正式名称は「肩関節周囲炎」。
それはある日突然やってくる。何気ない、いつもの動作をしようとして、動き始めた途端、肩に激痛が走り悶絶する。これこそ推定患者数が約600万人とも目される四十肩、正式名称は肩関節周囲炎だ(以下、四十肩と表記)。
四十肩といっても、もちろん40代限定ではない。50代で発症した人は五十肩と呼ぶだろうが、起きている現象は同じ。残念なことに近年は患者の若年化が進み、20代、30代にさえ顔を出し始めているという。
なぜ四十肩は起こるのか。
今年は特に屋外でカラダを動かす機会に恵まれず、凝ったままの肩に不安を感じている人も多いのではないだろうか? そもそも肩関節は奇妙な関節だ。他の関節と異なり、下から支える部位がない。
上腕骨は肩甲骨の関節窩という窪みからぶら下がっているだけ。脱臼すると困るから、関節は関節包で覆われ、骨同士は靱帯でしっかりつなぎ留められ、上をインナーマッスルが走っている。
このインナーマッスルが加齢の影響による退行変性で機能低下を起こすと、三角筋などを代表とするアウターマッスルとのバランスが崩れ、関節内でブレが生じることになる。そしてある日、本人にもはっきりしないきっかけで関節内に微小な傷ができ、炎症が始まる。
炎症が始まると免疫細胞は間髪を入れず反応し、なかには炎症を重症化させる物質や発痛物質を産生するものまでやってきて、肩は負のスパイラルに陥ってしまう。
痛くて、とてもではないが肩を動かせない急性期の2~3週間が過ぎると、痛みは少し引くものの、肩が思うように回らない慢性期が始まる。炎症後の関節包は治癒過程において線維化したり肥厚し、拘縮も生じて機能がさらに低下し、手を上げられない、後ろに手を回せない、そんな中高年が出来上がる。
以上でご理解いただけるように、四十肩の原因は実はあまりはっきりしていないのだ。ただし、姿勢が悪く肩こり持ちで、肩に炎症を起こしやすい人はハイリスクと考えられる。
四十肩に関わるリスク因子。
インナーマッスルの端は腱だが、ここはそもそも血流の乏しい部位なので、毛細血管を収縮させる喫煙も危険因子。糖尿病を抱えていると靱帯や腱のコラーゲンの糖化に拍車がかかり、関節の動きを担保する伸縮性を損なうので、これもまたリスク因子となる。
また、各種不定愁訴に悩まされがちな更年期の女性は苦痛を感じやすく、同年代の男性に比べ関節に関する訴えも多い。
専門医が診察しても器質的な異常はまったく見当たらないケースもあるという。エビデンスは確認されていないものの、肩の痛みには精神的ストレスが上流にある可能性も捨てきれない。というのも、こうした疑いが強い患者に、抗うつ薬を処方するとよく効くことがあるというのだ。どうやら肩はナイーブで、脳の影響を受けやすい関節のようだ。
症状の似た疾患やケガに注意。
ここで注意しないといけないのは、肩に問題があるのではなく、自覚のないままに進行している胃腸障害や肺がん、心筋梗塞などのシグナルを肩の痛みとして誤解する放散痛という生理現象があること。そもそも痛みは放置するべきものではない。痛みが強くなってきたり、夜間に痛んだり、肩の動きに制限が出てくるようなら早めに受診しておこう。
投薬、注射などで炎症が鎮まったら、動きを取り戻すリハビリと取り組む。よく効くメニューは無数にあるが、ほんの一例を紹介しておこう。これを日ごろから習慣化すると予防につながる可能性がある。痛まない範囲でリズミカルに動かすことが、肩を長持ちさせるコツだ。
ところで、四十肩に症状が酷似している腱板断裂というケガがある。ただの炎症か断裂しているのか、医師でも判別は難しいという。四十肩と診断がついて通院、リハビリに励んでも、回復がはかばかしくなければ、この可能性が考えられる。
断裂は自然治癒しないし、使い続けると部分断裂が完全断裂に至ったり断裂が拡大することもある。こうなると手術が必要になる可能性もあり、回復に長期を要しかねない。早めに肩関節専門医に相談しよう。