深層筋が導く、動きの美と強さ。武術太極拳アスリート・大川智矢。

美しく揺るがぬ動きはどこから生まれるのか。武術太極拳アスリート・大川智矢が語る、“芯”の在り処。

取材・文/山梨幸輝 撮影/石渡 朋

初出『Tarzan』No.911・2025年9月25日発売

教えてくれた人

大川智矢(おおかわ・ともや)/2013年、武術太極拳の日本代表メンバーに選出され、16年には世界チャンピオンに。近年では後進育成の傍ら、パフォーマーとして音楽ライブなどにも出演。12月7日(日)に〈和光市民文化センター サンアゼリア大ホール〉にて『Kungfu Super Action〜希絆〜』に出演。Instagram:@tomoyaokawa93

争いを避ける武術に生き様を学ぶ。

次々と繰り出される、力強い。中国発祥の武術太極拳を披露してくれたのは、2016年の世界大会王者・大川智矢さんだ。

「最初に習ったのはベーシックな長拳(カンフー)。それから武器を使った演武も学びました。刀や棍(棍棒)はダイナミックさが売りですが、僕の専門である剣や槍は細かな動きを連続します」

武術太極拳アスリート・大川智矢

もともとは戦闘のために生まれた武術太極拳だが、現代では空手の形や体操のような採点種目の側面が強い。いかに難度が高い技に挑戦するか、ミスをなくすかなど、さまざまな要素が求められる。

「空中で回転する技では、姿勢維持のためにお腹まわりの深層筋を意識します。それと、僕は筋肉が硬いから柔軟性に欠けるのが弱点で。その一方でウォームアップが短くてもすぐ理想の状態に持ってこられる。そういった自己理解も技術を伸ばすうえで大事です」

鍛錬にはイメージも欠かせない。感覚を摑む時に参考にするのが、競技のルーツである中国思想だ。

武術太極拳アスリート・大川智矢

「剣は鳳凰、槍は龍の動きをイメージして動作が考えられているんです。“どんな姿なのだろう?”と想像して表現を磨きました」

大川さんの生き方に影響を与えたのが、中国の陰陽思想。物事には2つの相反する要素が混ざり合っているという考えだ。

「調子がいい時こそ足をすくわれないように気をつけたり、怪我した時も休養のチャンスと捉えたり。そんなふうに物事を二項対立で捉えないようになりました。スキルを上達させて終わりではなく、哲学も磨く。その奥深さこそ、不要な争いを避けるように発展したこの競技の魅力だと思いますね」