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体操メダリスト語る「肩甲骨と股関節が演技を左右する」

力強さとしなやかさどちらも求められる体操選手は、常に柔軟性と筋力という相反する2つのテーマを追求する必要がある。そんな彼らにとって肩甲骨と股関節はまさに動きの要。2021年、東京オリンピック体操競技個人総合金メダルの橋本大輝選手と、2004年アテネ・オリンピック団体総合の金メダリストであり、現在、順天堂大学で橋本選手を指導する冨田洋之さんに肩甲骨と股関節をテーマに話を聞いた。

教えてくれた人
橋本大輝

橋本大輝(はしもと・だいき)/2001年生まれ。千葉県の船橋市立船橋高等学校から順天堂大学へ。21年、東京オリンピックの体操競技で史上最年少で個人総合優勝。鉄棒でも優勝。10月の世界選手権では個人総合、鉄棒ともに2位。 AFP/アフロ

冨田洋之

冨田洋之(とみた・ひろゆき)/1980年生まれ。順天堂大学准教授。体操競技部コーチ。2004年、アテネ・オリンピック団体総合優勝、08年の北京では2位になる。07年の世界選手権では日本人初のロンジン・エレガンス賞を受賞。 アフロ

肩甲骨の可動域を広げる。そのための胸椎ストレッチ

橋本には今、大きなテーマにしていることがある。それが“肩甲骨の動き”だ。「可動域をもうひとつ広げたい」と本人は言う。そのために行っているのが胸椎のストレッチだ。

「肩甲骨は動くのですが、胸椎が動かないから、背中が連動しない。胸椎の柔軟性を高めることで、滑らかに動かせるようにしたいんです」

体操選手にとって肩甲骨は非常に重要だ。たとえば、手で押すという動作ひとつをとっても、肩甲骨から押さないと手首、肘、の負担が大きくなり、ケガをすることもある。

肩甲骨が無理なく動くようになれば、動作がラクになるし、効率もよくなる」と、橋本。一方、肩甲骨まわりの筋力も、選手にとっては必要不可欠である。冨田さんはこう語る。

「つり輪などでは、力技と呼ばれる、肩甲骨まわりの筋肉を反応させ、静止する技がある。そのためには筋力が必要。ただ、背中の筋肉が大きくなると、それが邪魔して腕を後ろに回す動きがしにくくなる。

あん馬で脚を閉じて旋回するとき、カラダを一直線にしないといけないのですが、カラダがあん馬の前に来ると腕は当然後方に残る。肩甲骨まわりの筋肉が大きい選手は、この動きが得意ではありません。固定させるための筋肉が動きを制限してしまうんです」

矛盾する2つのテーマを同時に追いかける。異次元の動きを追求する体操選手にとっての宿命だ。

股関節が硬いと腰を痛めることもある

では、股関節はどうであろうか。橋本は、こんな答えを返してくれた。

「股関節や骨盤が硬いと腰痛に繫がることもあるので、柔軟性は高めておきたいです。また、開脚旋回して倒立する技などでは、股関節が柔らかく使えないと、カラダを回すことが難しくなる。柔軟性があれば、一連の動きを滑らかに行うことができるんです。だから僕も練習前には、床に180度開脚して座り、骨盤から上体を左、右に向けるストレッチをルーティンにしているんです」

冨田さんは股関節の柔軟性がもっとも重要になってくる種目もあん馬だと言う。肩甲骨まわりの筋肉が大きくなって、腕を後ろに回せない選手は、股関節の柔らかさによって、この種目に対応しているらしい。

「閉脚での回旋は、カラダが一直線になって、腕が後ろに来たときに失敗しやすい。しかし、開脚の回旋では、脚を開いたときには腰が曲がるので、あん馬の上に上体を保持したまま、脚だけ回せばいい。つまり、カラダが大きく前後しないんです。だから、肩甲骨まわりの筋肉が大きい選手は、脚を開いた技を多く入れるような演技構成になるんです」

もうひとつ、股関節には大事な働きがある。それが着地だ。冨田さんはアテネ・オリンピックの最終種目・鉄棒で伸身の新月面から見事に着地を決めて、団体総合金メダルを確定させた。しかし、橋本にはひとつの苦い思い出がある。昨年、北九州市で行われた世界選手権で、わずかな着地ミスで優勝を逃してしまったのである。

「着地1歩の差というのを経験しました。演技自体の内容はよくなってきているので、最後の着地というところにも重点を置いていきたい。そうすれば、さらにレベルアップできるし、それが戦っていくうえでは必要だと思っています。具体的に言えば、着地のときに曲げた股関節に体幹を乗せるようなイメージ。オリジナルで作った器具の上で着地の姿勢を取って片足を浮かせたりとか、そんなトレーニングをやっています」

冨田さんは、自分の現役時代より「橋本の着地のほうがずっとうまい」と、笑う。そのうえで、これからの橋本の課題を端的に解説してくれた。それが、戦うために必要な体力だ。

「練習では着地はほぼ止められています。ただ、演技構成が本当に難しいので、体力的な部分で最後にズレが出ることがある。最後までしっかりと動かし切れる体力が、今後のテーマになってくると思っています」

演技中はカラダをダイナミックに動かし、着地時にはカラダを安定させる。体操選手にとって股関節は要のような役割を果たしているのだ。

難度の高い技と美しさ。筋力と柔軟性は比例しない

「体操競技をやっていて一番必要なのは、難しいことを美しく見せることなんです。足先まで伸びて、カラダの線がまっすぐになると、それだけで見栄えがいい。だから、練習ではそれを意識してやっています。Dスコア(演技の難しさなど構成内容の評価)よりもEスコア(演技の出来栄えの評価)を重視しています」

これが、橋本が目指している体操だ。だが、この話もまた矛盾する2つのテーマを含んでいるのだ。現在の体操の状況を、冨田さんが語る。

「女子の選手が特徴的ですが、アメリカの選手の演技はパワフルな難度の高い技に長けている。一方、ロシア、中国は美しさで魅了する傾向にある。両極になるのは理由があって、筋力と柔軟性は比例しないんです。なぜなら、筋や腱が柔らかいことは、力の発揮が弱くなることに繫がるから。柔軟性が高い選手は筋肉の反応が遅くて、最大筋力も低くなってしまうのです」

橋本の場合は、この2つのバランスが非常によいと、冨田さんは続ける。力の発揮は決して弱くなく、柔軟性もある。空中感覚にも優れ、技への感性も鋭い。オールマイティで高いレベルにあるため、効率よくケガをしないで動くことができる

さらに、自分が補わなくてはいけない部分も理解している。股関節なら、左右どちらが硬いかを把握して重点的にクリアしていったり、肩の動きも甘い部分があれば補ったり、と。常に自分の状態を心掛けているからこそ、今に繫がってきているのだ。そして、その道は未来へと着実に延びていくはずだ。橋本は言う。

「技術面や精神面にも、まだまだ足りない部分があります。それを、24年に開催されるパリ・オリンピックに向けて成長させたい。そして、まずはオリンピック前に開催される世界選手権で、団体(総合)で金メダルを獲って、パリでも団体と個人総合で世界一になりたいです。そのために必要なのは、日々の練習を積み重ねていくことだと思っています」

橋本選手の柔軟ストレッチ

肩甲骨をより自由に! 胸椎のストレッチ

胸椎のストレッチ

肩甲骨の可動域を広げるための胸椎のストレッチ。四つん這いになって、ゆっくりと背中を反らせて、丸める。繰り返したら、今度は片側の腕を伸ばして反対側の脇の下を通し、肩を床に押し付けて、胸椎を回旋させる。

練習前に必ず行う、股関節のストレッチ

股関節のストレッチ

脚を180度開いて床に座る。ここから、骨盤から上体を左に向ける。しばらく静止して、次は右へと動かす。毎日の練習前のルーティンだ。股関節の柔軟性を高めるだけではなく、“自分の今日の調子”を確認することもできる。

バランス力を鍛え、着地の精度を上げる

バランス力を鍛えるトレーニング

足を置いた板の裏の中央には、縦方向に半円柱の棒が取り付けられている。上に乗ると、板は左右にグラグラと揺れる。両足を左右の板に乗せ、股関節を折って着地の姿勢を作り、バランスを取りながら、ゆっくりと片足を浮かせる。

INFORMATION
自分を操る 冨田洋之 著 産業編集センター 刊

自分を操る』(冨田洋之著)/カラダを華麗に操るエリートは、考えもスマートだ。モチベーションの維持や目標の設定の仕方など自分の力の引き出し方を学べる。1,650円、産業編集センター刊。

取材・文/鈴木一朗 撮影/内田紘倫

初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売

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