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遺伝で肥満にはならない!|脂肪について、本当の話をしよう(1)「脂肪と人生」

雑誌『ターザン』本誌749号(2018年9月13日発売、「実践的6提言 二度と太らない!」特集)で運動生理学の権威・森谷敏夫先生に取材し、叱ってもらった『ターザン』編集部。叱られたくてまたまた先生を伺いました。森谷先生の“白熱脂肪教室”、いざ開講です。第1部である本記事のテーマは「脂肪と人生」。人はなぜ太ってしまうのかを考えます。

第1部「脂肪と人生」

母親が太っていると、ペットまでもが太る。

今回のテーマは脂肪についてです。みなさんは親が太っているからその子どもが太っているのは当たり前、肥満の原因は遺伝だから仕方ないと思っていませんか?

ところが、日本肥満学会では肥満の要因の3割を遺伝、7割を生活習慣によるものとしています。

2人の子どもがいて、お父さんが痩せていてお母さんが太っていたとする。メンデルの法則によると1人の子どもは痩せていてもう1人の子どもは太っていることになる。

ところが何万人というデータを集めたアメリカの研究報告では、父親が痩せていて母親が太っている場合、子どもが2人とも太る確率は75%、逆に父親が太っていて母親が痩せている場合、子どもが2人ともスリムである確率は75%でした。

お母さんがスリムであると、食事を変えたり運動させたりして子どもの肥満を予防します。お母さんが太っていると、自分を基準にして子どもにも多めに食べさせる。だから母親が太っていると家族全員、ペットまでもが太る。肥満は遺伝ではなく生活習慣病なんです。

脂肪細胞が増殖する時期は人生で3度ある。

さて、今、君たちが持っている脂肪細胞の数は、この先一生変わりません。人生には脂肪細胞の数が増える時期が3度あります。

重度の肥満以外、一生のうち3度増えるタイミングがある脂肪細胞の数は生涯変わらない。マックス900億個まで増えるといわれているが森谷先生のそれは推定250億個。
重度の肥満以外、一生のうち3度増えるタイミングがある脂肪細胞の数は生涯変わらない。マックス900億個まで増えるといわれているが森谷先生のそれは推定250億個。

第1期は胎児のとき。母親が必要以上の食事を摂ると、胎児の脂肪細胞も必要以上に増えます。第2期は1〜2歳の乳児期。ミルクを与え過ぎることで脂肪細胞の数が増えます。第3期は思春期。性ホルモンが分泌されカラダの変化が起こりやすい時期に、おやつを食べ過ぎて勉強で机にかじりついていると脂肪細胞が増えます。

それ以降は、どんなに運動しようがダイエットしようが基本的に脂肪細胞の数は変わりません。変わるのは脂肪細胞の中の油の量だけです。

今持っている脂肪細胞のサイズを大きくするのは実に簡単です。40歳の肥満女性がいたとします。彼女は20歳の頃はとてもスリムでしたが、20年で20kg太りました。多くの人は食べ過ぎで太ったと錯覚しますが、実はほとんど食べていないのにもかかわらず20kg太ったんです。

脂肪は日常の積み重ねで増える。

ある日、彼女は20キロカロリー分の砂糖を朝のコーヒーに入れました。すると、食事も運動も変えないのに1年で1kg太りました。なぜなら、20キロカロリープラスを1年続けるとその365倍になるからです。脂肪1kgは7,200キロカロリーです。砂糖20キロカロリー×365日=7,300キロカロリーに相当します。これを20年続けると20kgの脂肪がカラダにつきます。朝のコーヒーにスプーン1杯の砂糖を入れただけでこういうことが起きます。

脂肪を増やすも減らすも、毎日の積み重ねです。だから、短期決戦で1週間に1kgも2kgも脂肪を減らそうとする人は討ち死にします。炭水化物を抜いて1週間で体重が2kg落ちたという話を聞きますが、これは2kgの脂肪が落ちたのではなく、ほとんどは筋肉の中の糖質にくっついている水分が減っただけ。

男性4万4,000人を20年間、女性8万5,000人を26年間追跡調査したデータ
低糖質食で脂肪リスクが増える?/男性4万4,000人を20年間、女性8万5,000人を26年間追跡調査したデータ。炭水化物を60%摂っている人の病気の死亡率を1とすると、低炭水化物食をしている人は男性で1.5倍、女性で1.35倍リスクが高くなる。
Fung T T et al. Ann Intern Med. 2010: 153(5)289-298 女子栄養大学香川靖雄

2kgといえば500ccのペットボトル4本分。もしそれだけの脂肪がカラダから落ちたのならカラダには明らかなくびれができるはず。でもそんなことにはなっていない。水分が減っただけで人は体脂肪が落ちたと勘違いしているわけです。

さらに低炭水化物食を長年続けていると、死亡リスクが増えることが分かっています。カラダの中の残り少ない糖質は脳に回されるので筋肉は脂肪を使おうとします。脱水状態で血液中に大量の脂肪酸が入ってくるので血液はドロドロになり、脳や心臓血管系の病気になるリスクが高くなるといわれています。

肥満になるか否かは遺伝でも食べ過ぎでもなく、毎日の単純な生活の過ごし方にかかっているのです。

第2部に続きます

質疑応答

Tarzan ハイハイハイッ! 質問あります

森谷先生(以下、森谷)おっ、またキミか。叱られに来たか。

Tarzan 今日は叱られないよう頑張ります! 肥満の原因がもし食べ過ぎではないとしたら、毎日の食生活を具体的にどうすればいいですか?

森谷 推奨している比率は炭水化物60%、タンパク質と脂質を各20%。一般的にはタンパク質15%、脂質25%ですが、タンパク質をもう少し上げた方がいい。良質のタンパク質は脂肪にはならないからです。

Tarzan 良質のタンパク質とは?

森谷 赤身の肉や豆腐など油の少ないタンパク質です。こうしたタンパク質を多めに摂る食事は、腸管から分泌される食欲を抑制するペプチドyyというホルモンの分泌を促します。同時に食欲を増進する胃から分泌されるグレリンというホルモンを抑制するんです。

Tarzan 油の少ないタンパク質で、もうお腹いっぱいの状態になるんですね。脂っこいものを食べたら満腹感が得られるのかと思ってました。

森谷 とんでもないよ! グレリンを抑制するのはタンパク質と炭水化物。これらはほぼ同等の抑制力を持っている。だから炭水化物も抜いちゃいけないし、タンパク質は多めに摂らなきゃいけない。高脂肪食は逆に食欲抑制が利かないんだよ!

Tarzan ひー、すみません! やっぱり叱られちゃった…。

森谷式3大栄養素の黄金比

【炭水化物( ごはん、 パン、麺など )】6:

【 タンパク質( 肉、魚、 大豆製品、 卵など)】2:

【脂肪 ( 各種オイル、 バター、 食材に含まれる 油脂など)】2

これが森谷先生が薦める、ベストな3大栄養素の摂取比率。タンパク質は脂肪の少ない良質の食品を選ぶのがポイントだ。

取材・文/石飛カノ 撮影/山城健朗 取材協力/森谷敏夫(京都大学名誉教授)

(初出『Tarzan』No.756・2019年1月4日発売)

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