女性の「更年期症状」を和らげる、大事な知識と方法
加齢によって、女性のカラダはどう変化するのか。更年期症状を和らげる方法を、女性ホルモンと加齢の仕組みから学びます。産婦人科医の高尾美穂先生にお聞きしました。
取材・文/黒澤祐美 撮影/山城健朗 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/大谷亮治 <br /> イラストレーション/平野瑞恵、金安亮 取材協力/高尾美穂(産婦人科医・イーク表参道副院長)
初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売
目次
女性ホルモン量は、30代後半から減少します。
30代後半頃から経血量が少なくなったような。これってもしかして病気のサイン!?
まず、知っておきたいのは、女性の美容と健康を司る女性ホルモンは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の大きく2つに分かれること。
「エストロゲンの分泌量は、20〜35歳ぐらいまでがピーク。そこからは緩やかに下り、閉経前にガクッと減ります。エストロゲンが減ると自ずとプロゲステロンも減り、経血量も少なくなる。加齢に伴う普通の変化だと思ってください」(高尾美穂・産婦人科医、イーク表参道副院長)
経血量の減少と同時期に、月経周期も短くなることがわかっている。
「排卵日から次の生理までの期間=プロゲステロンの分泌期間は14日間と一定していますが、30代後半になるとこの日数が減り、生理周期が短くなります。これも女性ホルモンの分泌量が減ることで起きるごく自然な現象なので、心配する必要はありません。
不安要素である子宮筋腫や内膜症が疑われる人は、経血量が多いことがほとんど。逆に経血の量が少ないなら、病気につながるケースはほぼないと考えていいでしょう」
更年期、更年期症状、更年期障害は全部、違います。
「更年期」というとイライラやホットフラッシュといった症状を連想しがちだが、実際は「思春期」や「性成熟期」と同じように、その世代を表す総称のこと。
更年期は”閉経の前後5年の約10年間の期間”を指すため、女性たちは皆、自分でも気づかないうちに突入していることになる。
「更年期の中で起こる、カラダの火照り、手足の冷え、不眠、動悸といった症状を”更年期症状”といい、更年期女性の55%が感じているといわれています」
「更年期症状は200種類近くあり、人によって出る症状も違えば、重症度もまちまち。治療をしなければ生活が困難であるほど重度の”更年期障害”である人は、全体の約30%になります」
更年期=嫌なものというイメージが強いが、更年期、更年期症状、更年期障害の3つはまったくの別物であることを覚えておきたい。
更年期症状の引き金になるのは?
「エストロゲンを分泌しなさい」という指令が視床下部から出ると、その後下垂体→卵巣の順に送られ、卵巣がエストロゲンを出すというのが通常の流れ。
しかし更年期は、視床下部や下垂体がいくら指令を出しても卵巣がエストロゲンを作ることができず、そのネガティブフィードバックを受けた視床下部がパニックに陥ってしまう。
その結果、自律神経の調整がうまくいかなくなり、心臓を打つ回数が増える(動悸)、汗や体温のコントロール機能が壊れる(ホットフラッシュ)、といった症状を引き起こす。これが更年期症状だ。
「エストロゲンと副交感神経の状態には直接的な関連があることがわかっています。つまり、エストロゲンが分泌されなくなるということは、副交感神経を優位にする能力が落ちるということ。閉経後は緊張感が高い状態が続き、リラックスしにくいカラダになるのはこのためです」
40代でも更年期はやってくる。
女性の人生の中には、閉経後と同じようにエストロゲンがなくなる経験をするタイミングがもう1か所ある。産後だ。
通常は卵巣がエストロゲンを産生するが、妊娠中だけは胎盤がエストロゲンを作っている。赤ん坊が産まれた直後に胎盤がカラダの外へ出ると、それまでたくさんあったエストロゲンがほぼゼロの状態に。そこから生理が戻るまでは、エストロゲンなしで過ごす期間が続く。
「最近では40歳代で妊娠・出産をする人が増えています。しかしエストロゲンが多く分泌される25〜35歳に比べてカラダの回復は遅く、生理が再開しないまま閉経するケースも稀にあります
その場合、閉経の平均年齢である50〜51歳と比べて10年も長くエストロゲンがない時期を過ごすことになる。すると自律神経が乱れ、うつ状態に陥ることも。生理がないことをラクとせず、精神的異常を感じたら医師に相談を」
女性ホルモンの急激な減少には「ホルモン補充療法」。
年齢による女性ホルモンの低下は自然の摂理ではあるけれど、カラダが慣れるまではどうしても辛い。
そこで少なくなったホルモンを薬で補充し、症状を緩和しようというのが「ホルモン補充療法」だ。発汗や火照りといった代表的な症状であれば、1か月で90%が改善するという。
更年期症状のホルモン補充療法は内服薬がスタンダードだったが、最近では貼るタイプやジェル状の塗るタイプといった経皮吸収型が増えている。保険適用で費用は1,000〜2,000円。
閉経から年数が経つと血栓のリスクが上がるため、治療を希望する場合は閉経から数年以内に受けることをおすすめする。
エストロゲンと似た作用を持つ 「エクオール」も。
大豆製品が更年期症状の緩和に効果的といわれる所以は、大豆イソフラボンが腸の中で代謝されて作り出されるエクオールという物質が、エストロゲンに似た作用を持つため。
しかし、いくら大豆を食べても腸内環境によりエクオールに変換できない人もいる。
自分がエクオールを作り出せるかは、市販のキットで簡単にチェックすることが可能。もしエクオールを作れない体質の場合、サプリメントでエクオールを補充するという選択肢も。
ホルモン補充療法に比べて緩やかだが、3か月で約80%の人が更年期症状を改善したというデータもあるほど効果は高い。
漢方や大豆食品を意識的に摂る。
更年期症状の緩和に効果的といわれているのが、漢方だ。とはいえ漢方の種類は莫大で、人によって合うものが変わってくる。漢方専門クリニックに通って相談をするか、まずは数種類の生薬が組み合わさった市販の漢方から気軽に試してみるのもいいだろう。
普段の食生活でできることは「植物エストロゲン」とも呼ばれる「大豆イソフラボン」を含む大豆製品を積極的に食べること。一度に量を食べるよりは、納豆、豆乳、豆腐などを普段の食事に追加し、コンスタントに摂ることが大切になる。
ただし、なかには大豆の栄養分を代謝できない体質の人がいる。まず自分の状態を把握しよう。
副交感神経優位になる「マイツール」のすすめ。
エストロゲンの低下に伴い、カラダは副交感神経が優位になりにくい状態になる。この事実を受け入れ、自分に合うリラックス方法を身につけておくことが大切。「これがあるから大丈夫」といったお守り代わりになり、感情をコントロールしやすくなる。
【自律神経を整えるヨガの一例】
たとえば、副交感神経が刺激されると科学的根拠が出ている音楽、アロマ、写経、塗り絵などはどうだろう。動いた後にリラックスした状態がしばらく続くといわれているヨガもおすすめだ。
さらに手軽なのが「呼吸」。人は息を吐くときに副交感神経が優位になるため、長く吐く呼吸を意識するだけでも気持ちが落ち着いてくるはず。