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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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不調、異常が起きていても痛くも痒くもない病気ほど恐ろしいものはない。毎日、物も言わずに働き続ける腎臓は、壊してしまうと不便、不快はもちろん、他の危険きわまる重大疾患を招き寄せる可能性も大ありなのだ。
3大生活習慣病(2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症)ほどの知名度はないが、驚くほど患者数の多い疾患に慢性腎臓病(CKD)がある。
慢性腎臓病(CKD)とは①尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか。特に尿タンパクの存在が重要。②糸球体濾過量(GFR)60mL/分/1.73m2未満。①・②のいずれか、または両方が3か月以上持続する場合を指す(『CKD 診療ガイドライン 2012』)。
重症度は原疾患・GFR区分・タンパク尿区分を合わせたステージで評価する。CKD(慢性腎臓病)の重症度は死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクを緑のステージを基準に、黄→オレンジ→赤の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する。
手元に検査結果の数値を持っている人は、どこに該当するか見ておこう。eGFR(推算糸球体濾過量)は血清クレアチニンの数値さえわかっていれば、日本腎臓学会のホームページで簡単に知ることができる。
腎臓には血液を濾過する糸球体と尿細管がセットになったネフロンが入っている。
血液を元にしてここで尿が作られている。血液はまず糸球体で濾過され、その後尿細管でカラダに必要なものと不要なものに分けられ、体内の老廃物が尿中に排泄される。このネフロンは左右の腎臓に各100万個あるとされてきた(個数に関しては後述)。
何らかの原因で尿にタンパク質が漏れ出たり、ネフロンの働きが低下する病気が慢性腎臓病だ。
重度になると自力ではほぼ老廃物を排泄できず、体外で医療機器によって老廃物を取り除く人工透析などが必要になる。その患者数が増え続けている。
腎臓は限られたスペースに毛細血管が集積している臓器だから、血液の状態や血圧に異常があれば即座に影響を受ける。血糖値が高いままなら糖化が進むし、高血圧が続けば糸球体は傷害される。増え過ぎた脂質も動脈硬化を推し進めてしまう。
だが、病状が進まない限り自覚症状はほとんど出ない。定期健診などで血液検査を受け、クレアチニンの項目にチェックが入って、ようやく判明に至る人は多い。
なお、クレアチニンは筋肉の老廃物で、腎機能の低下に伴い尿中に排泄されにくくなり、血中に増える。腎機能を知るよい指標だ。
ということは、慢性腎臓病に先行して3大生活習慣病が始まっている可能性は十分に考えられる。実際に患者の原疾患を調べてみると、2011年以降は糖尿病性腎症が第1位を続けている。
糸球体は繊細、デリケートな器官だ。一度傷つくと修復されにくいので、早期診断と治療開始が絶対的に必要になる。
だが、いつが早期かは誰にもわからないから、定期健診は必ず受けるべきだ。早期に受診し、腎機能低下をもたらしている原因を突き止め、生活の改善と治療を受ければ、回復できる可能性もある。
ただし、先行している生活習慣病があれば、そちらの管理、治療ももちろん必要になる。慢性腎臓病になったということは、実は既にある程度動脈硬化が進んでいることを意味するからだ。
慢性腎臓病の重症度を見る指標の一つに糸球体濾過量(GFR)というものがある。実際には測定が非常に難しいため、医療現場ではクレアチニンの数値と年齢、性別から割り出す推算糸球体濾過量(eGFR)を代用している。
慢性腎臓病が進んで、この数値が低下していくと、心血管疾患が急激に増える。
慢性腎臓病それ自体ではなく、実は心血管疾患で命を落とす患者が非常に多い。そもそもの引き金になるのは糖尿病で、それが腎臓を痛めつけ、慢性腎臓病を発症すると心血管疾患を招き寄せるという負のスパイラルが垣間見える。
慢性腎臓病になると食塩、タンパク質などに摂取制限を求められることがあるが、いまはまだ健康な人も予防に努めるのであれば、この2つとは付き合い方を考えた方がいいだろう。
ウェイトトレーニングと高タンパク質の食生活を続けていたら、いつの間にかクレアチニン値が高くなっていた、などというのはよくある話。食塩も日本人は基本的に摂取過多だ。1日7~8g程度に抑えたい。
近年、慢性腎臓病の患者は腸内細菌叢の量的・質的なバランスに異常が起きているとする報告があった。その異常が腸管壁に破綻をきたし、菌やその代謝産物などが血中にあふれ出す可能性を多くの研究者が危惧している。
同様に糖尿病患者は歯周病を罹患していることが多い。歯周病で荒廃した歯周ポケットの底は菌の格好の侵入口。菌が血液に侵入する病気を菌血症と呼ぶが、このときに非常に問題視されるのが、悪名高い歯周病菌、P.ジンジバリスが細胞壁の外側に持っているLPS(リポ多糖)というエンドトキシン(内毒素)だ。
これが血流に乗って流れてきて、毛細血管の密集部位である糸球体に辿り着くと一大事なので、胃腸や歯周組織の不調も見逃さず、初期消火に努めるべし。
さて、冒頭でネフロンの数は左右の腎臓に各100万個と書いたが、近年の研究でこれが人種や健康状態によってかなり異なるらしいことがわかってきた。
欧米人は平均各90万個、日本人の健常者が平均64万個で高血圧患者が39万個、慢性腎臓病になると27万個まで下がることがあるというのだ。
アジア人の慢性腎臓病は発症すると進行が早いとする報告があるが、もしかしたら我々は最初からこの病気には分が悪いのかもしれない。タンパク質リッチな豊かな食生活に臓器が対応できていないとしたら、悲しい話だ。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/久野 勉(池袋久野クリニック院長、日本大学医学部兼任講師、医学博士)
初出『Tarzan』No.839・2022年8月10日発売