運動刺激系ホルモンの最新研究が生んだ、超効率的トレーニング
運動がトリガーとなって分泌されるホルモンの研究はまだ道半ば。今後もあっと驚く健康効果が明らかになる可能性はかなり高い。今回組み立てたのは、現在分かっている3つの運動刺激系ホルモンの助けを借りたトレーニング。これぞ、世界一効率のいいボディメイク術だ!
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/八重樫王明 取材協力・監修/後藤一成(立命館大学スポーツ健康科学部) トレーニング監修・指導/澤木一貴(SAWAKI GYM)
初出『Tarzan』No.782・2020年2月22日発売
各ステップは2週間単位。効率よくホルモンを分泌させる。
最新の知識を踏まえてトレーニングを行うのと、何も知らずにトレーニングに励むのとでは雲泥の差が出てくる。どんなトレーニングをするかにより、メインで分泌されるホルモンの種類が変わってくるからだ。
そこで、現在分かっている3つの運動刺激系ホルモン「成長ホルモン」「IGF-1」「イリシン」の助けを借りてトレーニングを組み立てた。それぞれ特定のホルモン分泌を狙ったトレーニングは期限を分けて段階的に進めていく。
各ステップは2週間単位。たとえば月・水・土と週3回の頻度で2週間行ったら次のステップへ。すべてクリアした6週間後は、3つのホルモンを一気に分泌させるスペシャルメニューに挑戦してほしい。
ステップ1. 成長ホルモン
トレーニング初心者は、脂肪の分解から。
かつては筋肥大作用があるとされた成長ホルモンだが、それも今は昔。現在はその脂肪分解作用の方がよく知られている。運動中は副腎からアドレナリンが分泌されて脂肪分解が促されるが、運動後は脳の下垂体から今度は成長ホルモンがドバドバ出て脂肪を分解してくれるのだ。
で、この成長ホルモン、筋肉に乳酸が蓄積されpH値が上がるような刺激、または運動中に血流制限を行うことで分泌量が増える。その手の刺激が得られる最適な運動がスロトレ、とくに収縮運動なのだ。
ちなみに、内臓脂肪が多いと成長ホルモンの出が悪い。内臓脂肪が分解された遊離脂肪酸が血液中に多いと、カラダはこれ以上脂肪を分解しなくてもよしと判断し、成長ホルモンの分泌に抑制がかかるのだ。まずは食事を若干減らし、運動で徐々に成長ホルモンを分泌させて出っ張った腹の脂肪減少を狙っていく。
ステップ2. IGF-1
筋肉が作るホルモンでサイズアップを。
筋肥大を促すIGF-1は運動後に肝臓から分泌されるホルモンとして知られていた。運動後12時間後くらいに肝臓から分泌されるので、日中トレーニングしたら夜間に作用が表れると考えられていたのだ。
ところが近年、運動直後にIGF-1の血中濃度が上がることが判明。どうやら肝臓由来ではなく、骨格筋の中で作られていることが分かった。自らが作り出したIGF-1で自らを肥大させる。つまり、筋肉は自給自足でサイズアップすることが明らかになったのだ。
では、どんな刺激によってIGF-1がより分泌されるかというと、ひとつには大きな力を発揮する運動であること。もうひとつに筋肉が長くなる刺激の方が分泌量が増す可能性が高いこと。
となれば、筋肉を伸張させるエキセントリック運動が最適解。成長ホルモン効果で脂肪が減ったら次のステップはIGF-1で筋肥大だ!
ステップ3. イリシン
仕上げの運動で脂肪を熱に変換させる。
脂肪細胞には大きく分けて2つの種類がある。ひとつは中性脂肪を溜め込む白色脂肪細胞、もうひとつは脂肪を取り込んで熱エネルギーとして消費する褐色脂肪細胞だ。
もちろん、脂肪の大半は白色脂肪細胞だが、ふたつの脂肪細胞の比率は個人差が大きい。ところが運動刺激によって筋肉からイリシンというホルモンが分泌され、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞化するということが新たに分かった。ちなみに、白色から褐色に変身した脂肪細胞を「ベージュ細胞」という。
トレッドミルでのランニングの実験によると、水平ランよりも下りの傾斜をつけたダウンヒルランの方がイリシンの分泌量が多かったという。ブレーキをかけながら走るダウンヒルランでは一歩ごとに大腿四頭筋が伸ばされる。やはり伸張刺激がイリシン分泌のカギなのだ。最終ステップでは、このイリシン狙いで太りにくいカラダを目指す。