「ジョギングってウォーキングが少し速くなる程度でしょ?」。もしそう捉えているなら少し改めたい。歩きと走りは根本的に動きが違うのだ。
とはいえ、決して難しいことはない。むしろ、ここで紹介する5つのマストを押さえておけば、初心者でもケガのリスクを心配せずにスムーズに、気持ちよく、何より楽しく走ることができる。
姿勢を安定させるエクササイズや走る前の準備運動、イメージづけておきたい理想のフォームに、ジョギング中のワンポイントや終わった後のストレッチまで。「マラソン完走請負人」としても知られるランニングコーチの牧野仁さんに指南してもらおう。走るなんて、簡単だ。
① 姿勢を安定させるエクササイズ
まずはエクササイズから。「え、最初からトレーニングするの?」とテンションを落とすべからず。いきなり感覚に頼って走り出すよりも、「走れるカラダ」を作ったうえでスタートすれば、その後の爽快感も、疲れもまったく変わってくるのだから。何事も事前の準備が必要である。
ここで紹介するのは肩と股関節まわりのエクササイズ。走るといっても、ただ脚を動かす感覚で行ってしまうとスムーズに走れないし、ケガにもつながりやすい。
肩や肩甲骨を柔らかくすれば気持ちよくカラダが前に進むようになるし、股関節が滑らかに動けばより全身を使った効率的な走りになる。長く走り続けるにはフォームの安定が必要。最初にその土台を作っておきたい。
(1)肩を開く
ジョグやランは下半身のみならず、腕や肩など上半身もしっかり動かないと楽に走ることができない。とくにポイントとなるのが腕振り。
多くの人は頑張って腕を前に振ろうとするけれど、逆に腕は引くよう意識したい。肘を引くことで肩甲骨が動くため、それと連動してカラダが回り、脚がスムーズに出やすくなるのだ。自然に腕を引くための簡単なエクササイズを習慣にしよう。
肩を回さずに開く、閉じるを確実に行う
①左右の手を肩に置いて肘を曲げ、顔の高さに上げて肘を顔の正面に向ける。
②肘を真横にしっかり開く。
③肘の向きを正面に戻し、真下に下ろす。
①~③の動きを5秒で行う。5回繰り返し。肩を回そうとすると動きが小さくなるのでこのやり方がベター。
(2)股関節を回す
股関節はクルマで譬えると車輪の軸のような存在。ここの動きが滑らかじゃないと、走っている最中の動きがギクシャクして、腰や膝に大きく負担がかかってしまう。
また、普段デスクワークが多いと股関節まわりが凝り固まるケースが多いため、走る前にはここをスムーズに動かせるようにしておこう。脚がしっかり前に出やすくなり、腿も上がりやすくなる。
爪先を上げたまま膝上げ&膝開き
①両手を左右に広げて立つ。
②片脚の爪先を上に向け、膝を正面に上げる。角度は90度。
③そのまま上げた膝を真横に開き、逆の動きで①に戻す。
左右5回ずつ行う。上体の姿勢が崩れないよう注意。常に爪先を上げることで脚が開きやすくなる。
② 少しの準備運動で走りがスムーズに!
「歩きと走りを比べて最も違う点が、走りはカラダが空中に浮き、両足が地面から離れる瞬間があって片足で着地するということ。足は空中で前に出て、着地はカラダの真下になります。
歩きはいずれかの足が必ず地面に着いていて、着地はカラダより前になる。だから歩行の動きの延長で走ろうとすると、膝から下を使う走りになってしまい膝や足首を痛めやすいんです。
まずは腿上げと足踏みの感覚を養い、スピードが上がるに従って脚を回す動きを身につけること。これで初心者でもスムーズに走れるようになります」(牧野さん)
そのためにはただ走り出すのではなく、ジョグ、ランそれぞれ走る前に下記のエクササイズをやってほしい。簡単だけど効果はてきめん。
ジョグ:走る前に腿上げと足踏みの感覚を養う
背すじを伸ばしてまっすぐ立ち、その場で足踏みを30秒程度繰り返す。ポイントは腿をしっかり上げ、カラダの真下でしっかり足踏みすること。
注意したいのは、腿上げだけど腿を使って脚を上げないこと。脚の付け根の腸腰筋を使い、腿の裏(ハムストリングス)をお腹に引き寄せる感覚で行うとちょうどいいはず。走る前にウォーキングとの動きの違いを身につけておこう。
ラン:股関節から動かす意識で脚を回す
少し速く走りたいランナー向けの準備運動。軽く小走りし、タイミングよく片脚を2回連続で引き上げて回しながら戻し、続けて反対側の脚でも同様の動きを行う。これを10m程度。
股関節を使って脚を回す動作を繰り返すことで推進力を養うのが大きな目的。また2回続けてパパッと脚を回すことで、スピードを出すための瞬発力も養える。
③ 長く走り続けられる理想のフォーム
ジョギングにしてもランニングにしても、こんなフォームで走ればずっと気持ちよく走れる、というのがある。それが下のフォームだ。
「このフォームはあくまで理想形で、必ずこうでなければいけないというものではありません。また、初心者のジョガーやランナーが真似しても長続きはせず、早い段階でフォームはバラバラになってしまうでしょう。大切なのは、この理想的なフォームのポイントを身につけて走れるようになることなんです」
そのためには下のフォームのポイントを押さえたうえで、前述のエクササイズや準備運動を必ず行ってほしい。何も意識しなくても理想に近い形で走れるようになること。それが一番の目的である。
ジョグ:カラダを前に倒してスーッと進む感覚
「ジョグの場合“カラダを前に倒したら足が前に出て進んじゃった”ぐらいの感覚で楽に走れればOKです。ジョグペースならば歩幅もあまり気にしないでいいでしょう。
そのうえで、一歩ごとに股関節や腸腰筋を使って脚が上がっていて、カラダの真下でしっかり地面を踏みしめることができていれば理想的。これができるようになるにはある程度のエクササイズが必要です」
ラン:跳ねる、引く、引き付ける。この3つが大事
「スピードアップして軽快に走るとなると、前傾姿勢や地面をしっかり踏むといったジョグよりも動きのポイントが多くなります。
地面を踏んだらしっかり蹴ること、腕をしっかり引いて出すこと、そして脚全体をジョギングの時以上に引き付けることでスピードと推進力がつきます。これもいきなり真似するのではなく、エクササイズを続けて動きを習得することで自然に身につきます」
④ 走っている途中でこんなことを意識
走ることは楽しい。でも夢中になっているうちにカラダのバランスが崩れたり、いつの間にかペースが乱れたりすることも。いくつかの要点を意識しておくだけで、長い時間、いいフォームで気持ちよく走れるようになる。
次第にブレる上半身。伸ばしてリセット!
長い時間走っていると、いつの間にか背中が曲がって重心が低くなり、フォームも左右にブレてしまう。そこでオススメなのが、走っている途中の背伸び。走りながら両手を組み、そのまま頭上へ両腕を伸ばして大きく背伸びをしながらしばらく走ってみよう。
丸くなりがちな背すじがピーンと伸び、胸をしっかり張れるため呼吸が楽になっていく。また重心が高くなり歩幅が自然と広がるメリットも。
信号は手前から眺めてスピード調節。ダッシュはNG
街を走ると必ず信号に引っかかる。赤に変わりそうな時はダッシュで渡りがちだが、それを何度も繰り返すとペースが乱れてしまう。
街中では目線を軽く上に向けて走り、先にある信号の様子を確認しておこう。その時点で赤なら普通の速さで走ればちょうどいいタイミングで渡れる。逆に青なら速度を緩めよう。赤信号の途中~青に変わる頃に信号に差し掛かる可能性が高くなり、スムーズに渡れる。
⑤ クールダウンで翌日もカラダスッキリ
走った後は腰のあたりを縦に走る上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉、腸腰筋が硬くなりがち。カラダをしっかり起こして気持ちよく走るために大事な筋肉なので、ストレッチで十分伸ばして柔らかくしておこう。
上半身と下半身のつなぎ目、腸腰筋を伸ばそう
手を組んでしゃがみ、膝を曲げたまま脚を前後に大きく開いて両手を前側の膝に置く。膝が爪先より前に出ないよう注意しながら目線をまっすぐ前に向け、腰をゆっくり落として股関節や脚の付け根あたりを10~15秒かけて伸ばしていく。反対側も同様に。
立ち姿勢から脚を広げてしゃがむのではなく、しゃがんでから脚を広げると膝が前に出にくくなり、しっかり腸腰筋に効かせられる。