
教えてくれた人
國澤純(くにさわ・じゅん)/国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所副所長、ヘルス・メディカル微生物研究センター長。東京大学医科学研究所准教授などを経て、平成31年よりヘルス・メディカル微生物研究センター長、令和6年より現職。東京大学などの教員を兼任。腸と腸内細菌の最先端研究スペシャリスト。
痩せたいなら“腸内の有能菌”を育てよ。

腹が出ている人の大腸の腸内環境のイメージ。カラダにいい働きをする有用菌より、いわゆる悪玉菌が優勢で短鎖脂肪酸が作り出せない状態。便秘気味で脂肪燃焼も苦手な可能性が高い。
ヒトのカラダは親から受け継がれた遺伝子や口から入れた栄養だけでできているのではない。腸の中に棲息している100兆個もの腸内細菌が肥満や病気や体質に大きな影響を及ぼすことが、近年分かってきている。
腸内細菌は単独ではなく互いに連携して腸内環境を維持している。一般的には菌の種類が多く、多様性に富んだ腸内環境が健康にとってはよしとされているが……。
「ただ、痩せているか太っているかという点では、多様性というより、腸内の有用菌がきちんと短鎖脂肪酸を作れるかどうかという方が重要になってくると思います」
と言うのは、腸と免疫の第一人者である國澤純先生。
「酢酸などの短鎖脂肪酸は内臓脂肪対策の機能性表示食品にも利用されています。もしかすると多様性がなくても短鎖脂肪酸が作れる菌が揃っていれば太りにくい、ということが言えるかもしれません」
改めて短鎖脂肪酸って一体何だ?
短鎖脂肪酸とは腸内細菌が作り出す代謝産物の一種。ビフィズス菌や乳酸菌をはじめとする有用菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにして生み出す有機酸の総称だ。具体的には主に酢酸、酪酸、プロピオン酸の3つで、これらの短鎖脂肪酸が脂肪燃焼を促したり、大腸の働きをサポートすることが分かっている。
「日本人は酢酸を作り出すビフィズス菌や、“痩せ菌”と呼ばれるブラウティア菌を持っている人が多いので、世界標準的にはお腹痩せしやすい民族と言えると思います」
腸内細菌が喜ぶ、食生活の5大条件。
心配せずとも日本人はそもそも腹が痩せやすい腸内環境を持っている? いや、それは日々の食生活が有用な腸内細菌にとって好ましいものであるという条件下の話。ポイントは下の5つ。有用菌を含む食品や菌のエサとなる食物繊維などを毎日摂る習慣をつけることが重要だ。
1.有用菌|最低でも1日1回、有用菌をカラダに仕込む。
まず何はなくとも短鎖脂肪酸を作ったり、有用菌をサポートする菌を一日のどこかでカラダに入れること。それには伝統的な発酵食品を利用することが最もお手軽。乳酸菌が含まれている漬物や味噌、食物繊維を分解してくれる糖化菌を含む納豆、もちろん乳酸菌やビフィズス菌を含んだヨーグルトなどもおすすめだ。
2.レジスタントスターチ|コンビニ主食の冷や飯が有用菌のエサになってくれる。
冷や飯喰らいというとネガティブなイメージだが、腸内環境にとってはむしろ厚遇。というのも、冷えた炭水化物の一部は難消化性でんぷん=レジスタントスターチと呼ばれる成分となり、大腸まで届いて有用菌のエサになることが分かっているから。食物繊維を含むもち麦おにぎり、納豆菌が一緒に摂れる納豆巻き、上等だ。
3.食物繊維|主食は白より茶色。野菜は具だくさん味噌汁で補給。
有用菌を仕込んだら、エサの食物繊維を与えなければ意味がない。まずは主食を未精製のものにシフトするのが最も簡単。ごはんは玄米、パンは全粒粉など白より茶色のものを選ぶ。さらには野菜。冷蔵庫にある海藻や野菜をたっぷり加えた味噌汁を大量に作っておけば、忙しい朝でも温めるだけで十分な食物繊維を摂取できる。
4.間食|小腹が空いたらフルーツかフルーツ+ヨーグルトを。
間食でおすすめなのはお菓子類より食物繊維を含むキウイやリンゴ、バナナなどのフルーツ。朝ヨーグルトを摂り損ねたら、間食でフルーツとともにいただこう。ちなみにヨーグルトは空きっ腹の状態で単体で食べないこと。理由は過剰な胃酸分泌で有用菌が死んでしまうから。食べるならデザートか、間食で他の食品と一緒がベスト。
5.タンパク質|主菜のタンパク質を1日3食でローテする。
牛肉などのレッドミートより鶏肉などのホワイトミートの方が健康にはベター。だからといって3食チキン三昧というのも問題。短鎖脂肪酸を作るには、腸内細菌の最低限の多様性も必要で、同じ食材ばかりではそれが損なわれてしまうリスクもあるからだ。主菜のタンパク質は毎食異なる肉と魚をローテーションしたい。
朝・昼・晩で5大条件をクリア!
腸内細菌にとって好ましい食生活の5つのポイント。必ずしも1日3食ともストイックに頑張る必要はない。
「選択肢があるなら主食は全粒粉パンにしようとか、お昼は外食だから朝はもち麦ごはんにしようとか、そんなレベルで十分。100点満点より、一生続けていける食生活を目指しましょう」
牛丼を食べてもいいしコンビニおにぎりを活用してもいい。下のケースのように5つの条件を3食のどこかで満たせば、腹は自ずとスッキリしてくるはず。
献立ケース1
朝 |
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昼 |
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間食 |
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夜 |
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献立ケース2
朝 |
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昼 |
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夜 |
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腸の専門家が実践。蠕動運動をサポートするながらレッグレイズ。
腸内環境を整える第一条件は食事。でも運動でも腸の働きを促すことができる。國澤先生が実際に取り入れているのが腹筋運動。
「腸はポンプのような蠕動運動をすることで便を直腸へと押し出します。腹筋運動で外から物理的に刺激を入れることで、その蠕動運動をサポートすることができます。あくまで自分の感触としてですが、ジョギングなどより腹筋運動の方が腸にダイレクトに効くような気がします」
やり方は上半身を起こすクランチやシットアップでなく、脚を持ち上げるレッグレイズ。
「テレビを見ながらなど、ゆるく毎日行ってみてください」