
「メンタルのことは、ボロが出るので言わない。」笑いとウェルビーイング。ママタルト・大鶴肥満(前編)
笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。初回のゲストは、190kg超えの身体を持つママタルトの大鶴肥満さん。2024年「M-1グランプリ」ファイナリストとしてお笑い界に大きなインパクトを残し、舞台やテレビに引っ張りだこの人気者です。肥満さんが考えるウェルビーイングとは?
インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/鳥羽田幹太
Profile
大鶴肥満(おおつる・ひまん)/1991年、東京都生まれ。2016年、檜原洋平とママタルトを結成。2022年、2023年の「M-1グランプリ」で準決勝に進出し、2024年にファイナリストに。白武ときおが監督を務めたドキュメンタリー映画『まーごめ180キロ』、続編『肥満の結婚前夜』では主演。インターネットラジオ番組『ママタルトのラジオ母ちゃん』(GERA)、春とヒコーキぐんぴぃとのコラボYouTube『背徳フライデー』配信中。
Instagram:@ohtsuruhiman
誰かと身体を交換したら、あらゆる激痛に襲われるはず。
白武ときお(以下、白武)
今、朝10時ですけど、どうですか調子は。
大鶴肥満(以下、大鶴)
そうですね、巻き肩、猫背、デブ、ハゲという、そんな私が取材を受けるなんて光栄でございます。ウェルビーイングというより、えー、バッドビーイングフォーエバーですね。
白武
肥満さんはウェルビーイングについてどんなことを考えていますか?
大鶴
そうですね、これがウェルビーイングなのか分からないんですけども、そろそろすべてのエスカレーター、右側も左側も立ったまま移動してもいいんじゃないかなって思うんですよ。これはウェルビーイングに入りますか?
白武
広義では。
大鶴
じゃあ「広義では考えてる」っていう状態ですね。
白武
なるべく立ち止まっていきたい?
大鶴
そうですね。現状維持、ステイ、素晴らしいことだと思いますね。
白武
肥満さんを知らない人に、現在の身体の状態を説明してもらってもいいですか?
大鶴
「一日身体を交換してみない?」って持ちかけて、交換して、相手が俺の身体に入った時に、あらゆる激痛に耐えかねて立つことすら困難になるんじゃないかなって思うほどの身体ですね。
白武
何が常人とは違うんでしょう。
大鶴
まあ、重さ? 僕、今年34歳になるんですけど、最近ベッドから起き上がる時に「重っ!」て思うようになりました。
白武
(笑)。体重の増減はこれまでどんな推移だったんですか?
大鶴
だいたい年次で増えていきましたね。小学校でマックス60kgぐらいだったのかな。中学校で90kg、多分中学と高校の間に100kg行って、高3で135kg。大学卒業で150kg、みたいな感じですね。
白武
どうして体重が重くなっていったわけですか? ご機嫌に過ごしていたんですか?
大鶴
食べたい時に食べる、という精神のもと頑張ってきたと思いますね。
白武
そういうルールを自ら作り上げたのか、それとも楽しいことを優先していく人生なのか、どちらでしょう?
大鶴
後者かもしれないです。みんなどこで気付くんですかね、自分が間違った道を進んでるって。外食を禁止されていた家庭なんでね、大学生になってお金を自由に使えると思った時に暴発してしまった感じもありますね。

白武
肥満さんは人を笑わせる職業ですけど、笑わせることには喜びがありますか?
大鶴
ありますねえ。あると思います。
白武
そのことに、いつ頃気づきましたか?
大鶴
大学お笑いの時ですかね。僕は2年からお笑いサークルに入ったんですよ。初めて舞台に立った場所は〈新宿ハイジアV-1〉でした。
白武
人前に出ると緊張しますよね。どうして舞台に立とうと思われたんですか?
大鶴
どうしてですかねえ。昔からお笑いが好きだったんですよ。でも野球も好きだったから、大学1年の時に野球サークルとお笑いサークルを天秤にかけたんです。かけ持ちすればよかったんですけど、どっちも中途半端になるのは嫌だなと思って。mixiで「どっちにしようか迷うなあ」みたいなつぶやきをしたら、高校時代に俺をいじめてたやつから「お前みたいにつまんないやつはお笑いなんてできないから入らないほうがいいぞ」ってメッセージが来て、くそう! 確かに! と思って野球サークルに入ったんですよ。でも結果的に飲みサーだったんで野球できなくて、一兎に絞ったのに! 二兎を追ってないのに両方逃した! っていうモヤモヤがずっと残ってて。それで大学2年の時にお笑いサークルに入り直したんです。
白武
そこから舞台に立ってウケることの喜びを感じて、今もそれが続いているんですか?
大鶴
はい、そうですね。
白武
漫才ではどういう時がいちばん気持ちいいんですか?
大鶴
全部ですね。何かを振られて、返して、ウケたら嬉しいです。テレビの場合はほっとする気持ちがより強いですね。良かった、ウケたーっ! ていう。
白武
去年M-1グランプリに出られてからテレビ露出が増えていると思いますけど、ステージが変わったと思いますか?
大鶴
うーん、変わったのかなあ。笑かす相手が変わったのかもなとは思いますね。ライブだったらお客さんがいるけど、テレビだとお客さんがいないじゃないですか。より痺れる展開が増えてきた感じはしますね。
日々の反省は、相方にもLINEで送る。
白武
ここ半年は楽しく過ごせていますか?
大鶴
今だと(春とヒコーキの)ぐんぴぃさんとやってる『背徳フライデー』、あれが心の安らぎですね。デブふたりが背徳感のある飯を食うっていうYouTubeなんですけど。飯を食って面白いことを言うっていうのが好きなのかもしれないですね。これウケそうだぞとかあ、これ言ったらウケるかもってワクワクしながら収録に行くんですよ。これが全部ウケたら最高ですね。結局自信があるかないかですね。
白武
最近のメンタルはどうですか?
大鶴
言うとボロが出ちゃうんで、言わないようにしてます。
白武
それは自分のルールとして?
大鶴
はい。めちゃくちゃバレてると思うんですけど、出さないようにしてますね。
白武
反省することはありますか?
大鶴
日々反省かもしれないです。あの時こうすればよかったなとか。一回、ラパルフェと一緒に名古屋にある大学の文化祭に行ったんですよ。そこで「都留さんと肥満さんでウッディとハムの漫才やってください!」って無茶振りされて、やべえと思いながら「どうも〜! ウッディー、今日はいろんなお客さんがいるね」「わあ、本当だ」「左から、べっぴんさん、べっぴんさん、1つ飛ばしてミスターポテトヘッド」「ミスターポテトヘッド!?」っていう即興漫才やって、とりあえずその場はなんとかなったんです。でも家に帰った後に、あそこ絶対「べっぴんさん、べっぴんさん、バズ・ライトイヤー飛ばして」「バズ〜!」がウケたなあと思って。都留くんのLINEは知らなかったから、いったん尾身くんに反省の気持ちを送りました。
白武
トライアンドエラーなんですね。日記やメモに書くことは?
大鶴
もしかしたら「LINEを送る」というのが俺の中でのメモかもしれないですね。あの時こうすればよかったなと思った出来事が、誰かに伝えることで蓄積されていく感じがします。
白武
相方の檜原さんにも送るんですか?
大鶴
めちゃくちゃ送ります。この時こうだったなとか、こっち返してたらウケたなとか。でも彼は鬱陶しいと思っているのか、暖簾状態ですね。何も覚えてないし。
白武
そういう時はどう思うんですか?
大鶴
ストレスです。まあ、でもそういうもんじゃないですかねえ。他人ですから。
白武
最近、爆笑した記憶はありますか? 仕事でもプライベートでも、思わず笑っちゃうような。
大鶴
脳みそを溶かすでお馴染みのショート動画をよく観てますね。動物系のショートが好きなんですよ。子猫をあやしてたら親猫が来て怒られちゃうとか、獣医師に言われて衝撃だった言葉とか。あとアナウンサーが木琴の前で「秋になりました」ってレポートしてたら、子供が「やらして〜」ってやって来てポンポンやって「綺麗な音〜」って言う動画もいいですね。癒やされます。
白武
他人からしたら不健康かもしれないけど、自分の健康、健やかさのためにやっているようなことはありますか?
大鶴
ビッグ料理ですかね。明らかに1人前じゃない量の鍋なんかを作るんです。作ることが一番のストレス発散なんですよ。金色の鍋にパンパンのカレーとか作って食べて、1/8も減ってないんですよ。それを冷凍して1週間以上かけて食べる。いっぱい作ることを目的としたビック料理。これが最近の僕の安らぎですね。
白武
食べる側かと思いますけど、作るのも好きなんですね。
大鶴
はい。でも嘘つきました。1/8っていましたけど、本当は1/4くらい食ってます。明日の分とっておこうと思ったら半分食べてることも結構あります。
白武
普段から料理はするんですか?
大鶴
好きですねえ。食べたいものをぶち込んでるだけですけど。鍋だったら、えのきとシメジと豚バラと鶏ももと豆腐、油揚げ、ネギ、白菜、しらたき、椎茸なんかも入れたりして。昆布ベースの出汁に、さらにキノコの出汁が出て本当においしいんですよ。最後は鍋の汁をラーメンのスープにするっていう。
やばいと思ったら力を逃がすために転ぶ。
白武
普段どんなことにお金を使いますか?
大鶴
最近は、中央線が混んでたら追加料金を払ってグリーンにしちゃってますね。移動の快適さ、他人に迷惑をかけない、一挙両得なんで。新幹線に乗る時に東京駅から行くんですけども、中央線が地味に混んでるんですよね。新宿から乗ると四谷辺りで座れるようになるんですけど、基本的には立たなきゃいけない。時間によってはぎゅうぎゅう。俺も嫌だし周りも嫌だろうなっていうのがあるんで、新宿から東京までの区間でも750円払ってグリーンにしてますね。そこは厭わないです。
白武
飛行機はどうしてるんですか?
大鶴
それはもう、一緒にフライトを楽しむしかないですね。
白武
窮屈ですか?
大鶴
窮屈ですよそりゃ。シートベルト足りないですもん。いつも追いベルトをもらって。
白武
標準体重の人だったら考えないようなことが、肥満さんにはたくさんあるんでしょうか。
大鶴
あります。考えることは、あります!
白武
(笑)。コントロールしなきゃいけないことがたくさんあるわけですよね。
大鶴
コントロールしなきゃいけないことは、あります!
白武
ありがとうございます(笑)。あと、肥満さんは舞台上でもネタの中でもだいぶ動きますよね。事前にストレッチや準備運動はされるんですか?
大鶴
何もしないです。
白武
出たとこ勝負?
大鶴
はい。
白武
筋をやっちゃったりは?
大鶴
自分の中でストッパーが付いてるみたいなんですよね。この前東京ドームでファーストピッチしたんですけど、東京ドームの巨人戦ってイニング間にイベントがあるんです。そのひとつに寿司レースというのがあって、子供たちが寿司の着ぐるみを着て外野でレースするんですけど、俺もエビになって参加して4着だったんですね。ニュースでその走りを見た芸人から「膝の使い方とかめっちゃ怖かった。壊れそうな走り方してたよ」と言われて。でも逆で、俺はあの時これもっと前に出たら多分腱をやる、肉離れを起こすっていうのが分かって、ブレーキをかけながら走ってたんですよ。それできっと膝の関節の使い方がおかしく見えた。抑えて走ってああなったんです。人よりも違和感を察知するのが早いんで、やばいって思ったら力を逃がすために転ぶこともありますしね。
白武
(笑)。
大鶴
前に草野球中に1塁手を挟殺しそうになって、このまま行くとファーストを守っていた滝音のサスケさんを殺してしまうと思って、ジャンプで飛び越えたんです。初めて自分の体重を無責任に宙に放り投げちゃったんですよ。そしたら顔から地面にいっちゃって、パーンとめっちゃ強く打って。衝撃が加わった瞬間にまず俺は右目を探したくらいの衝撃。まあ右目はあったんですけど、顔がぷくーって腫れ上がって。それもたくさん鍋を食ったら治りました。
白武
超回復ですね。
大鶴
はい。34年間でそれくらいです、外傷は。ギプスをしたことは一度もないですし、そもそも頑丈なのかもしれません。それに加えて、これをしたら壊れるかもっていう身体の逃がし方が上手いんだと思います。
白武
普段持ち歩いているものを見せてもらってもいいですか?
大鶴
普段、眼鏡をかけてるんですけど、そのレンズの上から装着するとグラサンになる〈JINS〉のクリップオンをいただいて。身バレ防止になるんですよね。
白武
バレない?
大鶴
バレないんですよ。
白武
本当に? 検証済みですか?
大鶴
検証済みです。
白武
知り合いに会った時はどうするんですか?
大鶴
「おざす! お疲れ様です! あっ(グラサンをはずして)まーちゃんごめんね」こうです。引っ掛けてサングラスにしてるので、目かゆいなと思ってうっかりこすると落としちゃうんですよね。気をつけないと。あとサングラスかけてネタやってる芸人って結構いて、じぐざぐさんとか、大学お笑いの同期にもいたんですよ。前に「キャラクターでやってるの?」と聞いたら「本当に緊張しなくなる」と。目が泳いでもバレないし、真っ暗で落ち着くんですって。確かに僕も暗くなると落ち着くんですよ。押入れみたいで。押入れにいるの好きだったし。
白武
他に持ち歩いているアイテムはありますか?
大鶴
日常使いをしているがゆえに忘れてきてしまったんですけど、足ツボ棒は持ってますね。新幹線移動って気持ち良くて寝ちゃうんですけど、起きると疲れてるんですよね。そういう時に眼精疲労のツボをゴリゴリしながら寝ると、本当にすっきりクリアに目が覚めるんです。
白武
それは誰かに教えてもらったんですか?
大鶴
それもね、ショート動画なんですよ。気持ちよさそうって思って買いました。で、この機能のすごいところはもう一点あって。新幹線のトイレは狭くてお尻が拭けないから、トイレを済ませてから新幹線に乗るんですけど、どうしてもお腹痛くなってトイレに入ったんですよ。俺はもう古墳時代みたいに、お尻を押し付けて拭く木簡を持ち歩かなきゃいけないのかなって思った時に、足つぼ棒か!? と思って。棒にトイレットペーパーをあてがって、手の延長としてお尻拭くことに成功したんですよ。絶対肌身離さず持たなきゃいけないなって思いましたね。
白武
ライフハックですね。
