注目すべきは肩甲骨と背骨。
筋トレではついつい筋肉ばかりに目が行ってしまう。しかし、上半身トレで改めて大切にしたいのは、上半身の筋肉が付いている骨格。具体的には、背骨(脊柱)と肩甲骨だ。背骨が横から見て緩やかなS字カーブを描き、肋骨などと作る胸郭に沿って肩甲骨が滑らかに動けるかどうかが、姿勢と体型を決めている。
でも、リモートワークが増えて坐っている時間が長くなると、猫背が常態化。運動不足で上半身をダイナミックに動かすチャンスが激減し、背骨も肩甲骨も不自然に乱れる。
「背骨のアライメント(連なり)が崩れたり、肩甲骨の位置がズレたりしたまま鍛えると、姿勢がアンバランスになり、上半身の見栄えが悪くなる恐れがあります」(フィジカルトレーナーの白戸拓也さん)
そこで背骨と肩甲骨を「①柔軟性を高める⇒②固定する⇒③可動性を高める⇒④分離と協同を促す」という4つのステップでリセットする。まずは、各ステップのベーシック種目にトライ。目的を踏まえながら、アレンジ種目も試してみよう。
背骨と肩甲骨を整える4つのステップ
- STEP① 柔軟性を高める
- STEP② 固定する
- STEP③ 可動性を高める
- STEP④ 分離と協同を促す
筋トレのオフ日:4ステップのベーシック種目を1つずつ行う。
筋トレ日:筋トレ前のウォームアップとしてステップ1のベーシック種目を行い、筋トレ後のクールダウンとしてステップ3のベーシック種目を行う。
STEP① 柔軟性を高める
背骨と肩甲骨をリセットするために、初めに取り組みたいのは柔軟性の回復。
デスクワークが多く四六時中前屈みだと、背骨も肩甲骨も固まり、動きが悪くなる。すると僧帽筋上部や大胸筋などが硬くなり、それと反対の働きがある首の前側や僧帽筋中部・下部が弱くなる。これをアッパー・クロスド・シンドローム(UCS=上部交差性症候群)と呼ぶ。
UCSから脱するために行いたいのは、胸と肩甲骨を柔らかくするストレッチ。ことに猫背がひどいタイプは、背中と肩甲骨のストレッチを。肩こりに左右差がある人は胸椎のストレッチに励もう。
ベーシック種目
胸と肩甲骨のストレッチ(5回×1〜2セット)
- フォームローラー(またはワインボトル1本にバスタオルを巻いたもの)に頭からお尻までつけて仰向けになる。
- 両脚の膝を立て、腰幅に開く。
- 両腕を体側で「ハ」の字に開き、手のひらを上に向け、手の甲と肘を床につける。
- 脱力して手の甲と肘を床ですりながら、肩のラインまで動かす。
- 両腕を肩幅で床と垂直に伸ばし、手のひらを向かい合わせる。
- 指先を天井に突き刺すように、肩を引き上げる。脱力して肩を下げ、①に戻る。
アレンジ種目
STEP② 固定する
背骨と肩甲骨を柔らかく解凍しても、それをキープするには筋力がいる。それを養うのが、ステップ2の狙い。ベーシック種目では、プランクの姿勢を保ちつつ、腕を動かす。腕の動きに釣られて、姿勢が崩れないように注意。
ベンチプレスなど重たいウェイトで胸を鍛える人は、アレンジ種目のディップ・ブリッジで胸をしっかり張る。これを怠ると背中が丸まり、UCSに逆戻りしかねない。猫背が気になり背すじを伸ばしても、長続きしない人はプローン・ショルダーローテーションを。胸を反らしたままで肩甲骨から腕を大きく回そう。
ベーシック種目
プランク・ウィズ・アームサークル(左右各10回×1〜2セット)
- 両肘を肩の真下につき、床でうつ伏せになる。前腕を床につけて拳を握る。
- 両脚を腰幅に開き、爪先を立てる。
- 腰を床から持ち上げ、頭から踵まで一枚の板のように保つ。
- ③の姿勢を保ったまま、左手を前の床に伸ばす。
- 半円を描くように、左手を腰まで動かす。
- 左手で右の肩をタッチ。
- ③に戻る。
*左右を変えて同様に行う。
アレンジ種目
STEP③ 可動性を高める
アスリートが筋トレで筋肉を大きくしすぎるのはタブー視されるが、筋肉がパフォーマンスを邪魔するわけではない。
「筋トレでは狙った部位以外は動かさないように固めます。そのままだと全身のモビリティ(可動性)が落ちるので、パフォーマンス低下につながるのです」
機能を落とさないため、上半身トレ後にもベーシック種目でモビリティUP。アレンジ種目のショルダー・ローテーションはランナーに最適。腕の振りが大きくなり、ペースアップできる。ゴルフなどのスイング動作の改善には、胸郭をひねるソラシック・ツイストが効く。
ベーシック種目
チェスト・アイソレーション(10回×1〜2セット)
- 椅子にミニボール(または丸めたクッション)を置いて浅く坐る。
- 両脚を肩幅に開き、両手を太腿の付け根に置く。
- 腰を反らしながら、胸を開いて前に突き出す。
- 腰を丸めながら、胸を閉じて後ろに引き込む。
アレンジ種目
STEP④ 分離と協同を促す
筋トレでは、動かしたい骨・関節と、固定したい骨・関節を分離し、同じタイミングで使って協同させることが重要。それが最終ステップのテーマである。
ベーシック種目のベントオーバー・ロウでは、腰椎以下を固め、肩甲骨で上半身をスムーズに動かす。重たいウェイトを持つ前に自体重でやろう。アレンジ種目のスーパーマン・ロウは、片脚でベントオーバー・ロウを。水泳のように軸を崩さず、腕をダイナミックに動かす。スクワット・リーチとドエルツイストでは下半身を固定し、上半身で大きなパワーが出せるように整える。
ベーシック種目
ベントオーバー・ロウ(10回×1〜2セット)
- 両足を腰幅に開いて立ち、膝と股関節を曲げ、上体を床と平行に深く倒す。
- まっすぐ立っているときと同じように腰椎のアーチを保ち、腰にペットボトルを置く。
- 両腕を肩の真下に下げ、両手のひらを向かい合わせる。
- ペットボトルを落とさないように、腰から下の姿勢を保ったまま、両肘を天井へ突き刺すように左右の肩甲骨を寄せ、元に戻す。
アレンジ種目
4ステップのベーシック種目をひと通り行えば、背骨と肩甲骨はニュートラルに整う。10分ほどで終わるから、オフ日のお風呂上がりなどのコンディショニングに取り入れたい。
上半身トレの前にはステップ1のベーシック種目で柔軟性を回復し、姿勢をリセット。筋トレがより正確なフォームで効率的に行える。筋トレ後にはステップ3のベーシック種目で可動性を高めると、体型だけではなく上半身の機能性もアップする。