- 整える
タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
PR
睡眠、覚醒、食事のリズム。すべては体内時計が司る。つまり、時間栄養学に従って規則正しく食べれば痩せる。さっそく、具体策を実践してみよう。
目次
ヒトは朝目覚めて日中活動し、夜はスヤスヤ眠る生き物。なぜならそのようなリズムを刻む体内時計が備わっているから。体温や血圧の上昇および低下、ホルモン分泌の増減のスケジュールは体内時計でコントロールされている。時計は全身に存在しているが、中枢の主時計は脳の「視交叉上核」にあり、その他の時計が末梢時計だ。
で、これらの時計はズレながら動いているので毎日リセットする必要がある。起床後、朝一番に太陽の光を浴びると視交叉上核の時計が、起きてから最初の食事を食べることで末梢時計がリセットされて同調する。こうして、中枢の主時計による自律神経やホルモン分泌の指令を受け、末梢時計を持つ各臓器が働く。朝目覚めて日中バリバリ活動し、夜スヤスヤ眠るというリズムが刻まれるというわけ。
なぜ毎日体内時計をリセットする必要があるかというと、一日24時間の地球の自転リズムと体内時計のリズムが若干ズレているから。
「ヒトの体内時計の方が遺伝子レベルで15〜30分長いことが分かっています。だから朝の光や食事でズレを調整する必要があるのです」
と、体内時計研究の第一人者、柴田重信さん。
「産業革命以前は夜は真っ暗で活動できない、体内時計が地球と同化しやすい状態でした。でも今は深夜に仕事をしたり、エネルギー消費できないのに物を食べたりします。こうして生活が夜型化することで太りやすくなったのです」
ただでさえ、放っておくと夜型化するのに、リモートワークで通勤の必要がなくなり、クビキが失われてさらに夜型化しやすい状況に。これが、おこもり太りの大きな原因だ。
朝食ではごはんやパンなどの糖質は不可欠。狙いはエネルギーの確保ではなく、インスリン分泌で末梢の体内時計をリセットすること。
「体内時計の遺伝子が作り出すタンパク質の増減で一日のリズムが刻まれます。インスリンはそのタンパク質の産生を促します。朝に糖質が必須なのはそういう意味です」
というわけで朝食の欠食は禁物。朝日を浴びて脳の主時計が朝だと認識しても、欠食すると首から下はリセットされない。主時計と末梢時計のリズムが引っ張り合いになって時差ボケのような状態に。一方、夜に糖質をたくさん摂ってインスリンが出ると、今度はカラダが今が朝ではないかと勘違いをする。体内時計にとって日中のインスリンはプラス方向、夜間のインスリンはマイナス方向に働くのだ。
食事のタイミングで体内時計のリズムは左右される。それと同時に太る、痩せるといったカラダの変化にも大きく影響することが分かってきた。『セル・メタボリズム』という学術雑誌に掲載された論文によると、糖尿病の人に一日のうち10時間以内に食事を済ませるような生活をさせたところ、体重や血圧などすべての数値が改善したという。
「原則、10時間の間ならいつ何を食べてもいい。太った人は長い時間食べ続ける傾向がありますが、この実験では起床後1.5時間ぐらいに食べ始め、就寝時間の3時間くらい前に食べ終わるようになりました。これが非常に有効だったのです」
つまり、何を食べるかというよりも、いつ食べるかという方が重要。おこもり生活で長時間ダラダラ食べ続けていたという人はいくらエネルギー制限をしても、太って当然。
食べ始めから食べ終わる時間を設定するだけでなく、食べ終わる時間をどこに設定するかも非常に重要。健全な体内時計は夜間、休息するべくリズムを刻んでいるからだ。この自然の摂理に反すると、抵抗力が落ちるリスクもあるという。
「いつもより2時間遅く寝て、2時間遅く起きるという生活を2〜3週間続けたマウスに毒素を投与すると、より死にやすくなるという実験結果があります。同様に、ヨーロッパ9か国の食事時間と今回の新型コロナウイルスによる死亡者の関連を調べた研究では、遅い時間に夕食を摂っている国ほど死亡者が多いことが分かりました」
寝る直前まで食事をしている人は、太りやすくなるだけではなく、感染症に対する免疫力が低下する可能性もあるということ。夜中のダラダラ食い、非常にヤバい。
取材・文/石飛カノ 撮影/大森忠明 スタイリスト/矢口紀子 取材協力/柴田重信(早稲田大学理工学術院先進理工学部 電気・情報生命工学科教授)
(初出『Tarzan』No.792・2020年7月22日発売)