「190キロの身体で野球ができるのは奇跡。」笑いとウェルビーイング。ママタルト・大鶴肥満(後編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。ママタルト大鶴肥満さんのインタビュー後編では、自称野球歴16年の肥満さんのスポーツとの関わりや、不調との向き合い方について伺います。

インタビュー/白武ときお 文・編集/飯田ネオ 撮影/鳥羽田幹太

Profile

大鶴肥満(おおつる・ひまん)/1991年、東京都生まれ。2016年、檜原洋平とママタルトを結成。2022年、2023年の「M-1グランプリ」で準決勝に進出し、2024年にファイナリストに。白武ときおが監督を務めたドキュメンタリー映画『まーごめ180キロ』、続編『肥満の結婚前夜』では主演。インターネットラジオ番組『ママタルトのラジオ母ちゃん』(GERA)、春とヒコーキぐんぴぃとのコラボYouTube『背徳フライデー』配信中。
Instagram:@ohtsuruhiman

野球を奪われたら芸能界を辞める。

白武
最近の肥満さんは心も身体も生き生きとした状態ですか?
大鶴
はい。
白武
忙しいですか?
大鶴
気を抜くと毎日何かしら仕事が入っている状態ですけども、この前は気を引き締めてディズニーランドに行ってきました。アベコベ三脈のトラック(スミス)とげんちゃん、そいそーすのカメオ、源川の温野菜つみれ、総体重705kgのメンバーでディズニーランドをブイブイ言わせてきましたね。
白武
標準体重の人と行くのとは楽しみ方が違うわけですか?
大鶴
そうなんですよ。5人で行動してたんですけども、「ミッキーのフィルハーマジック」っていうアトラクションにみんな並んで座ったんですよね。そしたら後ろに座ってた人が「なんかデブ多いな」って。そういった強い印象を与えることに成功しました。
白武
そういう“チクチク言葉”を耳にした時はどういう気持ちになるわけですか?
大鶴
えっ、今のチクチク言葉だったんですか!? もう日常過ぎてチクチク言葉だと思わなかったです。ビジネス用語というか、BtoBくらいに思ってました。
白武
他の人から言われて気付くチクチク言葉って他にもありますか?
大鶴
ありますけど、ウィットに富んでいたら何とも思わないです。前にモグライダーの芝さんと話していた時に、僕はテレビや舞台ではコンタクトを付けてるんですけど、日常生活では眼鏡をかけておりまして、それを見た芝さんが「お前目もわりいのかよ! 何が楽しいんだ?」って言ったんですよ。それを聞いて、確かに何が楽しいんだ? って思ったことはありましたね。芝さんが急に俺になったら何を楽しむんだろう。ただ、僕は意外と全部楽しんでるのかなと。この身体だからこそできることもありますし。

白武
身体を引き締めようと思った時期もあったんですか?
大鶴
ありましたよ。高校生の時にビリーズブートキャンプをやりました。ビリー隊長の言葉は今でも胸にしっかり刻まれております。1週間やって1カ月置いてまた1週間やる、やってはやめての繰り返しでしたけど、本当にめっちゃ痩せましたね。あのDVDって4部作になってるんですよ。1〜2日目の基礎編、3〜4日目の応用編。 5〜6日目の腹筋編、7日目の総集編。応用編がしんどすぎてみんなやめるんで、7日目を7日間やる方法を編み出してからは継続的にできるようになりました。
白武
大学生以降はどんな運動を?
大鶴
趣味で草野球をやる程度ですね。大学の1年生から草野球を始めて今の今までやってるんで、野球歴16年です。そのおかげか重い身体でも動かせる。急激に太ったわけではなくてゆっくり体重が増える過程で運動を続けてきたんで、自分の体の動かし方がわかってるんです。亀仙流の修行を受けてる感じです。この重い甲羅を取ったら俺はどれだけジャンプするんだ? っていう。
白武
野球はどういったメンバーで?
大鶴
芸人の草野球リーグがありまして、一応事務所ごとにまとまっているんです。僕は人力舎のチームに入ってるんですけど、オールラウンドサークルのように、別の事務所の人もたくさんいる状態ですね。今だとひつじねいりの松村さんもいれば、世界クジラ村田くんもいます。
白武
野球は肥満さんにとってどんな存在ですか?
大鶴
これを奪われてしまったら、俺はもう芸能界辞めますね。心のオアシス。スポーツの中で、自分が唯一ヒーローになれるのが野球です。やっぱりスポーツで活躍する場がなかったんで。高校時代に体育の授業でやったラグビーも体格を活かせて楽しかったですけど、いざ本格的にやるとなるとみんなも大きくて強いから埋もれてしまう。野球の場合ちっちゃくて足の速い選手とか、全体的にバランスがいい選手とか、個性があるんですよね。俺は打撃特化型で、明らかに打球速度が違うんでみんなからオーッて言われます。ストレス発散になるし、自分が輝ける場所だなと思ってますね。
白武
肥満さんの身体でそんなに野球できるっていうのは、かなり奇跡ですか?
大鶴
奇跡だと思いますね。本来ならたまに海外で見かける、ベッドに寝たまま「助けて動けない〜!」って吹き替えが入るような男ですから。すごいことだと思いますよ。
白武
野球のような存在は他にもありますか?
大鶴
ポケモンカードと、最近はボウリングをやりたいなと思ってますね。M-1ツアーで確か秋田に行った時に雨が降って行き場がなくて、インスタのストーリーズを見てたら(ひつじねいりの)松村さんたちがラウンドワンにいたんですよ。その時に俺、「なんで声をかけてくれなかったんですか!」って叫んだんです。行けなかったことじゃなく、ボウリングやりたかった思いが強くて出た叫びで。あ、俺はボウリング好きだったんだなって気づいたんです。だって大学生の時も1人でボウリング場に行ってハウスボールでカーブを練習してましたから。それくらい好きだったんで、今熱がありますね。最近は行けてないですけど、ボウリング好きの芸人のLINEグループには入ってます。
白武
肥満さんが、自分らしく生き生きしているなあと思う人っていますか?
大鶴
ストレッチーズの福島ですかねえ。日本酒検定取ったり、サウナ好きだったり、ゲームが好きだったりして、それをちゃんと発信してるのが偉いなと思いますね。僕は普段ポケモンカードは仲いいメンバーで固定で遊んでるんですけども、謎解きやボードゲームも好きで、普段遊ばない人から誘われることがあるんですよ。そういう時、行くと福島もいるんですよ。いろんなコミュニティに属してて、ちゃんと顔を出してるのがいいなあと。ななまがりの森下さんとふたりでサウナに行ったりもしてて、俺はサシで先輩と行くと何喋っていいかわからないから緊張して、それが伝わって申し訳ない気持ちになることが多いので。
白武
肥満さんもポケモンカードをやったりして、交友関係は広いんじゃないですか?
大鶴
いや、でも3人とか4人とかですね。この前、芸人仲間とポケモンカードをやった時に、女性もふたりいたんですよ。帰る時、女性のひとりが俺の隣の駅に住んでると。でも初対面に近い状態だったので、僕はふらっと適当にコンビニでも寄って、そのままタクシーで帰ろうと思ったんですよ。そしたら檜原が「家近いんやったら一緒に行きゃええやん」て。本人はなんとも思わないんです。もう悪意のない悪意。俺はいや、人間のその機微というかさ、もうちょっと勉強してほしいなと思ったんですよね。
白武
それは結局どうしたんですか?
大鶴
はい。なんとか車内も険悪なムードにならず、またポケモンやりましょうねって解散したんですけど。バナナマンさんのコントの「ギリギリセーフ」じゃないですけど、檜原はセーフだったらええやんの精神なんで。

家の前にくら寿司ができて、心に余裕が。

白武
最近の幸福度は?
大鶴
家の目の前にくら寿司ができたんですよ。これがどれだけ心に安らぎを与えるか。皆さんもわかってると思うんですけど、くら寿司に行きたいと思ったら、3〜4日前にはくら寿司の気持ちにしなくちゃいけないでしょう。思い立った時は混んでるから。でも家の目の前にくら寿司があったら、夢が叶うんですよ。これほど心の余裕が生まれることはないです。
白武
そういう食の喜びは、肥満さんにとって大きいんですか?
大鶴
その前にくら寿司って食なんですかね? というのも、よく僕の家にポケモンカードをやりに来る後輩も先輩も、みんな「こんなに近いんだね、くら寿司!」って言うんですよ。太ってない人も嬉しそうってことは、くら寿司はある意味レジャー施設だと思うんです。USJ、ディズニーランド、くら寿司。3大レジャー施設!
白武
くら寿司以外に肥満さんにとってのレジャー施設はありますか?
大鶴
プールですかねえ。家の前にプールができたら毎日行っちゃいますね。結構好きなんですよ、水泳。体重を忘れさせてくれるんで。僕、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ、4種目全部泳げます。
白武
もうそろそろ絞っていこうかなと思ったりもしますか?
大鶴
今年からかなと思ってますね。今年の終わりぐらいから意識して変えていこうかなと。その一歩目として歩くようにしてますね。昨日は7654歩、おととい6493歩、3日前は11306歩、1万歩以上歩くようにしようって意識してて、今2024年と2025年の平均歩数、2024年は5861歩、2025年は6012歩! ほぼ同じです! でもこれすごいのは、去年より今年の方が病に伏してる日が多いんですよ。
白武
病?
大鶴
年始に40度くらいの熱が出て3日間ぐらい寝込んでたんですよ。あと左足が蜂窩織炎っていう病気になって、絶対安静の時期があって。つまり2週間ぐらい10歩しか歩いていない日があるんです。それで昨年よりも200歩多いっていうのはすごいことだと思いますね。
白武
肥満さんの身体に不調が忍び寄っているんですか?
大鶴
そうなりましたね。年齢と共に。恐ろしいですよ。
白武
ということは、そんな肥満さんの健康を周りの人も気遣ったほうがいいですか?
大鶴
どういうことですか? どういうことですか!
白武
「もうちょっと野菜を食べましょう」とか。
大鶴
ああ、それでいうと、僕がよく行く病院に、僕のことをちゃんと見てくれる名医がいるんですよ。で「うーん、もしかしたらもうちょっと痩せた方がいいかもしれないね!」って言ってくれるんで、その先生に応えるためにも痩せたほうがいいのかなって。僕の無呼吸も見抜いてくれたんですよ。「うーん、もしかしたら無呼吸かもしれないね!」って。
白武
ちゃんとしたお医者さんですか
大鶴
本当にすごい先生なんですよ! 40度の熱が出てカロナール飲んでも熱が下がらなくて、インフルエンザとコロナの検査してもらっても陰性で、原因不明でこれ終わったわと。でもその名医がパッと俺の脚を見て「ちょっと赤いわね」って言ったんですよ。『新世紀エヴァンゲリオン』の(赤木)リツコさんと焼肉行って、リツコさんに肉どうぞって渡したら「あら赤いわね」って言った、あのテンションで「赤いわね」って言ったんですよ。で、処方してくれた薬を飲んだらその日のうちに熱が下がって。もう俺はその先生に一生ついて行くって決めたんですよね。
白武
最後に、肥満さんにとってウェルビーイングとはなんですか?
大鶴
ちっちゃくて、なんだろうと食べてみたら、口の中でちょっと広がって、甘くて、酸味もある美味しいもの。
白武
それは何の話ですか?
大鶴
ジェリービーンズでした。あっ、ウェルビーイングか。
白武
(笑)。肥満さんにとってウェルビーイングとはなんですか?
大鶴
急遽来てくれたにもかかわらず、大活躍してくれて、完全に、優勝の立役者だったかなって。私はちょっと調子悪いですけど。
白武
それは何の話ですか?
大鶴
エリエ・ヘルナンデスでした。あっ、ウェルビーイングの話だった。まあ、己と向き合うことですかね。
白武
(笑)。ありがとうございます。