週末に運動してもペイできない。「座りすぎ」のリスクを正しく知る
いくら座りすぎって言ったって、週末は運動しているから問題ないでしょ、と他人事のように考えるのは早計。最近の研究で、いくら週末運動しても、座りすぎによる健康リスクは回避できないことがわかってきた。自分には関係ないと思っている人にとって耳が痛くなるような座りすぎの真実、お伝えします。
取材・文/井上健二 イラストレーション/石山好宏 取材協力・監修/岡浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
初出『Tarzan』No.849・2023年1月26日発売
寝そべっているなら大丈夫でしょ
「座りすぎが悪いなら、いっそゴロ寝しちゃえばOKでしょ」とか「ゲーム中も動画再生中も、リクライニングしているから自分に関係ない」なんて屁理屈を捏ねてもダメ。座りすぎ研究は、座っていることを「セデンタリー・ビヘイビア(座位行動)」と呼び、こう定義する。
座位、半臥位、臥位で行われるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動
つまり、起きている間に寝転んだり、リクライニングしたりしても、座っているのと同じなのである。
メッツとは、横になってラクにした状態を1.0メッツとして、その何倍にあたるかで運動強度を示すもの。1.5メッツ以下の行動には、座って行うデスクワーク、テレビや音楽の鑑賞、読書、会話などが入る。
健康にプラスなのは、安静時の3倍以上となる3.0メッツ以上の行動。運動の他、歩くこと、階段の上り下り、掃除や片付けなどの家事が相当する。座りすぎを避け、なるべく3メッツ以上の活動を増やそう。
週末に運動しているから平気でしょ
仕事中はデスクワークメインでほぼ座っているけれど、週2ペースでジムで運動しているから問題ナシ!そう思いたい人もいるだろう。でも、無慈悲に断言しよう。運動は座りすぎの免罪符にならない。
運動不足を専門的に、身体活動不足(フィジカル・インアクティビティ)と呼ぶ。運動などの活動量が、国が定めた基準を満たせない状態だ。
「セデンタリー・ビヘイビアと運動不足は別物。少しくらい活発に運動しても、それ以外の時間ずっと座っていたら、不健康なのです」(早稲田大学の岡浩一朗教授)
座りすぎの死亡リスクを下げるには、1日60〜75分の中強度の運動が求められる。何メッツの運動を何時間したかで表すと、週に35.5メッツ・時だ。
座りすぎの死亡リスクを減らすのに必要な活動量
ジョグ(8メッツ)を30分毎日行っても、28メッツ・時/週。死亡リスクは下げられない。運動不足の人の多くは、座りすぎ。運動不足×座りすぎは最悪だが、たとえ毎日30分運動しても座りすぎの生活をしていたらダメなのだ。
この20年間で座っている時間は40%増えた
時代が便利になるにつれて、私たちの活動量はどんどん減り、代わりに座っている時間が右肩上がりに増えている。下のグラフで示すように、この20年間で比べても、座っている時間は40%以上増えているのだ。
生活様式の変化に伴う座位時間と活動量の変化
スマホが一台あれば、フードデリバリーで食事が済ませられるし、それ以外の必需品もネット通販で玄関先まで届く。面倒な掃除もロボットが代行してくれる世の中になった。
週休2日になり、平日働く時間は増えている。オフィスワーカーの場合、その大半はデスクワーク。日本のビジネスパーソンは、仕事のメールのやり取りに、1日2時間費やすというデータもある。その間、じっと座っているのだ。
平日の業務が増えて疲れが溜まるのか、休日も起きている間の約60%(9時間)は座っているありさま。
今後、ロボット化、AI化、DX化などが一層進むと、座りすぎによる健康被害は、現在より大きくなる恐れも。いまのうちに座りすぎない生活にシフトして習慣化してほしい。
頻繁に立てば座りすぎリスクは避けられる
座っている時間と健康との関わりを調べる際は、1日トータルでどの程度の時間座ったり、寝転んだりしたかが目安となっている。
だが、それ以外にも見逃せないポイントがある。座っている間、途中どんな頻度でブレイクを入れるかで、健康を害するリスクは変わるのだ。
メタボではない430人の働く人を3年間追跡し、メタボの発生率を調べた研究がある。それによると、30分以上連続して座り続ける時間が長い人では、メタボ発生率が最大3倍近くになっていた。
一方、連続して座り続ける時間が30分未満であれば、たとえ座っている時間がトータルで長くなっても、メタボ発生率には有意な差がなかった。
座位行動パターンとメタボ発生リスク
しかも先行研究では、ブレイク後、どんな強度で動いても、得られる健康効果に差はないという。
「そこで、座っている間、少なくとも30分に一度ブレイクする“ブレイク30”を私たちは推奨しています」(岡浩一朗教授)
大事なのは、強度ではなく頻度。ブレイク30生活を今日から始めたい。
コラム:座りすぎはいつから注目されていたのか
70年前の1953年、ロンドンの2階建てバスの運転手と車掌で、心臓発作の発症率と心臓病の死亡率を比べた研究が登場。ともに、1階と2階を上り下りして動き回る車掌のリスクが運転手より低いとわかり、運動の重要性にスポットが当たる。
「その後95年にアメリカで、時間を取って行う運動以外に、日常生活を含むアクティビティ(活動)の総量が健康に影響すると指摘した画期的な身体活動ガイドラインが出ます」
そして2010年代になると、世界中の専門家が身体活動不足と座りすぎを区別するようになり、ここまで見たように座りすぎがもたらす災いが次々と明らかになってきたのだ。