ストレスを手懐ける!更年期のメンタルリブート入門。

ココロの元気もなくなりがちな更年期。テストステロンを減少させる日々のストレスを、上手にかわすコツと考え方を身につけよう。

編集・取材・文/オカモトノブコ イラストレーション/加納徳博

初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

更年期のメンタルリブート
教えてくれた人

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)/米イリノイ大学精神科に留学後、樺沢心理学研究所を設立。メンタル疾患を防ぐ医学情報をYouTubeなどで精力的に発信している。『精神科医が教える ストレスフリー超大全』など著書多数。

テストステロンが減ると、メンタルレベルが急降下。

テストステロンが減ると、メンタルレベルが急降下

最近、疲れやすくてヤル気も集中力も出ない……。年齢とともに表れるそんなメンタルの不調には、更年期が影響している可能性も。

「うつは中高年に多いメンタル疾患ですが、特に40〜60代の男性では、テストステロンの低下による“うつ状態”が紛れているケースが見られます。テストステロンは肉体だけでなく精神にも作用し、自信や意欲、積極性などをもたらすもの。これが老化とともに減少し、メンタル不調を招くのです」と、精神科医の樺沢紫苑さん。

さらに輪をかけるのが、過度なストレス。不安や緊張が続くと脳は“テストステロンを作れ”という指令を減らし、逆に“ストレスホルモン”のコルチゾールを増やす。そんな悪循環によるメンタルダウンを防ぐためにも、日々のストレスマネジメントが重要なのだ。

脳内物質の働きを知ることで、ストレスに対処する。

脳内物質の働きを知ることで、ストレスに対処する

「“ストレスホルモン”と呼ばれるコルチゾールは本来、循環器系や免疫系などに働きかけ、ストレスから全身を守る働きを担います。不安や恐怖、怒りなどの感情を生むノルアドレナリンやアドレナリンも、心身の集中力を高めて活動するのに不可欠な脳内物質です」

けれど問題は、さまざまな刺激によるストレスが夜まで続き、これらが絶えず分泌され続けること。

「ストレスを解消するには、夜はリラックスして心身をしっかり休ませること。そこで必要なのが、精神の安定や癒やし、幸福感をもたらす脳内物質のセロトニン、オキシトシンの働きです。快楽物質のドーパミンやエンドルフィンでも幸福感は得られますが、脳は興奮してむしろ疲れます。映画やゲームなど興奮系の娯楽は寝る2時間前まで、と心得ておきましょう」

ストレスで増える。
  • コルチゾール
  • ノルアドレナリン
  • アドレナリン

コルチゾールは血圧や代謝などを調整してカラダを活動モードに。増えすぎると免疫力の低下や肥満、うつなどを招く。不安や恐怖で分泌されるノルアドレナリンは集中力を、緊張や怒りにも関わるアドレナリンは心身の興奮を高める。

ストレスに対抗する。
  • セロトニン
  • オキシトシン

睡眠と覚醒をコントロールし、平常心や落ち着きをもたらすセロトニン。ストレスで増える脳内物質の過剰な分泌を抑え、バランスを取る働きもある。オキシトシンは愛情や他者とのつながりなどで増え、癒やしと幸福感を生み出す。

幸福感・快感を与える。
  • ドーパミン
  • エンドルフィン

やる気を生み出し、記憶や学習にも関わるドーパミン。脳の報酬系に働いて快感を与えるが、増えすぎは依存症の原因に。エンドルフィンは過度なストレス状態・リラックス状態の双方で分泌され、集中力や創造性、多幸感をもたらす。

現代社会では「しなやかに受け流す」チカラが超重要。

最近の研究では、ストレスの影響がその人の捉え方によっても大きく左右されることが明らかに。

「ストレスを受けて分泌される脳内物質は、いわば本気モードになる活力剤のようなもの。人生において不可避なストレスを耐え忍んでダメージを受けるのでなく、スッと受け流す能力を身につけることが最善です。より具体的にいえば、寝るときにストレスがない状態で、翌日にもストレスを持ち越さないこと。そのためには、日々の生活習慣でカラダとココロを整えるのが何より重要なのです」

特に近年はスマホなどの影響で夜更かしが増え、深い睡眠とココロの安定をもたらすセロトニン不足が多くのメンタル不調を招いているという。左で紹介する3つの習慣を意識して、更年期のダメージに負けないメンタルを育もう。

ストレスまみれの現代社会では、しなやかに受け流すチカラが超重要。

ココロとカラダを整えるストレスフリーな3つの習慣。

1.運動

運動

運動不足は、テストステロンが減る更年期のメンタル不調を招く最大の要因。

「ストレスは蓄積する前に日々、清算するのが肝心です。増えすぎたコルチゾールは30分の運動で正常化し、幸福感をもたらすセロトニンやドーパミンは増加。さらにBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、メンタルも脳の働きも全般的に改善します。また筋トレなどの無酸素運動+有酸素運動の組み合わせは、疲労回復に必要な成長ホルモンの分泌を3〜5倍に。ランニングなら5〜10秒程度のダッシュを挟むインターバル走もおすすめ」。

    ポイント

    • 中強度の運動を週120分以上。
    • 筋トレ&有酸素運動を組み合わせる。

    軽く汗ばむ運動を週2、3回が効果を得るための目安。効果を最大化するには、ジョギングなど有酸素運動の前にも5〜10分程度の筋トレを加えるといい。

    2.睡眠

    睡眠

    6時間以下の睡眠が続くと、メンタルを含めたほぼ全ての脳機能が低下する。

    「特に悪影響なのが、夜間のスマホ。興奮物質のドーパミンやアドレナリンが交感神経を高め、ブルーライトは眠気を誘うメラトニンの分泌を抑制します。寝る2時間前は、ドラマやゲームなど興奮系娯楽、飲酒や食事も避けたい。寝る90分前に入浴を済ませ、照明を落としてリラックスする過ごし方が、睡眠の質・量を改善してストレスを解消する秘訣に」。

    寝る前のNG習慣。

    • スマホやPC
    • 興奮系の娯楽
    • 飲酒や食事
    3.朝散歩

    朝散歩

    「精神の安定や脳の覚醒をもたらすセロトニンを活性化するのが15分程度の朝散歩。その生成は朝の光を浴びるとスタートし、15時間ほどで深い眠りに必要なメラトニンに変換されるため、行うのは起床後1時間以内に」とのこと。またセロトニンはリズミカルな運動でも活性化するため「雨天の場合はラジオ体操や、朝食をよく咀嚼して食べるなどの方法も」。

    できない場合はこれもOK。

    • 窓際で日光浴する。
    • よく嚙んで食べる。
    • ラジオ体操。