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食事も運動も楽しめるのは腎臓のおかげ。腎臓の知られざる働き

腎臓の知られざる働き

腎臓は大量の血液を濾過して快適な体内環境を保つのに重要な臓器。実は他にも体内のpHを一定に調整したり、エネルギー源である糖質を産生したり、低酸素下に対応するホルモンを分泌するなど様々な役割を担っている。

教えてくれた人:山縣邦弘さん

やまがた・くにひろ/筑波大学医学医療系腎臓内科学教授、日本腎臓学会理事。筑波大学医学専門学群卒業。米国オレゴン大学分子生物学研究所、筑波大学臨床医学系内科助教授などを経て、現職。医学博士。

腎臓がなければ、バナナ1本で死んでしまう?

私たちのカラダは、食べたもので維持される。何も気にせず、毎日違うものを好きに食べているのに、体内環境はちゃんとほぼほぼ一定に保たれている。これはホメオスタシス(恒常性)と呼ばれる。

このホメオスタシスで重要な役目を担っているのが、腎臓

「カラダを作る細胞一つひとつが正常に働く環境作りに欠かせないのが、体内の水分量と電解質のバランス。それを調整するのが、腎臓の大事な働きなのです」(腎臓専門医の山縣邦弘先生)

電解質とは、ナトリウム、リン、カリウム、クロール、カルシウム、マグネシウムという6大ミネラルなどが水に溶け、電気を帯びたもの。筋肉や神経の細胞を正常に動かすには、細胞内外の電解質の濃度が一定である必要がある。

たとえば、腎機能が落ちてカリウムが十分に排泄されなくなり、血中のカリウム濃度(血清カリウム値)が高くなりすぎると、筋力の低下や不整脈が生じる。ひどいケースでは、不整脈から心停止が起こることだって考えられる。運動後に安心してカリウム豊富なバナナが食べられるのも、縁の下の腎臓のおかげなのである。

体液のpHは弱アルカリ性が理想だが、pHの維持も腎臓が担う。

つねに栄養素を代謝している体内では、油断するとpHは酸性に傾きやすい。そこで腎臓は、余分な酸を尿から排泄したり、酸を中和するアルカリ性の重炭酸イオンを放出したりと、あの手この手でpHをキープしているのだ。

腎臓は糖質を作っている

腎臓は糖質を作っている

肝臓と腎臓には共通点がある。内臓で「糖新生」が行えるのは、肝臓と腎臓だけなのだ。糖新生とは、体内で新たに糖質を作り出す仕組み。

血液中の糖質である血糖は、細胞の基本的なエネルギー源。ゆえに血糖値は一定範囲内に保たれる。なかでも、血中で酸素を運ぶ赤血球は、糖質しか利用できない

そこで不足に備え、糖新生で糖質を自前で合成するのだ。肝臓ではおもに乳酸とアラニンから、腎臓はおもに乳酸とグルタミンからそれぞれ糖質を合成する。アラニンもグルタミンもアミノ酸である。

ではなぜ腎臓は糖新生するのか。

「おそらく腎臓自身が、エネルギー源として糖質を大量消費しているからでしょう」(山縣先生)

電解質の調整では、濃度の濃いところから薄いところへ自然に行われる受動拡散のほかに、濃度差に逆らって行われる能動輸送がある。能動輸送には多大なエネルギーが必要。その一部を自前で賄うため、腎臓は糖新生するのだろう。

腎臓は糖代謝にも深く関わる。

腎臓は、尿細管にあるSGLT2などの輸送体により、1日に約180gの糖質(ご飯中盛り3杯分に相当)を再吸収する。糖尿病で血糖が異常に高くなり、腎機能の限界を超えると、尿に糖質(尿糖)が漏れ出る。糖尿病のサインだ。

SGLT2の働きを邪魔するSGLT2阻害薬という糖尿病治療薬は、糖質の再吸収をブロックし、尿に糖質を放出して血糖値を下げてくれる。

血液を作るホルモンを出している

血液を作るホルモンを出している

腎臓はホルモンを作る内分泌器官でもある。ここで注目したいのは、腎臓が作るエリスロポエチン(EPO)というホルモン。

腎臓には血中の酸素濃度をモニタリングするセンサーがあり、酸素不足を感知するとEPOが作られる。EPOは骨の中にある骨髄に働き、酸素を運ぶ赤血球を増やす

「EPOを出す細胞は発生学的に神経系。本来が担う仕事だったのかもしれません」(山縣先生)

EPOに真っ先に目を向けたのは、マラソンや自転車といった持久系スポーツの選手たち。持久系スポーツでは、筋肉に赤血球で酸素を効率的に送り込む心肺機能の優劣が、パフォーマンスを大きく左右する。

EPOで赤血球が増えたら、その分だけ心肺機能もアップすることが期待できるのだ。そこで登場したのが、標高2000m以上で行う高地トレーニング

高地の酸素不足を補うため、腎臓はEPOを多く分泌し、より多くの酸素を運搬する。低酸素下で、EPOを作る遺伝子を活性化するのが、HIF(低酸素誘導因子)。その働きを解明した3人の学者は、2019年にノーベル生理学・医学賞を受けた。

慢性腎臓病(CKD)などで腎機能が落ちるとEPOの量も減り、赤血球が減少して貧血が起きやすい。その治療薬HIF-PH阻害剤は、HIFの分解を抑えてEPOを増やし、貧血を防ぐ。

貧血にならず、マラソンや自転車が楽しめるのは、腎臓が作るホルモンのおかげなのである。

取材・文/井上健二 イラストレーション/市村ゆり 取材協力・監修/山縣邦弘(筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学教授)

初出『Tarzan』No.847・2022年12月15日発売

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