自宅でできる「腸内細菌検査」。何がわかる? どう活用する?
便、すなわちウンチを採って、腸内細菌の種類や数を調べる腸内細菌検査が、技術の進化によって手軽にできるようになってきた。何がわかり、どのように活用すればいいのか。
取材・文/井上健二 撮影/山本嵩 イラストレーション/松本セイジ
初出『Tarzan』No.817・2021年8月26日発売
腸内細菌検査とは?
体脂肪率や筋肉量が一人ひとり違うように、お腹の中でどの腸内細菌がどのような組成で存在しているかも、個人差が大きい。
体脂肪率や筋肉量に関しては、ホームユースの体組成計でも、かなり詳しくわかるようになってきた。一方で腸内環境を明らかにしてくれるのが、腸内細菌検査(腸内フローラ検査)。
かつては一般人が自らの腸内細菌のバランスを知ることは難しかったが、最近になって自宅で便を採り、そのサンプルを郵送すれば解析してもらえるサービスが登場してきた。この他、人間ドックや健康診断のオプションとして、医療機関を介して分析してもらう方法もある。
そもそも便でなぜ腸内細菌の様子がわかるかというと、便=食べカスではないから。便の70〜80%は水分だが、それ以外の固形物の3分の1ほどは腸内細菌が占めており、1gの便に数百億個もの菌が含まれる。
ちなみに、残りの半分が食べカスであり、もう半分は脱落した腸管の細胞やその代謝物だ。この便に含まれている腸内細菌(死んでいる菌もいれば、生きている菌もいる)の状態を調べるのが、腸内細菌検査なのである。
「私たちがサービスを本格的に開始したのは2016年からですが、これまでに3万人以上の方々にご利用いただいています。健康のために、自分の腸内細菌の様子をチェックしたいと考える方は、年々増えてきています」(腸内細菌検査サービスを提供しているサイキンソー取締役CSOの竹田綾さん)
検査で何がわかる?
腸内細菌検査で何がどこまでわかるのか。前述の〈サイキンソー〉のサービスを例に取って紹介しよう。
検査では、「門」のレベルで、どんなタイプの腸内細菌がいるかという組成を知ることができる。
細菌を含む生物は多くのレベルで分類されているが、「門」はそのうち上から2番目のカテゴリー。ヨーグルトなどの乳製品では、もっとも細かく「種」まで分類しているものもあるが、まずは「門」レベルで俯瞰して評価することが大切なのだ。
さらに、各菌の特徴により、多様性、短鎖脂肪酸、腸管免疫、口腔常在菌という4つの指標から、A〜Eの5段階で腸内環境を評価する。
「私たちには、検査時のアンケートなどで健康と判断した約5000人から許可を得て作った独自のデータベースがあります。それと比較して、腸内環境を判定しています。
菌数が多くて多様性が高いほど、また短鎖脂肪酸を作る菌が多いほど、腸内環境は良好。短鎖脂肪酸のなかでも、酪酸は腸内の免疫担当細胞を活性化する働きがあり、それらから腸管免疫を評価します」
では、口にいる口腔常在菌まで調べるのは、なぜなのだろう。
「口腔常在菌は、唾液と一緒に飲み込んでも胃酸で死ぬので、腸管まで届かないはず。それが腸内に一定数以上いる場合、胃腸のバリア機能などに問題がある可能性もあります」
どうやって分析している?
ひと昔前は、腸内細菌を知るには、便が含む菌を培養するほかなかった。だが、80年代に生物が共通して持つ遺伝子、リボソームRNA(rRNA)の核酸塩基の配列で、腸内細菌が特定できるようになる。核酸塩基は、遺伝情報を伝える基本単位だ。
続いて2005年頃、ヒトの全遺伝情報(ヒトゲノム)を解読する国際プロジェクトのため、核酸塩基を高速解析できる新兵器である次世代シークエンサーが登場。こうした新技術の組み合わせにより、腸内細菌の分析はより確実&手軽になった。
集めた便から腸内細菌を調べる第一歩は、腸内細菌に特有のrRNAをコードするDNA領域(遺伝子)を探し出し、分析を効率化するため、その部分を増幅する。用いられるのは、コロナ禍で有名になったPCRという方法だ。そしていよいよ核酸塩基の配列を読む。
「核酸塩基に蛍光色を付け、光を当てて発光するたびに撮影。その写真を500枚ほど重ね合わせると遺伝子配列がわかり、腸内細菌のデータベースに照会します。すると、どの菌がどの程度いるかわかります」
一人ずつ調べようとするとコストがかかるので、実際は200人ほどの検体を混ぜて一度に調べるとか。そう聞くと取り違えないかと不安になるが、事前に個人を特定するIDデータを、rRNAの端にタグ付けするので、一人ひとりの腸内細菌が個別にわかるのだ。
どうやって活用すればいい?
体重や体脂肪率がちょっとしたことで変わるように、腸内細菌の組成もつねに変化する。体重や体脂肪率を左右するのは運動や食事といった生活習慣だが、同じように腸内細菌も生活習慣の影響を受ける。
なかでもその変化を大きく促すのが、食事。具体的には、ヨーグルトなどでビフィズス菌などの有用菌を取り込むプロバイオティクスや、腸内細菌が好む食物繊維などを摂るプレバイオティクスである。
だが、どんな食事で腸内細菌の組成がどう変わるかについては、個人差が大きい。トレーニングやダイエットの効果の表れ方が、人によって異なるのと同じなのである。
トレーニングやダイエットでは、体重や体脂肪率や筋肉量の変化を見ながら、柔軟に軌道修正を行う。腸内環境に関しては、多様性を高め、短鎖脂肪酸を作る良い菌を増やすために必要なプロバイオティクスやプレバイオティクスを見極めるのに役立つのが、腸内細菌検査というワケ。
「サイキンソーでは、腸内環境別に、ビフィズス菌などのプロバイオティクスと、ビタミン類やミネラル類を成分として含むサプリメントを提供するサービスも行っています」
プロバイオティクスやプレバイオティクスをいろいろ試し、定期的な腸内細菌検査で多様性の度合いや良い菌の増え具合をモニタリングして、自分にピッタリ合う食生活を探ろう。