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百寿者率が全国平均の3倍! 奄美群島の長寿の秘密は、腸内フローラ?

平均年齢98.3歳の合計44人から糞便の提供を受けて、腸内フローラの特徴を解析してみたら。森田英利先生(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)ら研究グループが明らかにした、その秘密。

腸内フローラは長寿に関与する?

100年以上前、ロシアのノーベル生理学・医学賞受賞者であるイリヤ・メチニコフは、「ロシア南西部のコーカサス地方に長寿者が多いのは、毎日ヨーグルトを食べているから。ヨーグルトの乳酸菌は腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の繁殖を防いで老化を抑える」という説を唱えた。

その後、コーカサス地方には本当はそれほど長寿者が多くないとか、長寿者が好んでヨーグルトを食べていた事実はないといった疑問や批判も出てきたが、ともあれ腸内フローラと健康長寿の関わりを探る試みは、それから100年以上続いている。

 奄美大島から学ぶ腸内フローラ
奄美群島ってどこにあるの?/奄美群島は南西諸島の一角を占め、種子島・屋久島と沖縄本島の間に長さ約200㎞にわたって散らばる。森田先生が調査したのは奄美大島、徳之島、喜界島の3つ。泉重千代さんと本郷かまとさんは徳之島、田島ナビさんは喜界島生まれだ。
出典(百寿者率)/平成27年百歳以上高齢者について(厚生労働省)

時代は21世紀に入り、腸内フローラが長寿に関与することを示唆する新たな証人が現れた。それは種子島・屋久島と沖縄本島の間に散らばる奄美群島センテナリアンだ。

センテナリアンとは100歳以上の百寿者のこと。奄美群島のセンテナリアン人口は、人口10万人当たり約136人であり、全国平均のおよそ3倍に達する。過去には、泉重千代さん(120歳)、本郷かまとさん(116歳)、田島ナビさん(117歳)と3人もの世界最長寿者を輩出している奇跡の島々だ。

3つの腸内細菌が、多かった。

奄美群島の長寿の秘密は、腸内フローラにあるのではないか。そう仮説を立てた森田英利先生(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)らの研究グループは、2017年に奄美群島で地域の病院などと共同で調査を実施。95歳から108歳までの合計44人(平均年齢98.3歳)から、糞便の提供を受けて、腸内フローラの特徴を解析してみた。

奄美群島の長寿者の腸内フローラの特徴
奄美群島の長寿者の腸内フローラの特徴。/2017年9月19日から11月17日まで調査を実施。奄美群島の長寿者44人(女性40人、男性4人、平均年齢98.3歳)の糞便を分析したところ、全国の長寿者と比べてビフィズス菌、アッカーマンシア属、メタノブレビバクター属という3つの腸内細菌が多いと判明した。
出典/Odamaki et al., BMC Microbiology 16: 90(2016) 永田、森田ら 腸内細菌学会 2019

「その結果、奄美群島の長寿者の腸内フローラは多様性に富み、とくにビフィズス菌アッカーマンシア属メタノブレビバクター属という3つの腸内細菌が、全国の長寿者たちと比べてとくに多く棲息していることがわかりました」

この3つの腸内細菌には、どのような効能があるのか。一つひとつチェックしてみることにしよう。

突出して多かった「ビフィズス菌」。

日本人の腸内には諸外国と比べてビフィズス菌は多いが、奄美群島の長寿者にはビフィズス菌が突出して多く棲んでいた。ビフィズス菌は離乳食前の赤ちゃんの腸内フローラの9割以上を占めるが、その数は加齢とともに徐々に減っていく。それが、老化と関わることも考えられる。

ビフィズス菌が作る短鎖脂肪酸は免疫を高めるほか、万病を招く肥満も抑えてくれる。短鎖脂肪酸をキャッチする受容体は脂肪細胞や交感神経にもあり、脂肪細胞で体脂肪の分解を促し、交感神経を興奮させて体脂肪の燃焼を促進したりするのだ。

「ビフィズス菌は古くて新しい菌。昔から健康長寿との関連が指摘されていますが、改めてその役割をより深く探る必要があるようです」

「アッカーマンシア属」のバリア機能。

こちらは世界中で最近研究が進められているホットな腸内細菌グループだ。アッカーマンシア属は、腸管のバリア機能を高める。腸壁を作る細胞が分泌するムチン層を厚くし、細胞同士の結合も強くして、有害物や病原菌の侵入をブロックするのだ。

バリア機能の強化は、抗炎症作用にもつながる。一時的な炎症は自然免疫の一種だが、慢性的な炎症は肥満、糖尿病、動脈硬化などの引き金。その慢性炎症を抑えるのだ。

腸内で慢性炎症が生じる要因の一つは、大腸菌やバクテロイデスといった腸内細菌が作るLPS(リポ多糖類)という物質。LPSは、免疫細胞を刺激して、炎症を招く炎症性サイトカインを作らせる。

「アッカーマンシア属はバリア機能を高め、血中に取り込まれるLPSを減らして、慢性炎症を防いでくれます。健康な人に比べると、糖尿病やメタボリックシンドロームの人の腸内には、アッカーマンシア属が少ないという報告があります」

アッカーマンシア属は、国際的な大会で活躍するようなアスリートの腸内に多く発現しており、運動直後の炎症を抑える働きも担っている。そしてビフィズス菌と同じように、短鎖脂肪酸も作ってくれる。

肥満も抑える「メタノブレビバクター属」。

最後のメタノブレビバクター属は、他の腸内細菌とは異なる古細菌(アーキア)に属するもの。

「メタノブレビバクター属は欧米人に多く、日本人の腸内からは検出限界以下で、見つかることは稀でした。それが奄美群島の長寿者から多く見つかったので、驚きました」

メタノブレビバクター属のうちでも研究が進んでいるのは、M. smithiiという菌種。このタイプは、健常者と比べて、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の患者で少ないことがわかっているほか、肥満者のエネルギー吸収を減らし、肥満を抑えてくれる。

以上のように、奄美群島の長寿者に特徴的な腸内フローラは免疫力を高め、肥満や慢性炎症を抑制して、長寿になりやすい体内環境をデザインしていると考えられる。

伝統食が腸内フローラを育む。

では、この個性的な腸内フローラはいかに育まれたのか。その秘密は、やはり食生活にあるのではないかと森田先生は推察している。

「奄美群島の伝統食には、有用菌と食物繊維を含む発酵食品などが数多くあるのです」

奄美群島の伝統食の代表として、そてつ味噌がある。これは、自生するソテツの実から取ったデンプンと、大豆または玄米を合わせて発酵して味噌にしたもの。現地では味噌汁のほか豚肉、魚介、ニガウリ、落花生、黒糖などと混ぜて食べることもある。

もう一つの伝統食にミキがある。ミキは、お粥とすり下ろしたサツマイモ、砂糖で作る発酵飲料。元来はその名の通り、夏祭りで神様に捧げるお神酒だったが、現在では一年を通して島民に愛飲されている。

そてつ味噌もミキも、有用菌と食物繊維がリッチ。このほか、特産品である島ラッキョウアオサモズクといった海藻、青パパイヤのように、有用菌のエサとなる水溶性食物繊維を摂る機会が多いことも、腸内フローラの多様性に寄与するだろう。

センテナリアンを目指してはるばる奄美群島に引っ越したり、そてつ味噌やミキをお取り寄せしたりしなくても、その食生活を真似ることはできる。有用菌を摂るプロバイオティクスと、食物繊維などの有用菌の栄養源を摂るプレバイオティクスをセットで行う食事(シンバイオティクス)を地道に続ければいいのだ。

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パパイヤ味噌漬け

 奄美大島から学ぶ腸内フローラ

完熟前の青パパイヤを味噌に漬け込んだもの。そてつ味噌に漬けたものもある。パパイヤには食物繊維が多い。ご飯のお供のほか黒糖焼酎のつまみにもいい。

ミキ

 奄美大島から学ぶ腸内フローラ

奄美群島のソウルドリンクで、お粥を思い切り甘くしたような発酵飲料。ノンアルで、甘酒よりもかなり高濃度だ。果物や野菜と混ぜてスムージーにすると腸内フローラもきっと大喜び。

そてつ味噌

 奄美大島から学ぶ腸内フローラ

ソテツの実のデンプン、大豆、玄米などを原料とする独特の味噌。配合により調味料として用いるものと、そのまま食用にするものがある。奄美地方の方言で「なり味噌」とも呼ばれる。

「私は、今日は納豆とオクラ、明日はキムチと海藻、その次の日はヨーグルトとプルーンという具合に、発酵食品と水溶性食物繊維を日替わりで組み合わせた食事を意識しています。継続しないと腸内フローラは変わりませんから、好きなものを見つけてローテーションして続けることが、健康長寿の第一歩です」

取材・文/井上健二 イラストレーション/山本重也 取材協力/森田英利(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)

初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売

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