前野の働きをチェックする測定器「fNIRS」を装着。モニターでは脳内の活性具合が可視化される。
「酸素が行き届いた部分は赤く反応します。この面積が広がるにつれて前頭前野は活性化されていきます」(征矢教授)
③ 気分チェック
次は「気分チェック」へ。今のココロの内を素直に申告。
④ ランニング
そしてお待ちかねのランニングタイム! ウォーキング派の私は中強度のランに難儀し、時速5kmでもヘトヘト。心拍数はなんと170bpmをマーク。カメラ石原は低強度でトライしようと時速4.5kmへ切り替え。「いつもより楽です」と完走。
⑤ 気分チェック
トレッドミルから降りるやいなや再び「気分チェック」。息は上がっていながらも爽快感に包まれている!
⑥ 休憩
数分の休憩を挟む。
⑦ ストループテスト
ストループテストに再チャレンジ。前回よりノイズが耳に入らず、集中できた気がする。果たして法則通りに脳内はイキイキしているのか!?
ランニング後、二人の脳内に変化はあった?
2度目のストループテストを終えたカメラ石原はさわやかな面持ちで「ランニング後は思考がクリアになって問題に集中できました」とコメント。
感想の通り、ランニング後の正解率は100%。それに連動して回答時間も短くなっていた。「気分チェック」は快適度の頂に!
カメラ石原の結果|平均心拍数95bpm
3つの要素において言うことなし! 低強度のランニングによっても脳力がアップするという説の良き例に。
一方の私はというと…。正解率は低く、回答時間にいたってはランニング前よりも延びていた。がーん。「気分チェック」で快適度がアップしていたことが唯一の救いだ。
ライター松岡の結果:平均心拍数166bpm
トップバッターで緊張のせいか正答率が低く回答時間も長かった。快適度は上昇。メンタル分だけでも脳は活性したか?
「慣れない環境で緊張し、高強度のランニングになってしまったのが尾を引いています。でも運動効果は前頭機能に正しく反映され、実験がうまくいったといえます」(征矢教授)
トレーニングを積んでいない種目で、すぐさま脳を活性させるのは難しいかもしれない。とはいえ、ラン習慣があるカメラ石原が証明したように前頭前野が受ける刺激は一目瞭然。
フレッシュな脳を作るためにも、コツコツとカラダを動かすクセを身につけようと誓ったのだった。