
芸能界から老いの研究者へ
こんにちは、編集者で「老い」の初心者でもある伊藤ガビン(62)です。今年3月に『はじめての老い』という本を出してから、会う人会う人から「老い語り」をされるようになってしまいまして、ならばこちらかも!ということで、様々な方に「老い」についてお話をうかがいに参っているという次第でございます。第2回目のゲストは、いとうまい子さんです!
いとうまい子(以下まい子)
この連載、いとう縛りなんですか?(笑)
伊藤ガビン(以下ガビン)
そこ! 今日の枕として話そうとしてたんですが、先に言われてしまいました。前回のゲストがいとうせいこうさんで、今回はいとうまい子さん。聞き手が伊藤ガビンというね。すいません、偶然です! 急に「老い」テーマでお呼びしてしまって申し訳ないです。
まい子
いえいえ、還暦を過ぎてますからもう「老い老い」ですね。
ガビン
なぜ今回、いとうまい子さんにご登場を願ったかといいますと、学ぶことと老いの関係についてお聞きしたかったのです。読者のみなさんがどれくらい把握されているのかわからないですが、いとうまい子さんの経歴がこのテーマにうってつけというのがあります。1982年にアイドルとしてデビューされ、その後俳優としても活動されておりますが、45歳で早稲田大学eスクールに入学という「学びなおし」をされました。現在は東京大学大学院理学系研究科で生体高分子の立体構造について研究をされていますが、早稲田在籍時には、「予防医学」を志し、「抗老化学」という「老い」のど真ん中の研究をされていたことが熱いですね。わたし的にものすごく熱いんです。お聞きしたいことがありすぎるのですが、まず45歳から大学に行こうと思ったあたり、動機はなんだったのでしょう?

※1 いとうさんは「第1回ミス・マガジン」コンテストのグランプリを受賞。 1983年、「微熱かナ」で歌手デビュー、ドラマ『高校聖夫婦』で主演デビューを果たし、アイドルとして活躍。
まい子
ずっと芸能活動を続けてきて※1「何か世の中に恩返しがしたいな」思ったことが1番大きなきっかけです。ただ、恩返ししたいと思っても、高校卒業してすぐ芸能界に入って無知無教養ですから、どうしたらいいのか考えた時に、ああ、そうだ、みんなが行く大学ってところに入ってみて、そこで何か土台にみたいなものを作れればいいなと思ったんですよね。
ガビン
なぜ「予防医学」だったんですか?
まい子
お仕事でお会いした方から「予防医学」のことを伺って、予防の大切さを知ったんですよね。コロナ以前でしたから、いまほど予防が意識されていない時代でもありました。予防によって国の医療費の削減にもつながるし、とてもいいなと。学ぶことで、人々にメッセージを届けられるようになるといいなと思ったんです。
ガビン
なるほどガチ研究というよりも、学んでメッセージを伝えるという点で、芸能活動にもつながるということだったんですね。
まい子
芸能活動は今年で42年目ですけど、時々視聴者の方から「あの時のあの言葉に励まされました。ありがとうございます」なんて感謝されることがあるんですけど、いやこちらから感謝したいのに、芸能活動しているだけでは難しいなと。
ガビン
それにしても芸能から予防医学は結構な飛躍ですよね。
まい子
まったく無関係(笑)。わたしは文系が全くわからない人間なんですよ。
ガビン
それはそれで芸能人として問題発言ですね。
まい子
そうなんですよね。向いてないんですよね、芸能界。
ガビン
ということは中学高校時代から、自分の中の理系マインドを感じていらっしゃった?
まい子
もう小学校からです。算数・理科とかが大好きで。あの算数とか理科って答えが1個じゃないですか。答えがないものがすごく苦手だったのかもしれないです。瞬間的に「こうだよね、ああだよね」ってすべて進めたい。 余白とか余韻のない人間なんです。

※2 早稲田大学人間科学部eスクール ほとんどの課程をeラーニングで行う日本初の通信教育課程。社会科学、人文科学、自然科学などの文系、理系の枠を越えて受講することができる。
ガビン
それで早稲田の人間科学部というeスクール※2に入られるわけですね。あそこはサイエンス寄りの学部なんですか?
まい子
いや、いろいろですね。文系的なものもあれば、生理学など人間の体に関することも幅広くあって、自分の興味に従って選ぶことができます。わたしの場合は、お医者さんになるわけじゃないけれど、それに近いことが学べるところはないかなと探して、ここを選びました。
ガビン
eスクールはオンデマンド授業が基本ですよね。すると、お仕事をフルで続けながら、帰ってから授業を受けるということですか。ああした、ちゃんとした大学のオンラインって、4年で卒業するのがかなり難しいというか、あんまり想定されてないというか。
まい子
そうです、とにかく厳しかった。特に厳しかった統計学の先生がeスクールの学生に向かって「あなたたちは、受験もせずに入ってきました。受験で入ってきた学生とはレベルが雲泥の差ですよ」って。
ガビン
そんなこと言うんですか!
まい子
「だから、卒業した時にはじめて早稲田出身だと言ってください。それまではここで学んでいると言わないでください」と言われまして。わたしはその教えを守って卒業するまで隠してましたもん。
ガビン
ひー。しかし予防医学をやっていく上で統計はかなり大切そうですね。
まい子
最初「えっ、統計?」って思いましたけど、今思えばすごく重要だったとわかります。
ガビン
統計処理の中でプログラミングなどもやっていった感じなんですか?
まい子
それはしてないです。プログラミングは3年でロボット工学のゼミに入ってから。
ガビン
その展開も、びっくりしました。予防医学を志したのに…。
まい子
はい、ゼミに入る前に担当の教授が退官されてしまって第2志望も第3志望もまったく考えてなかったので、行き場を失ってしまったんです。それで、通学生に「どこかいいところありますか」と聞いたところ、勧めてくれたのがロボット工学のゼミだったんです。
ガビン
勧めるほうもちょっとどうかしてますよね。
まい子
いや、ロボット工学はもう本当に1mmも考えてなかった。
ガビン
それがいったいなぜ……。
あえて難しそうな講義を取る
まい子
その芸能界に入った時にね、ものすごく頑なで「自分は流されないで生きていくぞ」っていう強い信念があったんです。でも、そのせいで、事務所と揉めたり摩擦もあったんです。だから大学に入る時には「新しい環境では、誰かのアドバイスを素直に受けよう」って決めてたんです。
ガビン
真逆のスタンスじゃないですか…….それでその子のアドバイスをまるごと…….。
まい子
ダメ元で、ま、行ってみようかなって。
ガビン
急に柔軟に! ある意味、大人の余裕のようなものを感じます。
まい子
大人だと、ダメでも困らないというのはありますね。就職とかもかかってないので。
ガビン
大人になってからの大学生活のよさですよね。でも予防医学で学んできたものとロボット工学のゼミで要求されるスキルって全然別ものじゃないですか。
まい子
そこもね、大人なのでコミュニケーション能力があるわけです。得意な人に声かけて「ここはどうなっているの?」と聞くことができるんです。だってこのゼミには中学生の頃からプログラミングしてきた学生とかいるんですよ。今から始めるわたしは、プログラミングに関してはそんなに成長しないだろうなってこともわかる。
ガビン
あー。そこは割り切って。でも40代後半ともなると、新しいことを学ぶっていうこと自体もそれなりのしんどさがあるのかなと思うんですけど。
まい子
めちゃくちゃしんどかったですよ。大学の講義って1コマ90分じゃないですか。しかも初めて聞くような講義ばかり。聞いてるそばからもう手のひらの砂が全部こぼれ落ちるような体験でした。10分経った時に「あれ、これ何の講義だっけかな」っていうぐらい分からなかったんですよ。でも幸いオンラインのビデオ授業だから何回も見ることができるんです。そうこうしてるうちに、半年くらいでだんだん分かってくるようになるんです。人間ってすごいですよね。
ガビン
いや〜、最初の段階で折れないのがすごいですよ。
まい子
何度も折れそうになりましたよ。レポートの締め切りが迫ってくると「体調がすぐれなくて」とか言い訳が頭をよぎりました。できない理由を考えちゃうんですよね。その時に、いや、ちょっと待てよ、あなたは何のためにこの講義を受けてるんだ? 大学に来た理由は恩返しでしょ? まずはこのレポートを上げることが大事でしょって、毎回、大学に入った理由に立ち返って。
ガビン
ある意味、いつでも辞めていいわけですもんね。
まい子
そうなんです。将来に関係ないじゃないですか。そうなってくると、講義もどれが難しいか調べて、それを取るようにしてました。
ガビン
え….なんですかそれは。チャレンジするのが好きということですか?
まい子
そう。せっかくなら難しい方がいい。だってわたしは、その授業を落としたところで関係ないので。
ガビン
面白すぎる……。ところでロボット工学に行って、介護ロボット研究をされますよね。これは予防医学に対する興味を、ロボット工学で活かそうと思ったんですか?
まい子
それはね、本当に運命の出会いというか。四国にいる整形外科の先生が、社会人入学でゼミに入って来られたんです。その先生が、実はね、自分が担当してる患者さんがみんな高齢者で、ロコモティブシンドロームになっていると。これは、超高齢社会の日本にとって大きな社会問題になるからどうにかしたいとおっしゃっていて。それでロコモ予防ができるようなロボットを開発したいと思ったんです。
ガビン
またまた偶然じゃないですか!! もしその整形外科の先生が入学して来なかったら?
まい子
いま何してたか想像できないです。偶然の出会いでわたしの人生成り立ってる感じがします。
ガビン
それで医学とロボットが繋げられるとわかって修士に進まれたんですか?

まい子
そういう気もまったくなかったんです。作ったものを国際ロボット展というところに出したんですけど、そこに来られた企業の方が「すごくいい研究してるからこの先の研究になんかお手伝いさせてください」って言われたんですね。それが4年生の夏の終わり頃のことで。
ガビン
もう卒業間近ですね。
学び終えてやっと始まる“恩返し”
まい子
この先の研究って? 4年で終わりと思っていたので。大学を出たら恩返しが始まると思っていたんです。よく考えてみると、恩返しできるレベルまで達していないって気づいたんですよね。それで大学院ってところに行ってみようかな?と。
ガビン
結構ギリギリのタイミングで院進を決めたんですね。さらに、そこからまた博士に行くときに「抗老化学」という急カーブの転身をしますよね。
まい子
はい、修士で研究を続けるうちに「もっとやってみたいな」と思ったんですが、ゼミの先生は博士課程を受け持っていなかったんですね。それでまた探して「老化学」の博士課程の方に進みたいと思いました。
ガビン
ロボット研究からはまた完全な他ジャンルですね……。よく入学の審査に通りましたね。
まい子
「ロボットやってた人間が生命科学に行くのは絶対無理。もう領域が違いすぎるから」と怒られました。
ガビン
その領域の先生からしたら「舐めてんのかーっ」てなりますよね。
まい子
入学の面接で「そもそもあなたは、これはどういう意味かわかるの? これは? これは?」ってすごく意地悪な質問をされたんですけど、全部答えられちゃったんですよね。というのも、ロボットやってる時に「基礎老化学」っていう授業を2年間みっちり勉強していたんです。
ガビン
ああー、ここで先程の「難しい教科ほどチャレンジする」ことが生きてくるんですか。
まい子
「あれ、意外に知ってるんだね」っていう。それで博士課程に進めることになりました。
ガビン
綱渡りですね〜。しかも巡り巡って最初の目的地である予防医学に近づいていってるし。
まい子
なにげなく近づいてきてました。

ガビン
それにしたってハンダゴテとプログラミングの世界から、ピペットと顕微鏡みたいな世界にいきなり変わったわけですよね?
まい子
でも、わたしも「いけそうか、いけなそうか」はその都度判断してると思うんです。明日からマラソンランナーになる、みたいな話だったら「絶対ノー!」です。でもピペットをうまく使えるかどうかでいうと、多分行けると思ったんですよね。
ガビン
そこはこれまでの自分をメタ視点で判断できる年齢でもありますものね。
まい子
子どもの頃も、自転車乗れるようになるには時間がかかるじゃないですか。繰り返し練習してできるようになりますよね。そこは年をとっても同じだなと思うんですよ。20代の学生が1回でできることが、わたしは3回かかるかもしれないけれど、そこは繰り返しの回数だけの違いだと思うんです。
ガビン
時間はかかるけれど。
まい子
20代の子たちは、もう本当にスポンジが水を吸収するようになんでも学べますよ。わたしたちはやっぱり時間はかかる。だって、みんなのお父さんお母さんよりもだいたい年上ですからね。そりゃ同じようにはいかないですね。
ガビン
できないことに関して、全然ネガティブじゃないんですね。
まい子
できることは、回数重ねていけばできる気がするし、あとこれは無理だなって思うことはスパッと諦めちゃうんですよね。無理しないんです。できないことはやらない。
ガビン
努力は惜しまないけれど、どうやっても無理なことには抗わないみたいな。
まい子
全然抗わないです。
体の変化には抗わない
ガビン
以前何かのインタビューで、更年期について「勉強で忙しくして更年期を『ないもの』にしていた」と発言されていて驚いたんですけど。
まい子
ああ〜、そうですね。急に体が熱くなっちゃうとか、ちょっと怒りっぽくなっちゃうとか、そういうの起こるんですけど、でもそれ、みんながなることなんで、別におかしくないよね、ってことで悩まないんですよ。
ガビン
悩んでも解決しないからな、悩まないってことですか。
まい子
更年期障害はねえ、動物として普通のことだと思うので。それよりも目の前のことに集中したいんです。体の変化には、もう全然抗わないです。
ガビン
でもですね、いま研究されている「抗老化学」って、「抗」っていう字が入っているじゃないですか。これ、細胞レベルで健康寿命を延ばすとかそういう研究だったりしますよね。カロリー制限と老化の関係とか……?
まい子
はい。今年から東京大学大学院理学系研究科に移ったのですが、早稲田ではカロリー制限模倣物質というものを探索してたんですね。カロリーを制限することであらゆる生物は寿命を延ばせるっていうのがもう研究報告があるんです。
ガビン
模倣物質というのは?
まい子
それを食べると体が「カロリー制限してるのかな?」って勘違いする物質ですね。そういうものをものすごくミクロな世界で構造解析するような研究室に今はいます。
ガビン
となると、ご自身でもカロリー制限されたり気を使っている?
まい子
全くしてないですね。睡眠時間もめちゃくちゃだし、暴食したりしてます。
ガビン
えー。
まい子
健康のために運動しましょう、とか言われても全然しない。もしなにか抗っている部分があるとしたら、毎日、寝起きのぼろぼろの状態で鏡を見て「今日も大丈夫」って思うんです。「あ、今日も起きることができた」「鏡の前まで来られた」って思う。だってそれは嘘じゃないじゃないですか。
ガビン
自分に対する声がけということ?
まい子
そうですね。「今日も美しいね」だと嘘つけって思っちゃうと思うんだけど、「大丈夫」っていうのは嘘じゃないので、そういうのは自分の体もわかるんじゃないかと。
ガビン
それはまた、研究の方向とはかなーりちがう、つまりマインドの話ですよね。
まい子
そうです。完全にマインド寄りの話です。

ガビン
そういえばiU大学で教鞭を取られていますが、「抗老化学」ではなく、「ヒューニング学」というヒューマンのチューニングというわりとマインド寄りの内容ですよね。
まい子
はい、大学で教えることなんてわたしにはできないと一度断ったのですが、もう一度お願いされて、そこまで言ってくださるなら一度何ができるかと考えてみたんですね。その時に以前からやりたいと思っていたことに思い当たりました。それは、芸能界でも順調に活躍されている方でも突然自ら命を絶つこととかありますよね。わたし自身芸能界で一度地獄を見て10年くらい彷徨っていた人間なので、そこからの舞い戻り方とか、心の整え方については何かお話できるのではないかと思ったんですね。
ガビン
あー。そういうことなんですね。
まい子
研究領域とは違うのですが、人間科学と言えば人間科学。
ガビン
そういうノウハウがまい子さんの中にあって、それで芸能も研究も続けられてきたという思いがあるのですか?
まい子
わたしが何で出来上がっているのは自分ではわからないですけど、壁を乗り越えるのが大好きなんです。乗り越えた瞬間から新しい世界が広がるんですよ。それがわたしにとっての最大のご褒美なんです。脳内物質プシュって感じで。
ガビン
壁を自ら求めていってしまうとか….?
まい子
壁が来ると俄然楽しくなってしまう。ロールプレイングゲームみたいだなって思うんです。人生でもね、会社ですごく嫌な上司がいたりすると、悩むじゃないですか。家に帰って泣いたりね。でも、ゲームだと思うと泣かないですよね。この相手を倒すにはどうしたらいいか考える。
ガビン
くよくよするより、攻略法を考えることに集中するんですね。でもそれはなかなかできることではないですよ。メタ視点で常に自分を見ることができないと。それってもともとそういう資質なんですか? それとも芸能界の荒波で揉まれるうちに獲得したサバイバル術とか?
まい子
むかしからというか、幼少期の家庭がめちゃくちゃだったっていうのがあるかもしれないですね。両親が常に大喧嘩をする家庭だったんですよ。それを、眼の前に見ていても、見えていないかのごとく過ごしてたんです。
ガビン
うわあ。
まい子
今日のこれはどっちが悪いかな、とか、母親はもうその言葉使わない方がいいのになあ、とか幼稚園くらいのことから俯瞰で見ていましたね。その頃から俯瞰で見る癖がついていたのかもしれないです。
ガビン
ここにいながら、ここではないところから見ているような。

まい子
30歳過ぎてから、主人と一緒にね、はじめて芋掘りしたんです。それがめちゃくちゃ楽しくて。幸せだなーって。
ガビン
い、芋掘り?
まい子
家庭円満だと芋掘りするでしょう? 夏の思い出みたいな。わたしはしたことなかった。だからたぶんわたしは不遇だったと思うんだけど、不遇な状態しか見たことないから、気づくことができなかったんですよね。小さい頃にできなかったことを、30歳すぎてから取り戻してるのかもしれないなあ。
60過ぎたら、流されていきましょう
ガビン
大学だけじゃなく、人生全体がリカレントみたいな感じなんでしょうか。
まい子
そうですね。人生のリカレント。それを楽しんでいる。わたしね、いろんなことをやっていて大変ですね、よく切り替えられますね、なんて言われるんですけど、切り替えてないんですよ。ご飯を食べましょう、歯磨きをしましょう、お風呂に入りましょう、って切り替えじゃないですよね? 生活の中での自然の流れでやっている。それと同じ感じなんです。だから辛いとか大変であるとかは、ない。
ガビン
たしかに仕事のジャンルとかを勝手に分けすぎて自分を縛っているのかもしれません。ところで、まい子さんも還暦を越えられたということで、これからのことをどうお考えなのかお聞きしてもよいですか?
まい子
わたしは今後のこと全く考えない人間なんですよ。
ガビン
これまでのお話をお聞きすると、それはよく理解できます。
まい子
いつも誰かが、何かのきっかけで扉を開いてくれてきた。そこに興味本位で足を踏み入れるだけなんですよね。
ガビン
それを怖がる人もいると思うんですけど。
まい子
だってわたしが考えていることなんて、これまで培ってきたことの範囲の中の小さな小さな枠の中で考えてきたことじゃないですか。これから先のことを、その小さな枠の中で考えたらあんまり飛躍がないですよね? いまわたし、すごく頑張っている人に見えているかもしれないんですけど、全然頑張ってないんです。得意なことをやってるだけ。「すごいね」って言われるんですけど、全然すごくもなんともなくて。ただなんとなく、ふんわりと流されているんです。みんなも得意なことがあったら、流されたらいいのにって思います。ガビンさんもそうなんじゃないですか?
ガビン
完全に流れに身を任せてますね。
まい子
それがね、1番人生楽しくすることだと思うんです。特に60過ぎたら得意なことだけやればいいんじゃないかな。好きなことじゃなくて、得意なことね。流れていきましょう。
ガビン
強すぎました。流されるままに強いというのは、老いの最強スタイルなのではないでしょうか。いや、老いてくると、流されることが強さにつながるのかもしれない。流され上手は、老いれば老いるほど強くなるとか?それはさておき、うすうす思っていたことなのですが、老いてからの「学びなおし」って、とても自由なんですね。若いころの大学生活は「その後」を考えなくてはならない不自由さがある。新しいことを知ることは、誰にとっても楽しいことのはず。「学びなおし」こそが純度の高い学びのエンタメなのかもしれませんなあ。また何かに入門したくなってまいりました。
Profile
いとうまい子/俳優、研究者。1964年、愛知県生まれ。1983年に芸能界デビュー後、ドラマや映画に出演。2010年に早稲田大学人間科学部に入学し、予防医学とロボット工学を学び、博士課程では基礎老化学を専攻。2021年には内閣府・教育未来創造会議の構成員に選任。2025年4月より東京大学大学院理学系研究科に所属し、情報経営イノベーション専門職大学教授に就任した。