肥満に影響する脂肪細胞は、単なる体脂肪の貯蔵庫ではない。全身に多様な影響を及ぼすホルモンのような物質=アディポサイトカインを出している。脂肪細胞の核に収められた設計図に基づいて小胞体という器官で合成されて、細胞外へ分泌されるのだ。
善玉アディポサイトカインの働き
アディポサイトカインには善玉と悪玉がある。
善玉の代表はアディポネクチンとレプチン。アディポネクチンは血中の脂質代謝を正常化し、血糖値を下げ、万病の元といえる酸化ストレスを抑える。レプチンは最初に見つかったアディポサイトカインで、体脂肪の蓄積度に応じて食欲を調整する働きを担う。
心臓病や動脈硬化の危険度を上げる、悪玉
他方、悪玉の顔ぶれは多士済々。アンジオテンシノーゲンは血圧を上げ、IL-6は免疫を乱す。TNF-αは血糖値を下げるインスリンの効き目を悪くするインスリン抵抗性を引き起こし、PAI-1は血栓という血液の固まりが生じやすい環境を作る。
いずれも恐ろしい心臓病や脳卒中の一里塚である動脈硬化の危険度を上げる。
アンバランスは、内臓脂肪で起きている
重要なのはここから。脂肪細胞が分泌する善玉と悪玉のバランスは通常健康を害さないように制御されている。だが、内部に体脂肪を溜めて肥大するとバランスが崩れて善玉が減り、悪玉が増えやすい。
このアンバランスが起こりやすいのは皮下脂肪より内臓脂肪。それがメタボの発端だ。肥満治療で皮下脂肪の吸引手術をしても、内臓脂肪は手付かずだったため、健康度は改善しなかったという報告もある。
減らすべきは、皮下脂肪ではなく内臓脂肪なのだ。
菅波孝祥(すがなみ・たかよし)/名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野教授。医学博士。基礎研究と臨床研究を繫ぎ、生活習慣病治療に繫がる研究を担う。京都大学医学部卒業。京大、東京医科歯科大学を経て現職。