筋トレで認知症予防? 要注目のホルモン最新トピック7選
21世紀に突入して以降、ホルモン研究の幅は広がり、より深い領域を目指す挑戦が始まっている。太古の昔から生物に備わっているホルモンだが、その全貌は未だ明らかになっていない。最新トピックから壮大なホルモンの世界を覗いてみよう。
取材・文/石飛カノ 撮影/内田紘倫 ヘア&メイク/村田真弓 監修・取材協力/市原淳弘(東京女子医科大学内科学講座教授・基幹分野長)
初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売
目次
① 未知なるホルモンが数千種類以上存在
つい数十年前まではホルモンの種類は数十種類であろうといわれていた。ところが現在では少なくとも100種類以上はあるという見解が常識になっている。きっかけは、90年代にヒトゲノム計画で遺伝子DNAの構造が明らかにされたこと。
「これによって遺伝子レベルでのホルモン受容体の存在が次々に明らかにされたのです。受容体は見つかっているけれど、そこに結合するホルモンが見つからない。これらを親が見つからない子ども、という意味でオーファン(孤児)受容体と呼びます。
現在、見つかっているホルモンは100種類以上ですが、それ以外に数百から数千の未発見のホルモンがあると考えられます」(東京女子医科大学・市原淳弘教授)
② 全身すべての組織からホルモンが分泌されている?
内分泌系の学問の世界では長年、ホルモンの分泌器官は「内分泌腺」であると考えられてきた。後に詳しく述べるが、主だった内分泌腺は脳の視床下部や下垂体、あるいは甲状腺や副腎、精巣や卵巣といった部位。これらの器官のメインの仕事はホルモンを作って分泌すること。
「ところが最近の研究の進歩で、内分泌腺だけでなく心臓や肝臓、胃や腸、筋肉、脂肪などからもホルモンが分泌されていることが分かりました。
血液を送り出したり消化吸収をする臓器が、それと同時にホルモンも出していることが分かったのです。おそらく我々が知らないだけで全身のあらゆる部位からホルモンは分泌されているかもしれません」
③ 愛情ホルモン、オキシトシンは皮膚からも分泌されている?
別名「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシン。妊婦が出産する際に脳から大量に分泌され、母性や幸福感をもたらすというのが、その所以。誰かとハグしたりスキンシップをすることでもオキシトシンは分泌され、思いやりや絆を大切にする気持ちが育まれることが知られている。
そのオキシトシンが肌からも分泌されることが、近年明らかになった(資生堂とマサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所の共同研究による)。肌に軽い刺激を与えると肌由来のオキシトシンが分泌され、表皮の再生を促すという。
洗顔時はゴシゴシではなく優しくタッチすることでオキシトシンの美肌作用に期待できるという話。
④ ビタミンDは実はホルモン? その働きとは
きのこや魚に含まれるビタミンD。でもこれらの食品を口にせずともヒトはビタミンDを自前で作り出すことができる。日光の紫外線を浴びるとコレステロールを材料にして皮膚内でビタミンDが作られる。
これが肝臓や腎臓に運ばれて活性型ビタミンDとなり、腸管からのカルシウム吸収を促してくれるのだ。となると、ビタミンDはただのビタミンではなくホルモン?
「受容体に作用しないので厳密な意味ではホルモンとは言えません。ただ、ビタミンDは骨の中の遺伝子レベルに働き、オステオカルシンというホルモンの分泌を促します。この作用に関してはホルモンとして捉えてもいいかもしれません」
⑤ 注目のマイオカインが認知機能の低下を防ぐ
運動することで筋肉の収縮・伸展を繰り返す。すると筋肉からさまざまなホルモンが分泌される。こうした事実が分かってきたのが2000年代以降のこと。これらのホルモンの総称をマイオカインという。
マイオカインのうちのIL-6やアイリシンというホルモンは肥満や糖尿病の予防、SPARCは大腸がんの予防、IGF-1には認知症の予防効果が期待できるという具合。
「なかでも期待したいのは認知症予防効果です。マイオカインを抽出した薬ができれば認知機能の維持に繫がります。IGF-1以外のマイオカインが関与している可能性もあるので研究の進展が期待されています」
⑥ 女性ホルモン様物質を活用できない女性が増えている?
本物のホルモン専用の受容体にくっついて作用を発揮するのが「ホルモン様物質」と呼ばれるもの。食品添加物や殺虫剤などに含まれるホルモン様物質は不妊症やがんなどのリスクを高めるといわれている。
これらを悪いホルモン様物質とすると、カラダにいい働きをするホルモン様物質の代表格が大豆イソフラボン。こちらは女性ホルモンに似た作用をもたらす。
ただし、その作用が期待できるのは大豆イソフラボンの成分から腸内細菌が作り出すエクオールという物質。日本人でエクオールを作る腸内細菌を持っているのは約50%。若い世代ではこれが約20%に低下しているそう。日本人よ、もっと大豆を食べましょう。
⑦ ハリウッドセレブ御用達? 脂肪減&うつ改善のホルモンとは
骨や筋肉を成長させる成長ホルモンは成長期にはなくてはならない大事なホルモン。でも、すでに成長しきった大人にとってもすごい効果が期待できるそう。
「微量の成長ホルモンが分泌されるだけで筋肉がつきやすくなり、脂肪分解が促され、うつ傾向が解消されることが分かっています。実際、中年になってお腹に脂肪が溜まって気分が晴れないという人に成長ホルモンを投与すると、お腹が凹んで性格もポジティブになります」
ハリウッドセレブの中には成長ホルモンを投与している人もいるという噂。ただし月に30万円以上と費用は高額で、がんのリスクを高めるというデメリットの報告もあり。