痛風=プリン体の摂りすぎは誤解⁉︎ 尿酸値にまつわる基礎知識。
尿酸値が高まることで発症する痛風や尿路結石といえば「プリン体の摂りすぎ」が主な原因とされがち。だが、それは大きな誤解だ。尿酸値が高まってしまう原因と対策を、今回はご紹介する。
取材・文/井上健二 取材協力/大山博司(両国東口クリニック)、片岡秀人(メディカルフィットネスT’sEnergy)
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

目次
尿酸は必要な物質。80%が体内で作られる。
血圧、血糖値、コレステロールに次ぎ、血管と血液の健全度を反映する第4の物差しが尿酸。プリン体という物質の代謝物だ。
「体内に流通している尿酸の約20%は食べ物から取り入れたプリン体を代謝したもの。残る80%は自ら合成したプリン体から作り出したものです」(両国東口クリニック理事長の大山博司医師)
他の哺乳類や魚類などは尿酸を分解できるが、ヒトなどの霊長類や鳥類は尿酸を分解できないため、血中濃度が上がりやすい。
「尿酸には抗酸化作用や神経系を保護する働きがある。進化のプロセスで、あえて尿酸を分解せず、体内濃度を保つ戦略を取ったのでしょう」
高尿酸血症の主な原因は「排出機能異常」。
尿酸の血中濃度は6mg/dL以下が正常。7mg/dLを超える「高尿酸血症」になると、全身にダメージが及ぶ。
高尿酸血症=プリン体の摂りすぎと考えがちだが、それは誤解。
「高尿酸血症の患者さんが全員、プリン体の多い食事をしているわけではありません」
実は高尿酸血症の70%は尿酸の排泄が悪いのが原因(残りは肝臓で過剰に尿酸を作るタイプ)。尿酸の排泄をブロックする代表格は、乳酸とインスリン。乳酸は激しい運動、インスリンは肥満や糖質の過食で分泌されやすい。
血圧、血糖値、コレステロールは中高年以降に悪化しやすいが、高尿酸血症は30〜50代がピークでそれ以降は減る。盛んに飲み喰いし、激しい運動をするなどアクティブな生活パターンだと尿酸値は高くなる。歳を重ねると食事量や飲酒量も減り、活発に動く機会も減るため、尿酸値も上がりにくいのだ。また女性ホルモンには尿酸の排泄を促す作用があり、女性は男性より尿酸値が上がりにくい。
高尿酸血症になると死亡率が2.73倍に。
尿酸に関連する病気といえば、お馴染みなのが痛風。高尿酸血症になると、溶け切れなくなった尿酸が尿酸ナトリウム結晶を作る。
この結晶は異物と認識されるため、免疫を担う白血球が集まり、炎症が発生。炎症物質が毛細血管を拡張させるなどして激しい痛みが生じる。だが、それ以上に厄介なのは、尿酸ナトリウム結晶が動脈硬化を進める恐れがある点。
「尿酸値が高くなると動脈硬化による心筋梗塞、腎臓病、高血圧といった疾患が増えてきます」
日本で行われた「J—SHC研究」では、1年間で尿酸値が2mg/dL以上上がった人の死亡率は約2.73倍だった。尿酸値はできるだけ上げないのが正解。
激しすぎる運動でも尿酸値は上がる。
生活習慣病を防ぐのに運動は不可欠だが、筋トレのような激しすぎる無酸素運動は尿酸値を上げやすい。理由は代謝過程で乳酸が溜まるから。尿酸と乳酸は腎臓で同じ排泄ルートを共有するため、乳酸が増えるとそれだけ尿酸の排泄が滞り、尿酸値は上昇するのだ。
ランのような有酸素運動でも、息が切れるような高強度では乳酸が出てくるため、尿酸値を上げやすい。尿酸値が気になるなら、息が上がらない程度の自体重での筋トレや、速歩のような軽めの有酸素運動に留めておくべき。
「激しい運動がしたいなら、尿酸値を6mg/dL以下にコントロールしながら行ってください」(健康運動指導士の片岡秀人さん)
頼れるのは「アルカリ性食品」。尿酸値を下げる食生活とは?
尿酸値が心配なら、原料となるプリン体の多い食事を控えるのが鉄則。煮干しやレバーなどだ。
同時に酸性食品を減らし、アルカリ性食品を増やすことも大事。酸性食品はご飯などの穀物、肉、魚など、アルカリ性食品は野菜、果物、海藻、芋類などだ。
血液のpHはほぼ中性に保つ仕組みがあり、酸性食品を食べすぎると「酸」を尿へ排出する。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン作成委員会:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第1版, 49(2002)4訂食品成分表より改変
「尿のpHは6.5の弱酸性が理想。尿がそれより酸性に傾くと尿酸が溶けにくく排泄が滞り、高尿酸血症や尿路結石を招きやすい」
またアルコールは尿酸値を上げるので控えめに。醸造酒はプリン体を多く含むが、アルコールは代謝過程で乳酸を作るので、プリン体ゼロの焼酎のような蒸留酒でも飲酒で尿酸値はアップする。
アルコールのプリン体含有量(mg/100mL)
【蒸留酒】
- ウィスキー:0.1〜0.3
- ブランデー:0.4
- 焼酎(25%):0.0
【醸造酒】
- 日本酒:1.2〜1.5
- ワイン:0.4〜1.6
- 紹興酒:7.7〜11.6
- ビール:3.3〜8.4
日本痛風・核酸代謝学会 ガイドライン改定委員会:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版, 122(2010)より改変