こんな伸ばし方してない?実は「ダメなストレッチ」11選
自分では伸ばせていると思っていても、実は効いていなかった、むしろ筋トレとして鍛えてしまっていた…など、ストレッチあるあるは存在する。多くのダメストレッチを目撃してきたトレーナーの坂詰真二さんが、なぜダメか、どうしたらOKか、ダメストレッチを徹底添削します。
取材・文/井上健二 イラストレーション/川崎タカオ
初出『Tarzan』No.838・2022年7月21日発売
坂詰真二先生
教えてくれた人
さかづめ・しんじ/NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。近著『いちばん効率がいいすごいジム・トレ』(青春出版社)など多数の著書がある。
目次
ダメ① “イチ・ニー・サン”と後ろから強く押してもらう
床に坐って両手を足先に伸ばす体前屈を、ペアで行うことがある。その際、“イチ・ニー・サン”といった掛け声に合わせながら、パートナーが後ろから、無理やり背中を押していたりすることも。
押してサポートしてもらえたら効果的に思えるけれど、これはやり方によっては注意したいストレッチ。勢いや反動を使うと、刺激が強めのストレッチとなり、痛みを伴ったりとストレスが大きすぎるからだ。
「パートナーには、どこまで伸ばせるかという加減がわからないので、限界を超えるストレッチとなり、筋肉や関節を痛める恐れがあります。セルフでゆっくりカラダを動かして“筋肉の張り”を感じる位置に来たらキープすると、ケガのリスクがなくベターです」
ダメ② 膝を外に出して大腿四頭筋のストレッチ
太腿前側の大腿四頭筋は、重力に対抗して姿勢を保つために、つねに働いている抗重力筋の代表格だ。この四頭筋には、常時負担が加わり続けているから、太腿のトレーニングをしていても・していなくても、いつもストレッチでほぐしておきたいもの。
そこで注意したいのは、膝のポジショニング。座って一方の膝を曲げてから、仰向けに寝ころがるのが四頭筋の定番ストレッチだが、上のイラストのように膝を外側へ開くのはダメ。
「膝に限らず、関節は曲げ伸ばしには結構強いのですが、ねじりにはめっぽう弱い。膝にひねりが入らないように、下のイラストのように横向きに寝て、膝を曲げて後方に引くのがよいでしょう」
大腿四頭筋を伸ばすオススメのストレッチ
爪先を持ち、踵を外側へ開いて大腿四頭筋を伸ばそうとすると、膝がひねられて靱帯などを損傷することも。四頭筋を伸ばすなら、膝をまっすぐ後ろに引いて踵をお尻に近づけよう。立ってやってもいいし、床で横に寝て膝を真後ろに引くのもいい。
ダメ③ 運動前に静的ストレッチをする
テレビなどでたまに、アスリートが競技前に筋肉を静かに伸ばす静的ストレッチをしているシーンを見かける。それを見習い、一般人もトレーニング前に静的ストレッチに励むべきなのだろうか。
「アスリートは、日常生活と競技との強度のギャップが大きすぎるので、それを埋めるために静的ストレッチ、動的に筋肉を動かすダイナミックストレッチ、ジョグ、競技特性に合わせた準備運動などを段階的に行います。
筋肉を緩めていく、通常の静的ストレッチだけ行うのはかえってマイナス。とはいえ移動しながら腕や脚を大きくリズミカルに動かす動的ストレッチも家やジムでは難しい」
そこでおすすめするのが、一度に多くの部位を伸ばす複合ストレッチ。1つのポーズは10秒以内で短時間に。運動前により効果的なのは、アクティブ・アイソレーテッド・ストレッチ=AIS(詳しくはこちらの記事:安全&効果的。いいとこ取りストレッチ 「AIS」って?)
ダメ④ 腕をクロスして三角筋のストレッチ
ストレッチするときには、ターゲットとする筋肉にどんな働きがあるかを知っておくことも大切。筋肉の役割が頭に入っていれば、どの方向に力をかけてやると、緊張して縮んだままの筋肉が伸ばせるか、ハッキリするからだ。
上のイラストのポーズは、腕を手前に引き寄せる肩の三角筋のスタンダードなストレッチ。これでは三角筋の後部しか伸びない。三角筋の機能を踏まえると、もっと効かせる方法がある。
「三角筋は、腕を外側へ広げて外転させる働きがメイン。三角筋を伸ばすには、腕を手前に引き寄せるのではなく、腕を内側へ閉じる内転方向へ力をかけるようにしましょう」
三角筋を伸ばすオススメのストレッチ
腕を手前に引く方法でストレッチをする場合に注意したいのは、ポーズをつくるための筋肉。腕をクロスさせて引っ張ると、上腕の上腕二頭筋の力で三角筋をストレッチすることになる。二頭筋はそれほど力がないので、伸ばしたい腕を手で掴み、よりパワフルな背中の広背筋を活用して引いた方が効果的だ。
ダメ⑤ 伸ばす筋肉を意識する
筋トレでは、鍛えている筋肉を意識するべき。脳と筋肉を結びつける「マインド・マッスル・コネクション(MMC)」のスイッチが入り、筋肥大効果が加速する。ならば、ストレッチでも、ターゲットとしている筋肉を意識した方がベターなのか。
「いいえ。筋肉を意識しすぎると、力が入って伸びにくくなります。力みを解いてリラックスさせた方が伸びやすくなりますから、狙った筋肉を意識するのは逆効果なのです」
だからといって、何も考えないでボーッとやるのはもったいない。
「意識を向けたいのは、筋肉ではなくストレッチのフォームと呼吸。そこに注意して正しく続けていれば、ストレッチの効き目はさらにアップするのです」
ダメ⑥ 膝を床につけずに股関節のストレッチ
日本人は、世界でいちばん坐っている時間が長いとか。坐りっ放しだと硬くなりやすい筋肉の筆頭が、股関節のインナーマッスルである腸腰筋。腸腰筋には、股関節を曲げる働きがあるため、坐っていると縮んだままで硬くなりやすいのだ。
立ち上がり、両脚を大きく前後に開いて膝を曲げると、後ろ脚側の腸腰筋がストレッチされやすい。
「その際、後ろ脚の膝を床から浮かせていると、太腿やお尻に負荷がかかりすぎて、腸腰筋が緩むまで姿勢を保ちにくい。後ろ脚の膝を床につけると腸腰筋がラクに伸ばせます」
腸腰筋を伸ばすオススメのストレッチ
後ろ脚の膝を床につけないポーズは、太腿の筋トレであるフロントランジそのもの。筋肉の負荷が大きすぎて、腸腰筋が十分伸びるまで静止するのは辛い。後ろ脚の膝を床につけて骨盤を前に押し出すと、後ろ脚側の腸腰筋がよく伸びる。
ダメ⑦ 筋トレのセット間インターバルでストレッチ
ジムでマシントレのセット間のインターバルに、静的ストレッチをしている人を見かけることがある。ラットプルダウンの合間に背中の広背筋を伸ばしたり、レッグプレスの合間に太腿の大腿四頭筋を伸ばしたりしているのだ。鍛えている筋肉を労ろうという親心かもしれないが、それは意外にもダメストレッチ。
「セット間に筋肉を伸ばしすぎると、一時的に出力が低下します。すると適切な負荷でトレーニングが行いにくくなるので、筋肥大効果がダウンすることも考えられます」
インターバル中はストレッチに励んだりせず、フォームを確認しつつ、呼吸と心拍数を落ち着かせて、次のセットに備えるのが賢い。
ただ、次の種目に移る前に使った筋肉をストレッチするのは◯。もちろん、筋トレが全部終わってからまとめてストレッチするのも忘れずに。
ダメ⑧ 伸びない方を多めの秒数で行う
筋肉の柔軟性には、左右差があるのが普通。右側は柔らかいけど、左側はかなり硬い…といった弱点は、ストレッチをしているうちになんとなく把握できるだろう。
硬い方を長めにストレッチすれば、左右差の解消に近づけると期待するが、そこにちょっとした落とし穴がある。たとえば静的ストレッチの場合、単純に1回当たりに静止する秒数を長くするのは、NGなのだ。
「秒数が長くなるほど、ストレッチポーズを保つために働く筋肉が、疲れてカラダが緊張します。それを避けるために、1回当たりに静止する秒数は固定して、硬い方だけセット数を増やすようにしてください。休み休み伸ばしているうちに、筋肉の緊張が取れて緩みやすくなります」
たとえば、柔らかい方を2セットで終えるなら、硬い方は筋肉がほぐれるまで3〜4セット続けてみよう。
ダメ⑨ 股割り、180度開脚にこだわる
筋トレマシンで動ける範囲と角度があらかじめ決まっているように、ヒトの関節もそれぞれ動ける範囲と角度が決まっている。それをムリに超えようと試みると、関節まわりの靱帯や腱などを痛めるリスクがある。
股関節の可動域には個人差があるけれど、多くの人にとって股割りや180度開脚は明らかにやりすぎ。
「股割りや180度開脚にこだわりすぎると、股関節がユルくなり、膝がきちんと閉じなくなったりする危険もあります。床に坐って両脚を目一杯開いてみて、股関節が90度開けば可動域はもう十分です」
体操選手や相撲取りのように、競技上どうしても必要なら仕方ないかもしれない。だが、運動選手でもないのに、「今年中に開脚ができるようになりたい!」などと、無謀な目標を立てるのはやめておこう。
ダメ⑩ ストレッチは入浴直後と決める
筋肉は、温まっている状態の方が伸びやすい。筋肉が熱をつくる必要性が低下するので緩むし、筋肉に含まれているコラーゲン線維が柔らかくなることもその一因。
ゆえに入浴後のぽかぽかタイムのストレッチが推奨されるけど、それ以外にもストレッチに向くゴールデンタイムがある。それは、掃除などの家事や通勤でカラダを動かした後。
「こうしたタイミングでは、入浴後よりもむしろ深部の体温も筋肉の温度も上がり、ストレッチに適したコンディションが整っています」
そもそも運動エネルギーのうち、筋肉を動かすのに使われるのは全体の20%程度だといわれている。残り80%は熱に変わり、深部体温や筋肉の温度を上げるのだ。入浴直後のみと限定せず、カラダを動かした後こそストレッチにトライしたい。
ダメ⑪ 肘を曲げて大胸筋のストレッチ
毎日のように長時間のデスクワークを続けているビジネスパーソンたちには、胸の大胸筋のストレッチが欠かせない。大胸筋が硬くなると肩が前に出て、背中が丸まって猫背になり、背中が固まって辛い肩こりが起こりやすいからだ。
仕事の合間に大胸筋をストレッチで緩め、猫背をリセットするなら、肘を伸ばして行うのがポイント。前述のように関節はひねりに弱く、肘を曲げると肩関節を痛めやすい。
「肩こりを改善したいなら、お腹の腹直筋のストレッチもお忘れなく。腹直筋が硬いと、大胸筋をほぐしても背中が丸まりやすいのです」
大胸筋を伸ばすオススメのストレッチ
大胸筋をストレスなく伸ばしたいなら、肘を伸ばしたままで片手を壁について、胸を壁と反対側へ向けるようにする。大胸筋は大きな筋肉なので、壁で手をつく位置を上下にずらすと、満遍なくストレッチできて、肩こりの予防と緩和に効果的だ。