ケースワークで学ぶ、間違いだらけの「糖質制限」
健康によかれと思って頑張っていても、その方向がとんちんかんだと、苦労は多いのに効果はさっぱり。どころか、むしろ悪化するばかり…、なんてことに。今回は、スイーツのためにランチを控えめにしたり、ナッツをひたすら貪り食べたり、そんな間違った「糖質制限」について。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/安ヶ平正哉 取材協力/美才治真澄(管理栄養士、フードコーディネーター)
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売
ケース・その1「スイーツを食べたいから、昼食を控えめに」
ランチはカフェで小盛りパスタをちゅるり。お腹を少し空けといて、職場への帰路のコンビニで新作スイーツにまた手が伸びる。なんちゃって糖質制限だから、今日もストレスフリーだよ。
「麺やご飯など炭水化物を減らしても、後で食べるスイーツは主に糖質だから、プラスマイナスで考えたら明らかにマイナスです」と言うのは、管理栄養士の美才治真澄さん。
炭水化物は糖質と食物繊維のことだが、スイーツに用いられる小麦は精製され、食物繊維を取り除かれたもの。そこにどっさりの精白糖がつぎ込まれ、世にも美味なる一品が仕上がる。角砂糖に換算すれば、恐ろしい個数に。
「日本人にとってご飯は実は結構大きな食物繊維の供給源です。だから、単純に炭水化物を削ると、食物繊維を削ることにもつながりやすいのです」
一方、スイーツは糖質がほとんどで、そもそも足りているエネルギーを上乗せするだけ。ビタミンやミネラルなどの微量栄養素もほぼ摂れない、まさにエンプティーカロリー。この糖を代謝するため、補酵素としてビタミンB群などが消費されてしまう。そうでなくても水溶性だから汗や尿で失いがちなビタミンを、余分な栄養に持ち逃げされてしまいがちに。
「ごほうびとして週に一度のスイーツでストレスを発散したいから、今日だけは炭水化物を控えめにというならまだしも、毎日のスイーツのために炭水化物を削ることが習慣化すると、“チリツモ”で慢性的な食物繊維不足、ビタミン不足に陥る可能性があります」
糖質、脂質の吸収に対し、抑制的に作用する食物繊維が減って、精製された糖質が増えれば、食後の血糖値は急上昇し、ドロドロ血で末梢の血管は危険な状態ににじり寄る。しかも、追い打ちをかけるように、上がり切った血糖値にインスリンが働きかけ、昼下がりには血糖値は急降下し、倦怠感と眠気に襲われ、パフォーマンスはだだ下がり。
「ダイエットに取り組むなら、その人が継続しやすい方法を選ぶべきですが、厳しい糖質制限を長期的に実施した場合の健康に対する影響は、まだ結論が出ていません」
ダイエットは個人の責任において実施するべきものだが、仕事に支障が出るようでは社会人としては考えもの。ランチは長い午後を戦い続けられるメニューにしようね。
ケース・その2「ナッツさえあれば、糖質制限が続けられる!」
ぬるめでも糖質制限が続くのは、食べてもセーフなアイテムがあるから。常備しているナッツ類なら血糖値が上がりにくいし。きょうもピーナッツをぼりぼり。塩味が効いてて、あ〜幸せ。
「糖質制限中のおやつにナッツは確かに悪くありませんが、問題は量です」(美才治さん)
量販店に並ぶ特大・徳用缶に手を出していないか? あれは一度にどれだけ食べたか、ほぼ自覚できないブラックボックス。あればあっただけ食べ、無限ループに陥る可能性も。
「間食、補食のエネルギーは80~100キロカロリーにとどめましょう」
それを上回るほど食べると、次の食事に支障をきたす可能性もある。
「この程度のエネルギーに抑えるには、アーモンドなら20~30粒くらい。アーモンドにはビタミンEと食物繊維が豊富で、お勧めできるナッツです」
他にはアーモンドよりもタンパク質が多めのピーナッツなら12~16粒。アーモンドやピーナッツよりも脂質は多いが、n-3系脂肪酸の割合が多いクルミは、ハーフカットなら4~6片、クォーターカットなら8~12片ぐらいが相当する。
ナッツは糖質が少なくても、そもそも脂質がたっぷりだ。一般的なナッツの脂質は50%前後。なかにはマカダミアナッツのように75%超えという超弩級もある。だから、どうしても間食、補食で食べられる数は少なめに。
「つい食べ過ぎるから徳用缶は避けるべきですが、もう一つの問題が脂質の酸化です。開缶後、常温で保存すると大切なn-3系が酸化し、摂るべきでない脂質に変わってしまいます」
徳用を買ったなら、1回に食べられる分量ずつ小さなフリーザーバッグに小分けして冷蔵保存がいい。
「それが面倒なら最初から小分けされたタイプの商品を選ぶか、食べ切りサイズの商品を1食分だけ買う方がナッツの鮮度も量も保てます」
さらに気をつけたいのは、商品によって味付けのさじ加減がかなり異なること。最近はフレーバーとして酢で調味したものも出現したが、往々にして食塩過多に陥りがち。1口目からがつんと美味しいものは、恐らく食塩多めのはず。栄養成分表示は常にチェックを怠らないよう、ご注意を。