新型コロナウイルス&インフルエンザ対策のウソ・ホント
さまざまな新型コロナウイルス&インフルエンザ対策があるが、実際、効果はいかほどか。専門家への取材を元に、16の対策を○(マル)、×(バツ)、△(サンカク)でジャッジ!
取材・文/井上健二 イラストレーション/岡田丈
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売
目次
- [△]PCR検査を自費でも受ける。
- [×]早朝の公園ランでもマスクを必ず着ける。
- [△]呼吸がラクなマスクを選んでずっと着けている。
- [○]Go Toキャンペーンで旅行を楽しむ。
- [×]スーパーで買った食べ物は水洗いしてから冷蔵庫にしまう。
- [△]うちに帰ったらまずシャワーを浴びてから、リビングへ行く。
- [△]例年は打っていないが、今年はインフルエンザワクチンを打つ。
- [△]念のためにBCGを打とうと思う。
- [×]コロナワクチンができたら、真っ先に打とうと思う。
- [○]恒例の年末のクラシックコンサートを聴きに行くつもりだ。
- [×]忘年会はリモートではなく宴会場で無礼講でやろうと思う。
- [△]正月は田舎の高齢の両親のところに帰省するつもりだ。
- [△]外出先から帰るたびに、うがい薬で念入りにうがいする。
- [×]手洗いをした後、念のためアルコール消毒もする。
- [×]コロナがコワいから、大嫌いな納豆を多めに食べている。
- [×]ジムはコワいから、退会しようと思う。
[△]PCR検査を自費でも受ける。
新型コロナ感染を疑い、自費でPCR検査を受ける人もいる。症状がある人や濃厚接触者は実質無料だが、無症状だと3万〜4万円かかる。
「感染してもPCR検査で陽性になる確率は最初の3日はほぼゼロ、4〜5日で30〜40%、6日以降で70%になり、症状が出ます。PCR検査は発熱などの症状がある場合、それが新型コロナによるものかを判定するために行うもの。無症状の人がやるべきものではありません」(大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授)
本当は陽性なのに陰性と出ることもあるし、検査の翌日感染することだってある。無闇に怖がらず、症状が出てから検査すればいいのだ。
[×]早朝の公園ランでもマスクを必ず着ける。
ランナーもマスクをすべしという意見は根強い。マスクで走るのが嫌でランに消極的になった人も多い。
「ランに限らず、屋外で新型コロナに感染したという報告はない。ランニングにマスクは不要です」(国際医療福祉大学の高橋泰教授)
日本臨床スポーツ医学会と日本臨床運動療法学会も、すれ違う程度では感染するリスクは低いため、屋外運動時のマスクや口鼻を覆うものの着用は基本的に推奨していない。ポイントは3密になりそうな場所と時間帯を避けること。ランで快適なのは、笑顔で話せるニコニコペースだが、並走してノーマスクでおしゃべりすると感染リスクが上がる。当分は極力一人で黙って走ろう。
[△]呼吸がラクなマスクを選んでずっと着けている。
新型コロナでもインフルでも、対策の基本はやはりマスク。飛沫感染のリスクが高い大きな唾液の粒の飛散が避けられるし、他人の飛沫を吸い込むこともブロックしてくれる。繰り返し使えて、呼吸もラクな布マスクを使う人も増えてきたが、布マスクは不織布マスクよりも飛沫を防ぎにくいと危惧する人もいる。
「マスクは大きな飛沫の飛散を防ぐことが肝心。送風・換気があれば、布マスクの網目から漏れる細かい飛沫を怖がりすぎる必要はありません」(京都大学の宮沢孝幸准教授)
声を出すと飛沫は飛ぶから、マスク越しでも大声は避ける。屋外のオープンスペースはもちろん、室内でも距離を取って黙っているなら、マスクを一時的に外しても構わない。
[○]Go Toキャンペーンで旅行を楽しむ。
最大で国内旅行代金の50%相当額を国が支援する「Go To トラベル」キャンペーン。コロナ禍が直撃した観光業の活性化のために行われている事業だが、人びとの往来が活発になると、新型コロナが全国へ広がるきっかけになるのではないかと危惧している人も少なくない。
「単に人が移動するだけでは感染は増えない。マスク、手洗い、3密の回避、換気・通風を心掛けるという4本柱を守っている限り、旅行によって感染が拡大するリスクは低いと考えられます」(宮坂先生)
旅先では気が緩みそうになるが、ノーマスクでどんちゃん騒ぎをするような愚行さえ控えていれば、旅行は以前のように楽しめるのだ。
[×]スーパーで買った食べ物は水洗いしてから冷蔵庫にしまう。
新型コロナはプラスチック上では3日間生きるとか。そう聞くと買ったモノの表面にもウイルスがいそうでコワくなる。でも、大勢の感染者が徘徊してウイルスを撒き散らさない限り、食品などにウイルスが潜む確率は低いし、感染が成立するほどのウイルスがいる確率はより低い。
「新型コロナウイルスと結合するACE2受容体は肺に多いのですが、口腔や鼻腔にも存在します。そこにウイルスが大量に暴露すると接触感染が起こり得ますが、その危険性は当初心配されていたよりずっと低いとわかりました」(宮坂先生)
ストレスなくできるならいいが、苦痛で仕方ないなら水洗いは続けなくてもよさそう。
[△]うちに帰ったらまずシャワーを浴びてから、リビングへ行く。
花粉が飛ぶ時期の花粉症対策は、外出後は服に付いた花粉を払って室内に入り、シャワーを浴びて髪や顔などに付着している花粉を洗い流すのが正解。新型コロナやインフルにも同様の対策を取った方がいい?
花粉と違い、ウイルスは屋外をプカプカ漂うわけではない。ただ3密の屋内でウイルスを浴びている場合もあるから、スムーズな動線が確保できるなら、シャワーを浴びて、着替えてリビングへ入るのが理想。これからの季節は露出している部分は少ないから、外出から戻ったら、とりあえず洗面台で手と顔を洗うだけでも感染リスクはだいぶ減らせる。ちなみに服に付着したウイルスは、普通に洗濯するだけで死滅する。
[△]例年は打っていないが、今年はインフルエンザワクチンを打つ。
新型コロナにワクチンはまだないが、インフルにはワクチンがあり、今季も予防接種が始まった。インフルワクチンは打った方がいいのか。
「そもそもインフルエンザワクチンの有効性は低いので、私自身は打つつもりはありません。しかし、インフルエンザワクチンの接種により、新型コロナの罹患リスクが減らせる可能性はあります」(宮沢先生)
インフルエンザワクチンで、インフルの感染や重症化を抑えることはできるとしても、新型コロナとは無関係なはずだが…。
「ワクチンには、効き目を高めるためのアジュバントという成分が含まれています。このアジュバントが自然免疫を高めるため、コロナに罹りにくくなることも考えられます」
[△]念のためにBCGを打とうと思う。
日本のように、結核のワクチンであるBCGを子どもの頃に打つ国は、コロナの重症化率や死亡率が総じて低い。BCGには結核用の抗体を作るだけではなく、自然免疫を高める作用があり、それがコロナにも有効という仮説を唱える専門家もいる。
「ギリシャも日本と同様に子どもの頃にBCGを打ちますが、ギリシャで高齢者にBCGを再接種する実験を行ったところ、コロナと同じウイルス性呼吸器感染症に罹るリスクが下げられたそうです」(宮坂先生)
BCGは子どもへの接種が最優先されるため、コロナを怖がる大人が横取りして打つのは反則。でも、本当にBCGが有効なら、大人用に増産したうえで接種を考えるべきかも。
[×]コロナワクチンができたら、真っ先に打とうと思う。
新型コロナワクチン開発競争が熾烈だ。できたら打ちたくなるが…。
「ワクチン開発には早くて4年、通常は10〜15年かかる。たとえ1年でワクチンができたとしても、深刻な副反応(副作用)が起こる恐れがあります。ワクチンは、健康な人が接種するもの。新型コロナ感染者の約8割は重症化しないとわかっているのに、ワクチンを打って健康を害したら本末転倒です」(宮坂先生)
さらにワクチンを打てば、コロナに絶対罹らないわけではない。インフルエンザワクチンでは、有効率は50%。コロナでも有効率が50%を超えれば上出来だろう。ならば感染防止対策を徹底し、数年後に確実なワクチンが出るまで待つのが得策。
[○]恒例の年末のクラシックコンサートを聴きに行くつもりだ。
新型コロナのダメージがゼロだった業界は少ないが、とくに深刻なのが音楽業界。3密になりやすく飛沫などによる感染リスクが高いという理由から、ライブコンサートを自由に開けない状況が続く。リスナー側も、一刻も早くライブで音楽を聴きたくてウズウズしている頃。
「以前のようにマスクをせず、大声で盛り上がるようなライブコンサートを行うのはさすがに難しい。マスクをしたまま、大声を出さず、拍手で応援するようなスタイルなら、ライブ会場での感染リスクはかなり減らせるでしょう」(宮沢先生)
誰も騒がず静かに鑑賞するクラシックコンサート、演劇や映画などはマスク着用で出掛ければ問題ナシ。
[×]忘年会はリモートではなく宴会場で無礼講でやろうと思う。
リモート飲み会もとっくに飽きた頃。冬に第3波到来も懸念されるが、「Go To イート」キャンペーンを活用して、忘年会くらいはリアルでやりたくなるのが人情だろう。
「通常の食事に関しては、互いの皿と皿がくっつかない程度に距離を十分に取り、大きな飛沫が飛ばないように会話するように気を付ければ、大丈夫だと思っています。しかし、大人数が無礼講で大騒ぎするような忘年会では、大きな飛沫が飛びやすくなり、感染リスクが高まります」(宮沢先生)
シラフだと守れる感染対策も、お酒が入って酔っぱらうと、ユルユルになりがち。忘年会は飲みすぎに留意し、少人数でお行儀よくやろう。
[△]正月は田舎の高齢の両親のところに帰省するつもりだ。
新型コロナの犠牲者の多くは、高齢者。感染しても無症状の若者が無節操に飛沫を拡散させると、周囲の高齢者などに感染を広げる危ないスプレッダーになりかねない。心配になるのは帰省。無症状でも、実家に住む高齢の家族にうつすかもしれないと思うと、年末年始の帰省にも二の足を踏む。この分だとコロナ完全終息まで、リモート帰省を続けるほかに手はないのだろうか。
「マスクを着け、飛沫が飛ぶような大声で会話しない、食事の場所と時間をズラすといった注意事項を守れば、帰省しても高齢者への感染を防ぐことはできます」(宮沢先生)
重要なのは、自らがコロナ陽性者かもという意識で行動することだ。
[△]外出先から帰るたびに、うがい薬で念入りにうがいする。
この夏、大阪府の吉村知事が新型コロナにポビドンヨード液を含むうがい薬が効くのではないかと発言してバズり、ドラッグストアからうがい薬が消えるという現象が起こった。日本では風邪やインフルの予防に、マスクや手洗いと並んでうがいが長年推奨されてきたが、厚生労働省は新型コロナ対策としてうがいを強く薦めているわけではない。
京都大学の研究チームが2005年に発表した論文では、うがいが風邪に効く可能性が示唆されている。しかしこの論文では、ポビドンヨード液を含むうがい薬より、ただの水でうがいした方がより有効だった。口腔を清潔にすると肺炎予防にも有効だから、気になる人は歯磨きと水うがいをセットでやっておこう。
[×]手洗いをした後、念のためアルコール消毒もする。
手洗いの徹底もニューノーマルの基本。念には念を入れたくなる。
「細菌は1個でも手に残っていると、そこから増殖して感染する恐れがあります。一方、ウイルスはある程度の数が残っていないと感染は成立しないので、手洗いかアルコール消毒かのどちらかだけでOK。飛沫に触れた手で目や口や鼻に触ると接触感染するとされますが、そこを触るのはおもに指先ですから、指先をアルコール消毒するだけでも接触感染リスクは減らせます」(宮沢先生)
手が洗えないときは、あちこちに置かれるようになった消毒用アルコールを手指に吹きかけ、こすり合わせよう。それでウイルス量は感染成立量以下に減る。
[×]コロナがコワいから、大嫌いな納豆を多めに食べている。
納豆は発酵食品かつ良質なタンパク源。納豆のような発酵食品を食べると腸内環境が良くなり、免疫力向上も期待できる。こうした背景から、「納豆が新型コロナに効く」という噂がネット上で広まったが、これは単なるデマ。
コロナに納豆が効くというデータはない。大嫌いなのにデマに惑わされて納豆をしぶしぶ食べていたら、ストレスが募る。ストレスは免疫力を下げるから、納豆嫌いにはむしろ逆効果かもしれない。食事に関しては、過食で太りすぎないことがもっとも大切。
「肥満はコロナ重症化の引き金。欧米人と比べて日本人の死亡率が低いのは、肥満者が少ないことも一因と考えられます」(宮坂先生)
[×]ジムはコワいから、退会しようと思う。
緊急事態宣言中、3密でクラスターが生じる恐れがあるという理由で、日本全国のジムが泣く泣くクローズを迫られた。その最中に休会したメンバーたちが、再開後も感染を恐れて戻らず、そのまま退会してしまうケースが後を絶たないという。ジム退会を機に運動から完全に遠ざかると、コロナ感染&重症化の危険性が高まることも考えられる。
「運動不足で肥満になったり、血圧が上がったりすると、細胞表面で新型コロナをキャッチするレセプターであるACE2受容体が増えてきます。その結果、コロナに罹りやすくなるうえに、肥満や高血圧が悪化すると罹った際に重症化するリスクも高まります」(高橋先生)