格闘技とボディメイクの関係性を科学する。

格闘技と一言で言っても、その種類はいろいろ。鍛えられる部位も、必要な能力も異なる。競技特性や、どんな筋肉が発達するのかなどを知れば、もっとその競技に興味が湧くはず!

取材・文/神津文人 イラストレーション/師岡とおる 取材協力・監修/白戸拓也

初出『Tarzan』No.899・2025年3月19日発売

格闘技とボディメイクの関係性を科学する
教えてくれた人

白戸拓也(しらと・たくや)/MSFitnessディレクター。元BODYPUMP/BODYCOMBATマスタートレーナー。キックボクシング、ムエタイ、空手の経験があり、MMAの試合に出場したことも。日本におけるレジェンドトレーナーの一人。

競技特性を知って格闘技でボディメイクを目指す。

格闘技は大きく分けると、パンチやキックといった打撃があるものと、ないものに二分される。ボクシング、空手、キックボクシングなどが打撃系の代表だ。

一方、打撃がない格闘技として広く知られているのはオリンピック競技でもある柔道やレスリングだろう。打撃を使わない格闘技は、打撃系に対して組み技系とされ、投げ技、抑え込み技、関節技、絞め技といった技術が使われる。

打撃、組み技の両方を駆使して闘うメジャーな競技が総合格闘技、いわゆるMMA(Mixed Martial Arts)だ。あらゆる格闘技の要素がMIXされたものともいえる。

「打撃系ならキックの有無、組み技系なら寝技の展開の長さによって、求められる技術も発達する部位も当然変わります。同じ競技でもファイトスタイルによって選手の体型は異なる部分はありますが、たとえば、キックボクシングであればヒップアップしやすい、組み技系は体幹が強くなりやすいといった傾向はあるでしょう」と、無類の格闘技好きとして知られている白戸拓也トレーナー。

競技特性を知っておけば、格闘技でボディメイクを目指す際のジム選びの参考になるはず。また、既に格闘技を始めている場合は、上達のカギが見つかるかもしれない。それでは代表的な格闘技を分析していこう。

格闘技の主な分類。

格闘技の主な分類

わかりやすく分類すると、打撃系、組み技系と、両方の要素を持つMIX系となる。もちろん、世界中を探せばこの表にはないたくさんの格闘技が存在する。パンチやキックでストレス発散したいなら打撃系をチョイスすればいいし、打撃が怖いという人でも組み技系なら楽しめる。

ボクシング|前鋸筋がパンチの質を左右する!

ボクシング

使える攻撃はパンチのみ。下腹部より下、後頭部への攻撃は反則。

「強いパンチを打つ際、下半身の力やカラダの回旋も利用しますが、重要な役割を果たしているのが、肩甲骨を前方に動かす際に働く前鋸筋。前鋸筋を使う意識をするだけでもパンチの質が向上するはず。背筋力がパンチ力に比例すると誤解されがちですが、ボクサーの広背筋や大円筋が発達するのは、パンチを打った際に拳が流れるのを抑え、素早く元のポジションに戻る際にそれらの筋肉が必要だからです」(白戸さん)

また、ステップを巧みに使うボクサーの場合、ふくらはぎの上部、腓腹筋が発達しやすい。

キックボクシング|強く速いキックにはお尻と太腿が重要。

キックボクシング

パンチに加えてキックでの攻撃が可能。キックを速く強く繰り出すためには、ストレッチショートニングサイクル(SSC)がカギ。

「簡単に説明すると、伸ばされた筋肉が伸張反射によって縮もうとするエネルギーを利用するということ。キックをする際、腰を回してハムストリングスを使い脚を畳むと、大腿四頭筋がストレッチされます。伸ばされた大腿四頭筋が縮もうとする力を利用すれば、よりスピーディに蹴れるのです」

エクササイズ観点では、ヒップアップ効果が高いのも特徴だ。またキック動作では腸腰筋に加えて、腹斜筋も発達。意外と腰まわりはガッチリとしてくる。

空手|ブレない体幹と安定した下半身が肝

空手

バチバチと打ち合うフルコンタクト空手と、技の形と安全性を重視し試合は寸止めで行う伝統派空手に二分される。東京五輪で採用されたのは伝統派空手になる。

「フルコンタクト空手は接近戦が多く、相手を倒すパワーや、攻撃をブロックする技術と耐える筋肉・体力も必要。一方伝統派空手は間合いが遠く、相手との距離を一気に縮める瞬発力、打撃のスピード、攻撃をかわす回避技術などが求められます。よりパワフルなのがフルコンタクト、シャープなのが伝統派というイメージです」

さまざまな打撃を繰り出す際にブレない体幹力と、安定した下半身が求められるのは共通点だ。

テコンドー|韓国発祥“足のボクシング”は股関節の柔軟性がカギ。

テコンドー

オリンピック競技でもあるテコンドー。突き(パンチ)も可能だが、頭部への打撃は蹴りのみがOKで、胴への攻撃も蹴りのほうがポイントが多く入るため、必然的に蹴りの攻防が主体になる。

「回転を加えた蹴りはさらにポイントが高くなるため、見栄えのする蹴り技が多く見られるのもテコンドーの魅力です。蹴りが主体なので、片脚立ちでバランスを保つ能力や股関節周辺の柔軟性が重要になるでしょう。一方で、パンチはほぼ使わないため、競技の練習だけで肩や背中の筋肉が発達することはほとんどないと思います」

華麗な足技と、シャープなボディを手に入れたい人におすすめ!

ムエタイ|歴史あるタイの国技。強靱な首まわりが手に入る。

ムエタイ

ムエタイとキックボクシングは似て非なるもの。ムエタイはパンチやキックに加え、肘を使っての攻撃も可能。さらに、相手の後頭部に手を回して首をコントロールして体勢を崩し、そこから膝蹴りや肘打ちを繰り出す首相撲と呼ばれる動きが多く見られる。

「首相撲は組み技に近い要素で、それがあるだけで、ムエタイとキックボクシングは別競技と言えます。組んでも崩されない、組んで相手をコントロールするのに、より体幹の強さが求められ、広背筋や僧帽筋が発達しますし、首が太く強くなると思います」

腹斜筋が発達しやすいのもキック系競技共通のポイントだ。

柔道|「柔よく剛を制す」が、剛(全身筋力)も大事!

柔道

投げ技を駆使し相手を倒す。抑え込みや関節技、絞め技も有効だ。

「どの競技でもそうですが、トップレベルになると、瞬発力、持久力、敏捷性といったフィジカル能力は全般的に必要になります。オリンピックレベルの柔道選手なんて、モンスターです。相手の崩しや仕掛けに耐える体幹力、内股や大外刈りなど片脚立ちになる技を正確に繰り出すための強い下半身、投げかけられても体勢を立て直すためのバランス能力などは重要でしょう。柔道の選手たちはロープを登るトレーニングなどもしていますが、相手を引き寄せたり、崩したりするためには、背中、肩、腕の筋力も欠かせません」

柔術|巧緻性の高さは柔術特有のスキル。

柔道

古武道にも柔術があるが、今回触れる柔術はブラジリアン柔術とも呼ばれるもの。試合は立ちで始まり、投げやタックルなども技術のうちだが、寝技の展開がメインになることが多い。打撃はなく、関節技や絞め技を取り合う。

「寝技に重点が置かれている分、柔道ほどのフィジカルは必要ないかもしれませんが、相手の攻撃によって崩されないための、体幹力やバランス能力は重要でしょう。足を手のように巧みに使う巧緻性の高さは、柔術特有のものといえるかもしれません。数多くあるテクニックを自在に操るためには、股関節周辺、肩甲骨周辺の柔軟性があった方がベターだと思いますし、自分のカラダをコントロールする能力も重要な要素でしょう」

レスリング|圧倒的なパワーで相手を倒し、抑え込む。

レスリング

グレコローマンスタイルとフリースタイルの2種類に分けられるレスリング。グレコローマンスタイルでは、腰から下を攻撃することが禁じられている。

「柔道同様、オリンピックレベルになれば圧倒的なフィジカル能力が求められます。姿勢を崩されないため、体幹部、特に広背筋、脊柱起立筋、僧帽筋といった筋肉はかなり発達します。相手をコントロールするため、三角筋や上腕の筋肉も使われます。下半身への攻撃ができないグレコローマンの場合はより上半身の筋力が求められ、下半身へのタックルが有効な武器になるフリースタイルの場合は、爆発的なスピードも必要です」

MMA|技術も体力も筋力も。まさに総合力が試される。

MMA

スタンドでの打撃戦、組んでからのテイクダウンの攻防、そして寝技の展開での打撃に、関節技・絞め技。団体によってルールの違いはあれど、格闘技のあらゆる技術が必要となるのがMMA。

「黎明期の異種格闘技戦だった頃とは違い、現代のMMAは、ハイレベルなオールラウンダーかつ得意技がある選手でないと勝ち残っていくことができません。世界クラスの選手はアスリートレベルも高く、パワー、スピード、スタミナのいずれも優れています。筋力面でもボクシングやキックボクシングなど打撃系、レスリング、柔術などの組み技系に求められるものの両方が必要になります」