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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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骨の量が減り、もろくなる骨粗鬆症にほとんど自覚症状はなく、いきなりの骨折で発覚することも! 骨粗鬆症の患者は他の基礎疾患を合併していることも多く、生活習慣病として予防・対処すべきなのだ。
高齢化の影響もあってか、骨粗鬆症が増え続けている。近年の報告では男性患者が約300万人、女性患者は約980万人で計1,280万人。予備軍も含めれば約2,000万人という声もあり、21世紀の国民病と呼ばれる。
女性に骨粗鬆症が多いのは、更年期を迎えると女性ホルモン、エストロゲンが激減するため。
エストロゲンは骨を生み出し、成長させる骨芽細胞の働きを促す一方、骨を壊し、吸収する破骨細胞の働きを抑える性質を持つ。だから、エストロゲンが減ると骨は壊され、吸収されがちとなり、骨量は減っていく。
だが、実は男性の体内にも少ないながらエストロゲンはあって、加齢とともに減少するため、中高年の男性にも骨粗鬆症となる人は現れる。大腿骨近位部(骨盤に近い上部)の骨折件数の年次推移を見ても、確実に女性の後を追っている。
骨粗鬆症に自覚症状はほとんどないが、高齢者が骨折すると予後が非常によくない。大腿骨近位部骨折の場合、回復後に反対側の大腿骨も折れてしまうケースが多い。また、骨折が契機と思われる1年以内の死亡率は平均10%ほどにも上る。
とはいえ、エストロゲンの激減以外にも影響する因子はありそうだ。男性患者の47.1%は他に先行する疾患を抱えていたという報告がある(日本骨粗鬆症学会2003年報告)。生活習慣病の多くは骨粗鬆症の重症化を招くようなのだ。
たとえば、高血圧を招く一因となるペプチド、アンジオテンシンⅡは骨を作る骨芽細胞を介して、骨を壊す破骨細胞を活性化するという報告がある。
糖尿病患者の体内ではインスリン抵抗性が高じ、高血糖の状態になると尿量が増える。これに伴いカルシウムの排泄も増えるから、同様に骨からのカルシウム流失を招くのではないかと危惧する研究者もいる。
生活習慣病の背後には往々にして運動不足が潜む。運動を怠り、運動による衝撃が骨に伝わらないと、骨を構成する細胞のうち最大多数を占める骨細胞は、スクレロスチンという糖タンパク質を作り始める。
この物質は骨の形成を抑制し、骨折のリスクを高めることがわかってきた。それどころか、運動をする、しない以前に、内臓脂肪の蓄積自体がスクレロスチンの増加に関係しそうな事例も報告されている。
反対に、運動量の多い生活は骨に適度な刺激を与える。この刺激は骨芽細胞を活性化し、オステオカルシンというホルモンの産生と分泌を促すこともわかってきた。
オステオカルシンは膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促し、糖代謝を改善することを皮切りに、認知機能を改善したり、肝機能を向上したり、動脈硬化を予防するなど、多くの期待が集まっている物質だ。
さて、ここまでは主に骨量の減少による骨粗鬆症に関して説明してきたが、実は骨量が減らなくても骨強度の低下が問題になる場合もある。たとえば糖尿病患者は思いのほか骨量が維持されていても、少々の衝撃で骨折に至ることがある。
糖尿病は骨の成分、コラーゲン組織に糖化をもたらすからだ。同様に慢性腎臓病の患者は血中に動脈硬化因子、ホモシステインが増えることがある。この物質も糖化をもたらすとされる。どちらも骨の量ではなく、骨の質を劣化させるのだ。
骨粗鬆症の予防は骨折が顔を出す年代になってからでは手遅れだ。成長期を終えたすべての人が、骨量の減少や骨質の劣化を最小限に抑えるため、生活の改善に即座に取り組むべきだ。骨粗鬆症の予防は、なってしまう前、現役世代の課題なのだ。
それには長らく日本人の食事では不足しがちだと指摘されてきた、骨の形成に欠かせないカルシウムとビタミンDの補給を手始めに、運動習慣の確立も喫緊の課題となる。
既に触れたように骨に刺激、衝撃が加わるような跳躍動作、踏み込み動作のある運動でなくても、筋肉の伸縮さえ伴えば荷重は必ず骨にかかる。種目にとらわれず、楽しく続けられるものを探そう。
そして、不安のある人は早めに整形外科で相談するのがお勧めだ。いまでは骨粗鬆症には優れた薬がいくつもあるが、早期発見・早期治療であるほど治療成績はよくなる。
ただし、薬物療法で取り戻せる骨の質は、若い時の骨の質と一緒ではない。だからこそ、進行してからの治療よりも、いい骨がまだたくさん残っているうちからの早期治療が望ましいのだ。
下のセルフチェックでわが身を振り返ろう。
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取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/金谷幸一(金谷整形外科院長、医学博士、日本骨粗鬆症学会評議員・認定医)
初出『Tarzan』No.801・2020年12月17日発売