5人に1人にCKD(慢性腎臓病)の疑いが! 自分の腎臓は大丈夫?
普段、腎臓のことを意識することなどあまりないだろう。だが、あなたに出ているその症状が、実は知らず知らずに腎臓が蝕まれているカラダからのサインかもしれない。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/Yua 取材協力/川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)
初出『Tarzan』No.893・2024年12月12日発売
教えてくれた人
川村哲也(かわむら・てつや)/東京慈恵会医科大学客員教授。同大学卒業後、米バンダービルト大学腎臓小児科へ留学。東京慈恵会医科大学教授、同臨床研修センター長を経て2022年より現職。患者のための腎臓病教室などを開催。
目次
今、最も用心すべきはCKD(慢性腎臓病)。
新たな国民病ともいわれているCKDとはChronic Kidney Diseaseの略で慢性腎臓病のこと。慢性的なすべての腎臓病を指す病態だが、これまでは慢性腎不全と呼ばれていた。ただ慢性腎不全は透析を受けなければならないほどの末期の状態。
それ以前の段階で腎機能の低下を炙り出そうと2002年、アメリカの学会で新たに導入されたのがCKDという概念。これが瞬く間に全世界に普及した。
これまでCKD患者は日本人の7人に1人といわれていた。ところが、日本腎臓学会の『CKD診療ガイド2024』では検診を受けていない人の有病率を高く設定して計算した結果、患者数は2000万人、5人に1人がCKDの疑いがあることが報告された。
「腎臓の機能が低下してくるとアンジオテンシンⅡという血圧を上げるホルモンの活性度が上がり、動脈硬化が起こります。動脈硬化が進むと循環器の血管障害に繫がります。これを心腎関連と言って、今世界的にも問題視されています。CKDという概念が生まれたのはこうしたことも理由のひとつです」(東京慈恵会医科大学客員教授・川村哲也さん)
腎臓も肝臓と同様、沈黙の臓器。CKDの進行は下の図のように5段階だが、初期ではほとんど自覚症状は見られない。でも放置すれば脳梗塞や心筋梗塞など、命に関わる病気を引き起こすこともあるのだ。
「高齢化社会でがんを乗り切った先にあるのが腎臓の疾患だと思います」
無口な腎臓のどんな些細なサインも見逃すべからず。
CKDの進行度と治療の目安
心臓や血管のリスクが約3倍増!
九州大学の大学院が行った「久山町研究」という有名なデータがある。40歳以上の住民を40年間追跡調査したところ、CKDを患っているグループとそうでないグループとでは、前者の方が心筋梗塞や脳卒中の発症率が明らかに高かったという結果が出た。
腎機能が低下するとカラダに水分が溜まり、血圧を上げるホルモンが分泌されて高血圧や動脈硬化に繫がることは、前述した通り。それだけでなく、心臓血管系の病気で血液が滞り、腎臓の機能が低下するという逆の現象も起こる。かように腎臓と心臓は互いに影響を与え合っているのだ。
「CKDの治療には大きなふたつの目的があります。ひとつは末期腎不全になるのを防ぐこと。もうひとつは心筋梗塞などの心血管系の病気にならないようにすることです。このため心臓や腎臓、異なる専門分野の治療法を組み合わせる必要があります。CKDと診断されたら早い段階で心血管疾患を発症していないか確認することが重要です」
12年間の追跡調査で分かった心血管疾患の累積発症率。男性だけでなく女性も、CKDの人はそうではない人に比べて発症率が約3倍という結果に。
Ninomiya T,et al: Kidney Int 68, 228-236, 2005より
腎臓は最も加齢の影響を受けやすい臓器。
下のグラフは腎機能を表すGFRという指標の変化を年齢別で表したもの。縦軸はCKDの割合を表していて、男性も女性も40〜50代からCKDの発症率が増えていることが分かる。CKDはある意味では加齢現象と捉えることもできる。さらに、欧米人に比べて日本人はCKDになりやすい民族ともいわれている。
「これまでは心臓から送り込まれてくる大量の血液を濾過するネフロンという装置が、片方の腎臓に100万個程度あるといわれていました。近年、その数を正確に測れるようになったんですが、欧米人がそのくらいの装置を持っているのに対し日本人は六十数万個しか持っていないことが分かりました」
つまり、我々は腎臓の予備能力がもともと低い民族で、加齢によって乏しい能力が削られていくということ。心しておきたい。
こんな症状があったら即、病院を受診!
CDKの自覚症状で最も分かりやすいのは尿の異常とむくみ。
「たとえば尿が泡立つという場合は、尿蛋白の疑いがあります。細かい泡がトイレの水の表面に数分残っていたらその可能性が高いです。また、濁った茶色の尿は血尿の可能性もあります。むくみに関してはカラダの中で平たい部分、まぶたや手の指、脛や足の甲などがむくんできたら要注意です」
下のチェックリストは下に行くほど重症な自覚症状。毎日の変化を見逃さず、ひとつでも当てはまったらすぐにかかりつけ医、または腎臓専門医に相談を。
チェックリスト
- 尿が泡立ち、なかなか消えない。
- 尿が茶色い、または黒色に近い。
- 尿から強いアンモニア臭がする。
- 夜間に何度もトイレに行きたくなる。
- 尿量が多すぎる、または少ないと感じる。
- 指輪や靴がきつくなった。まぶたが腫れる。
- だるさや疲れやすさを感じる。
- 食欲不振、吐き気がある。
- 全身のかゆみがある。
- 少しの運動で息切れする。
- 貧血や立ちくらみがよく起きる。
- 汗をほとんどかかない。
血液検査の数値でより詳しくチェック。
腎臓の病気に関わりのある血液検査項目の筆頭は血清クレアチニン。腎臓の濾過機能に問題があると数値が高くなるので、腎機能を推定できる。男性の基準値は0.65〜1.07mg/dL、女性は0.46〜0.79mg/dL。
また、この数値と年齢からeGFRという腎臓が1分間にどれだけ血液を濾過できるかという数値を割り出せる。計算式は下の通りだが、複雑なので自分で計算するのは難しい。日本腎臓学会のHPにある腎機能測定ツールを利用して数値を割り出してほしい。WEBサイト
「ただし、運動や発汗によって血液が濃縮されるとクレアチニン値は高くなります。急激に高くなったときは医師とよく相談を」
血液検査ではないが、CKD初期に数値に異常が出てくるのが尿蛋白。尿検査でこちらもチェック。
CKDの重症度レベルを知っておこう。
CKDの重症度を診断する指標のメインは1分間の血液濾過量を示すGFR区分。この数値が90を切ると軽度低下のステージ2と診断される。症状が進行するほど数値は下がっていき、末期腎不全では15未満と腎臓の濾過機能はほとんど働いていない状態に。
このGFR区分に尿中の蛋白区分を合わせたものが現在、CKDの重症度を正確に表したもの。尿アルブミン(血液中に含まれるタンパク質の一種)が30以上、尿蛋白が0.15以上となったらアルブミン尿または蛋白尿。これを横軸として縦軸のGFR区分と交わったところが現在のCKD重症度。
実はメタボ回避が重要な一手となる。
前項の重症度ガイドラインで尿中のタンパク質が重要視されているのは、それが糖尿病や高血圧などメタボ系疾患の指標だから。
「免疫異常によって血液中に生じた抗原・抗体複合体が腎臓の濾過装置(糸球体)に炎症を引き起こすなど、CKDの原因はさまざまです。そのなかでも高血圧や動脈硬化によって血液の流れが悪くなれば腎臓機能が落ちることや、透析患者の約40%を占めている糖尿病性腎症がやはり大きな問題になっています。以前は痛風、高尿酸結晶によって起こる腎臓の炎症も多くありました。CKDという疾患はメタボ系の病気と密接に関わっているんです」
健診数値が悪い人は即改善を。