「骨の老化は思ったより早く生じます。骨量のピークは腰椎で20歳前後、大腿骨は30代から減少していき、45歳以降は男性でも年に約2%ずつ骨密度が減っていきます」
と言うのは骨粗鬆症のオーソリティ、太田博明先生。骨粗鬆症とは骨の密度がスカスカになり骨折しやすくなる病気。骨密度がピーク時の7割以下で診断される。それ、高齢女性の話でしょ? 自分には無関係、と思った男性諸君。人ごとではない。男性には男性の、「新型骨粗鬆症」というリスクがあるからだ。
一見、頑健そうな骨は日々、再生されている。
まず、そもそもの骨の成り立ちをおさらいしよう。骨を形づくっているのはカルシウムとコラーゲン。建物でいえばコラーゲンは鉄筋、カルシウムはコンクリート。これを「骨基質」と「骨塩」という。
骨を構成する要素
- 骨細胞:骨の細胞全体の約9割を占める、骨代謝の司令塔。
- 破骨細胞:骨の細胞全体の約9%。骨を溶かして壊すのが役割。
- 骨芽細胞:骨の細胞全体の約1%。新しい骨を作り出すのが役割。
骨はカルシウムとコラーゲンの「基質」と複合的材料からなる。骨組織は古くなると壊され、新たに作り出される。この代謝を担うのが破骨細胞と骨芽細胞だ。
骨組織は一見盤石なようだが、一定サイクルで古いものが壊され、新しいものに生まれ変わっている。こちらは文字通り、「骨代謝」と呼ばれるサイクル。で、骨代謝を促しているのが3つの細胞、「骨細胞」「破骨細胞」「骨芽細胞」だ。
骨代謝の流れ
- 骨吸収(約4週間):破骨細胞が骨の表面にくっついて酸や酵素を出し、古いカルシウムとコラーゲンを溶かして血液中に吸収させる。
- 骨形成(約4か月):骨吸収によって削り取られた部分に骨芽細胞が集まり、血液中のコラーゲンやカルシウムを利用して新たな骨を作る。
- 休止期:骨をこれ以上作り出さなくていい状況では、骨細胞が骨形成を止める。骨芽細胞の一部は骨細胞になり、残りは骨の表面で休止する。
破骨細胞が古いカルシウムやコラーゲンを溶かして血液中に放出する(骨吸収)と、今度は骨芽細胞が血液中のカルシウムやコラーゲンを材料に新たな骨を作る(骨形成)。このバランスをコントロールしているのが骨細胞。こうして若者なら約2年、高齢者なら約5年で全身の骨が全取っ替えされる。
この骨代謝のバランスが崩れ、壊される量が新たに作られる量を上回ると、骨粗鬆症に陥るというわけ。考えられる主な原因は極端なダイエット、カルシウム不足、女性の場合であれば女性ホルモンの急激な減少などなどだ。
メタボで骨質が劣化。骨折しやすい骨に。
さて、気になる「新型骨粗鬆症」の話である。
「一般的な骨粗鬆症は骨密度の低下ですが、新型骨粗鬆症は骨の質が劣化するというものです。コラーゲンはクロスリンクという架橋を形づくり、ほどよくしなることで外から加わる衝撃を和らげています。ところが糖尿病などの生活習慣病では糖とタンパク質がくっついた終末糖化産物(AGE)が生じて、コラーゲン架橋を錆びさせてしまうのです」
本来、しなやかなはずのコラーゲン架橋が弾力を失い、質が劣化して骨折しやすくなる。これが新型骨粗鬆症の正体だ。30歳を越えてお腹が出てきたり血液検査にひっかかっている男性、ある日手首をポキッと骨折したり気づかないうちに背骨が圧迫骨折を起こして身長が縮む、なんてことにもなりかねないのだ。
関節に出やすいダメージ
- 膝の変形:膝の痛みは二足歩行のヒトの宿命。変形性膝関節症という疾患も。
- 股関節の変形:加齢によって股関節の軟骨が摩耗して変形や痛みが生じることも。
- 四十肩、五十肩:正式名は肩関節周囲炎。こちらも加齢による肩関節組織の炎症。
- 脊柱の圧迫:「いつの間にか骨折」という脊柱の骨折では身長が2cm以上縮む。
対策は1に栄養補給、2に振動刺激の運動。
こうした骨の量や質の低下を防ぐために重要なのは、やはり栄養素の補給。骨形成のために必要な3大栄養素はタンパク質、カルシウム、そしてカルシウムの吸収を促すビタミンDだ。タンパク質は肉や魚、カルシウムは乳製品、ビタミンDは青魚に豊富に含まれている。
「とくにビタミンDは日本人の8割に不足しています。ビタミンDは栄養補給とともに紫外線を浴びることで活性化するので、日差しの強い時間、お昼から2時くらいの間に外に出て日光を浴びることをおすすめします」
また、骨形成をサポートするお助け栄養素はビタミンK。こちらはブロッコリーや納豆に豊富なのでこまめに食卓に取り入れたい。
骨づくりの3大栄養素
- タンパク質:骨の骨組みに当たるコラーゲンの材料。不足すると骨が脆くなる。
- カルシウム:骨の外壁のコンクリートに当たるのがカルシウム。乳製品からの吸収率が高い。
- ビタミンD:カルシウムの吸収を促す。青魚などに豊富で、紫外線を浴びることで体内で作られる。
さらに、骨形成を促すうえで必要不可欠の条件が運動。
「垂直荷重方向の刺激が必要です。振動刺激を骨細胞がセンサーして骨芽細胞に骨を作るよう指令を出すからです。とくにコロナ禍での自粛生活では骨代謝のバランスが狂いがちなので、振動刺激を入れるような運動を取り入れることが重要になってきます」
そこで、おすすめしたいのが、いつでもどこでも手軽に行える「踵落とし」。下の写真のように2秒に1回、踵を引き上げてストンと落とすだけ。ながら運動として、ぜひ、日々の生活に取り入れてほしい。
基本の踵落とし(2秒に1回、目標1日50回)
骨の量や質の低下は、骨の健康だけでなく関節の機能にも関わってくる。膝や股関節の痛みや変形、四十肩や五十肩、脊椎の圧迫骨折や脊柱管狭窄症。40歳を越えて、これからどんどんリスクが増すこれらの関節のトラブルにも繫がる可能性が高い。今こそ骨活のスタートを。
骨の健康度チェック
- 極端な食事制限によるダイエットをしたことがある。
- 乳製品全般をあまり口にしない。
- 青魚が苦手だ。
- アルコールを毎日のように飲む。
- コーヒーを1日10杯以上飲む。
- 学生時代、運動部に所属したことがない。
- ここ数年、運動不足気味だ。
- 日光にあまり当たる機会がない。
- 最近、身長が低くなった。
- 背中が丸くなったと人から指摘されたことがある。
当てはまる項目がいくつある?
- 0個…一応安全圏だが、40代以降、油断は禁物。
- 1〜3個…骨の老化の入り口。引き返すなら今。
- 4〜6個…すでに骨の老化が始まっている恐れあり。
- 7個以上…かなり骨の老化が進んでいる可能性が高い。