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タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
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健康によかれと思って頑張っていても、その方向がとんちんかんだと、苦労は多いのに効果はさっぱり。どころか、むしろ悪化するばかり…、なんてことに。今回は納豆やヨーグルト、野菜など、特定の食材にハマって摂りすぎている、そんな間違った「食習慣」について。
腸内環境命! 悪玉菌対策で肉は最小限。 タンパク質源は納豆に限る。今日も朝からぐるぐる、ね〜ばねば。快食、快便のはずだけど、近頃お腹の調子がちょっと変だな。
「好きだからといって納豆の食べ過ぎはいけません。善玉菌のサポート役とはいえ、納豆菌は非常に強いので、食べ過ぎから腸内細菌叢のバランスが崩れ、体調を崩す人もいます」(管理栄養士の美才治真澄さん)
なので、さすがに3食納豆はお勧めできない。ちなみに大豆、および大豆製品にはイソフラボンが含まれる。
これは抗酸化物質としてありがたがられる一方で、女性ホルモン様物質として作用し、摂り過ぎると女性に婦人科系疾患をもたらす恐れがある。イソフラボンには摂取目安量があり、1日にせいぜい70~75mgという数値が一般的。だが、納豆1パックに含まれる量が35mgほど。
日常食としては1日1パックが妥当な数だろう。納豆さえ食べれば免疫力が上がって、病魔退散、無敵の健康体になれるといった話は都市伝説。鵜呑みにはしないことだ。
「こうしたナントカ式最強の食事術みたいな海外のベストセラー本が、毎年のように翻訳、出版され、人気を博してきましたが、ああいう本の多くは著者が試してうまくいったポイントだけを書き立てています」
一時グルテンフリーに走ったセレブもいたが、グルテンをやめて調子がよくなった人は、セリアック病などの自己免疫疾患を持っていただけ。
野菜スープががんに効くというナゾのようなブームもあったが、この手の話を盲信し、まっとうな治療の機会を逸するのは痛恨の極みである。
フードファディズム(特定の食物への熱狂的な過大評価)はエセ科学。客観的判断力を失わないようにしよう。
こちらもまた腸内環境命のヨーグルト教だよ。生きて腸まで届く乳酸菌にビフィズス菌入りの人気商品をまとめ買いでドカ食いの日々。 そろそろウンコもいいにおいになってくるかな。
食の欧米化とは聞き慣れた話題だが、戦後の日本で消費量が増えたのは肉類だけでなく、乳および乳製品。
「ヨーグルトの大きなパックは大体400ml入りです。あれを一度に食べる人もいるそうですが、これでは明らかに食べ過ぎです」(美才治さん)
牛乳ほどではないにせよ、ヨーグルトには動物性脂肪が2%前後含まれる。飲み過ぎれば牛乳だって太るのだから、口当たりが爽やかでもヨーグルトの爆食いは肥満の一因になりうる。
「400mL食べるとすると、この1食だけで1日に摂っても差し障りのない動物性脂肪の約半量ぐらいを摂ったことになります」
このドカ食いの弊害を最小限に抑えようと悪あがきすると、本来の食事が超低脂質・低栄養のメニューに陥る。
「メーカーも大量摂取は決して勧めていないはずです。ただ、ヨーグルトは日本人に不足しがちなカルシウムの補給源としては優秀です。といっても、平均的な日本人の食生活ならば、小魚などとも組み合わせて、不足分を補うための牛乳は1日にコップ1杯(約200mL)が目安量であるように、ヨーグルトも個包装の1カップ(150mL前後)が目安量です」
また、ヨーグルトの食べ過ぎを避けるには、かさ増しも兼ねて、栄養を強化したシリアル類、特にブランの製品を加えて食べごたえと満足感をアップするといい。キウイなどの果物を添えるとビタミンCの補給にもなって、栄養バランスがさらに整うだろう。
モデルがサラダを作る映像を見て、にわかベジタリアンに。 根菜さえ避ければいいでしょ? 今日はサラダ、明日はミネストローネ。あれ、何だかお腹が痛い…。
いかなる心理で野菜の爆食にいたるかは不明ながら、極端な偏食が摂食障害のカテゴリーに近いことは間違いない。
「若い女性が野菜“ばかり”食べに陥ると、タンパク質どころかビタミンもミネラルも、満遍なく不足になる可能性があります」(美才治さん)
野菜だからビタミンは十分に摂れると考えがちだが、しっかり摂れるのはビタミンCぐらい。タンパク質が不足しているということは、タンパク質源に含まれがちな他のビタミン、特にビタミンB群やミネラル類も不足しやすいということになる。
ビーガンや生食主義のロウフード派は、とりわけビタミンB12とビタミンDが不足しがちだという。
「野菜ばかりの食事では満足が得にくいので、調理ではつい油脂や食塩で味を補いがちになって、油脂、食塩摂取過多の弊害を招く可能性もあります」
しかも、ホウレンソウなど種類によってはシュウ酸が多く、摂り過ぎると尿路結石の一因となることがある。
シュウ酸は通常量ならば消化管内でカルシウムと結合して不溶化すると、便と一緒にそのまま排泄される。だが、カルシウムの量を大幅に上回るシュウ酸が一気に摂り込まれると、シュウ酸のまま吸収されがちで、血中をさまよった挙げ句、尿路内でカルシウムと結合し、石となって尿路を塞ぎ、排尿を困難にする。これが激痛をもたらす尿路結石の発症メカニズムだ。
また、農作物自身が代謝できる以上の窒素系肥料の大盤振る舞いを受けると、硝酸の残留が考えられる。食品添加物としての硝酸は1日許容摂取量(ADI)が設定されている物質で、実は日本人の摂取量は全世代にわたってこの許容摂取量の100%を余裕で上回っている。
ADIは添加物に対して設定されているので、野菜由来の硝酸摂取量と直接比較するのは適当ではないが、既に100%を超えているのだから、さらに上積みをする必要はないだろう。
「シュウ酸は色の濃い葉物野菜に多く、おなじみのところではケールや大麦若葉に多いので、これが主原料の青汁の飲み過ぎも感心できません」
野菜さえ食べていれば健康的という漠然としたイメージに流されると、意外なトラブルを招くこともあるのだ。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/美才治真澄(管理栄養士、フードコーディネーター)
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売