「走る映画」のプレイリスト|vol8. 緩やかに走って、秋を感じる。

映画の主人公気分で走りたい! 「走る」シーンが象徴的な数々の名画のサウンドトラックをつないで、ランニング気分を高め、鼓舞してくれるプレイリストを作る試み。第8回は、長かった酷暑が去り、ようやく訪れた秋の気候を存分に味わう、ミドルテンポの曲をミックスしました。

選曲・文/渡辺克己(サントラ・ブラザーズ) 写真/アフロ

酷暑の中、ランニングを続けた読者の皆さま。今年の夏も、本当にお疲れさまでした。暑い時間帯を避け、深夜や早朝のタイミングにずらしても、アスファルトに残った熱から、体感気温が30°Cを超える日々も多かったですね。また、クーラーの効いたジムなど、屋内にトレーニング環境を変えた人も多かったのでは?

日常生活で体力を消耗しているため、運動後の肉体疲労も、通常以上に感じることがあったと思います。ニュースによると、今年のような夏の酷暑は、来年以降もしばらく続くようです。今後の対策はまた改めて記すとして、とにかくトレーニングを続けた方々の心身に、少しでもがんばった効果が出ることを願っております。

 

ようやく酷暑も終わり、屋外で通常の時間帯のランニングを再開する天候になってきた。そこで、今回の走る映画のプレイリストは、夏に疲れた身体を癒し、秋の気候を楽しみながらのトレーニングにぴったりな、少し緩やかな音楽を選んだ。

まずは、夏休みの定番映画『スタンド・バイ・ミー』から、M1にのって緩やかにスタートしたい。主人公のゴーディが鉄道橋を仲間と爆走するシーンをはじめ、少年時代の思春期を卒業するキッカケになった、夏休みの旅を回想。エンディングでの、人間的にも成熟したゴーディと秋の景色を背景に流れるテーマ曲は、いまだに涙なしには聴けない名作。

続いては、ウッディとボー・ピープが走り回る映画『トイ・ストーリー4』からM2。クリス・ステイプルトンが歌うウッディのテーマは、スライドギターとルーズなリズムが心地いい。

常夏の西海岸を夢見る男たちが、NYの街を疾走する映画『真夜中のカーボーイ』から、主題歌となったM3。エバーグリーンなメロディとアレンジは、秋の公園を走る時にぴったりな名曲。

『スタンド・バイ・ミー』でも効果的に使用されたバディ・ホリーのM4は、ティム・バートン監督のファンタジー『ビッグ・フィッシュ』の劇中でも、主人公のエドワードと、ヒロインのサンドロが出会うシーンで印象的にかかる。

ここからは、少しだけテンポを上げ、サウンドトラックからジャジーな曲。1930年代からビッグバンド〜スイングジャズの古典を数々制作したグレン・ミラーの華やかな名曲も、さまざまな映画のシーンを盛り上げている名曲。中でも一番有名なのは、映画『タイタニック』の劇中で悲運のカップルを演じたレオナルド・デカプリオとケイト・ウィンスレットが、『タイタニック』とは正反対の壮絶な離婚劇を繰り広げる『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』。まだ幸福だった2人のラブラブなシーンでかかるM5は鮮烈だ。

グレン・ミラーら、ジャズジャイアントの影響を受けたハリー・コニック・Jrによる『恋人たちの予感』のM6。NYセントラルパークを舞台に、秋の紅葉と共に、じんわり恋に染まっていく2人。そんなこととはつゆ知らず、横を走り去っていくランナーたちの表情が心地よさげで羨ましい。

マンハッタンの恋物語といえば『ユー・ガット・メール』からM7。ランニングにはちょうどいいテンポの緩やかなジャズ。

続いては、ミドルテンポで走りやすい、エヴァーグリーンなポップスとブラックミュージク。ガス・ヴァン・サント監督のポートランド3部作からクライム作の『ドラッグストア・カウボーイ』からM8。原曲は1969年に発表された邦題「恋をあなたに」。ジャッキー・デシャノンのキュートな歌声と、美しいストリングスのアレンジが、自然溢れる街の美しい風景とリンクしている。

1973 年の発表以降、映画やCMソングに度々起用され、アメリカではエバーグリーンの代表格として愛されまくっているレッドボーンによるM9。現DCフィルムズのCEOであるジェームズ・ガンも愛好しており、監督作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでは何度も使用している。

コーラスとストリングスが美しいM10は、1970年代における人種差別問題を描いた映画『ブラック・クランズマン』のブラックパンサー党の集会シーンで使用されたが、サウンドトラック未収録。ところが、家族間の愛憎を描いた映画『アイス・ストーム』のサウンドトラックには収録されている。曲のタイトルや歌詞と沿うように、不倫にハマっていく決定的な場面で使用されている。

ディズニープラスで配信中のスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンを率いた故 スライ・ストーンの伝記ドキュメンタリー『スライ・リヴズ!』から、名曲M11の別テイクを。ステ―ジで激しく歌い踊り、時には走り回る姿は圧巻だ。

80年代のロンドンのブラックコミュニティやDJカルチャーを舞台にしたミステリー映画『ヤング・ソウル・レベルズ』。若者たちがソーホーを疾走するシーンにぴったりハマったラテン/ディスコ・バンド、WARのM12。

ポルノ俳優の栄光と挫折を描いた映画『ブギーナイツ』は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の初期の代表作。華やかなシーンで使用されたディスコクラシックM13。

そして、NYの街並みやセントラルパークのシーンが鮮やかな映画『メイド・イン・マンハッタン』から。ブラックミュージック界の女王によるファンキーなM14を歌いながら、秋のランニングをしめたい。