それ、誤った思い込みかも? 実は睡眠に悪い5つのこと
健康の基盤となる睡眠。それなのに、日本人の5人に1人は睡眠に不満を抱えている。でも、ひょっとしてそれ誤った思い込みかも? 未だ大いなる謎に包まれた睡眠の扉を開け、不満の種がどこにあるのかを、とことん検証。まずは、あなたの眠りの間違い探しから。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/タケウマ 監修/櫻井武(筑波大学医学医療系教授)
初出『Tarzan』No.784・2020年3月26日発売
目次
1. 「理想的な睡眠時間は8時間」にこだわる。
あなたは今、何歳ですか? 30代半ば? 40代?それとも50代? 8時間というのは比較的若い年齢層の平均的な睡眠時間。健康を保つために必要な睡眠時間は年齢によって異なる。代謝が高い成長期の10代なら10時間くらい必要だし、代謝が右肩下がりの50代なら5〜6時間で十分。
でも、不思議なことに睡眠が必要な若い人ほど眠りには無関心で、それほどたっぷり睡眠が必要でない年齢層の人ほど眠り足りないと感じている。後者の場合、自分は睡眠不足?という思い込みがストレスとなり不眠症に陥る皮肉なケースも。
厳密に言うと、年齢だけでなく体格や生活活動レベルを加味したら適正睡眠時間は百人百様。自分がそれをきちんとカバーできているかどうかは、昼間の覚醒度で判断するしかない。
電車の中や会議中にウトウトしているようなら睡眠不足、眠気を感じることなくパフォーマンスを発揮できているとしたら、睡眠時間はバッチリ確保できているはず。
2. いわゆる「ゴールデンタイム」を死守している。
美肌を保ちたいというご婦人、筋肉を肥大させたいという紳士は言う。睡眠は大事。とくに午後10時から午前2時にかけてのゴールデンタイムは死守しなきゃ、と。
ある意味では正解。でもある意味では不正解。べつにグリニッジ標準時のように、ここからここまでがゴールデンタイムであるとは決まっていないからだ。
ゴールデンタイムと呼ばれる根拠は成長ホルモンの分泌にある。代謝を促したり筋肉の発達や皮膚の細胞の再生を助ける成長ホルモンは、入眠後1時間前後で見られる深い眠りで分泌される。
多くの人は夜の10時から深夜2時頃までは眠りについているだろうから、まあ一応ゴールデンタイムはここらへんでしょ、というだけの話。
実際、夜の9時、または午前3時に寝たとしても成長ホルモンは変わらず分泌される。よって時間帯ではなく、眠りのしょっぱなでいかに深い睡眠が得られるかの方が重要。ライフスタイルに合わせた就寝時間の設定を。
3. 「週末の寝溜め」でリフレッシュ。
睡眠が足りているのに不足しているんじゃないかと不安を抱えている人がいる一方で、知らず知らずのうちに寝不足に陥っている人もいる。いわゆる「睡眠負債」を抱えている人々だ。
起きている間中、睡眠負債というツケは溜まっていく。本来はぐっすり眠って昼間に溜まったツケを支払わなくてはいけないのに、残業や飲み会でツケがどんどん膨らんで気づけば借金まみれ。
でも大丈夫、週末の寝溜めでリフレッシュすればいい話。いやそれ、溜めているのではなく借金を返済してチャラにしているだけ。それに、平日と週末の睡眠時間に大きな差があるほど、カラダのリズムは狂っていく。
平日と休日の睡眠時間の中央時刻のズレはそのまま時差となる。3時間のズレがあったらグアムやサイパンに弾丸で行って帰ってくるのと同じこと。リフレッシュどころではなく、週明け月曜日はだるい眠いの時差ボケ状態。寝溜めをするなら平日睡眠時間の1時間増し程度にしておくこと。
4. いつ何時も寝つきがいい。
バスや電車に乗ったらすぐに爆睡、ランチの後は公園のベンチでうたた寝、家ではもちろん電気を消した後に即バタンキュー。特技はいつでもどこでも速攻、寝られることです。
特技でも何でもない。それ、単なる寝不足だ。
床についてどれくらいの時間で眠れるかというテストがある。これによれば、一般的には眠りにつくまでに15分程度はかかる。ちなみに、日中、突然眠気に襲われて眠り込んでしまうナルコレプシーという病気の人は8分以下で就寝するという。
ただし、これは病院などの施設で脳波を計測する機械をつけての時間。それよりリラックスできる自宅の寝室ではもう少し短いと考えられるので、普通の人は10分くらいで眠りにつくというのが妥当なところ。
バタンキューの人は眠る前から相当な眠気に襲われているはず。実は眠気=睡眠不足の証し。10分かけて眠りにつく人は眠くて仕方ないとは感じていない。毎日速攻眠れる人は睡眠時間の見直しを。
5. ブルーライトカットで対策は万全だ。
ブルーライトとは波長の短い青い光のこと。太陽光など自然界にも存在するが、テレビやスマホなどの液晶画面やLED照明から発せられる場合、至近距離でその光を浴びることになる。
ブルーライトは目へのダメージが大きく、夕方以降に浴びると睡眠のサイクルを乱すともいわれている。そこでブルーライトカット眼鏡の出番。青い光をカットすれば健やかな眠りが確保できるはず。
一理はある。網膜にはメラノプシンという光を感知するタンパク質が存在している。光をキャッチしたメラノプシンからその情報が脳に送られ、睡眠をはじめとするカラダのリズムを調整するのだ。
メラノプシンがブルーライトに最もよく反応することは確か。でも他の光にも反応するので、ブルーライトさえカットしておけば万全というわけではない。夜、煌々と明かりをつけた部屋で過ごしていれば、それだけで睡眠のリズムに悪影響が及ぶ。夕方以降、明るすぎる環境に身を置かないことの方がよほど重要なのだ。