「ただ走るだけ」は勿体ない!効率よく痩せるランニング術。

「痩せたいから」を理由に走り始める人は多い。「ただ走るだけ」も効果はあるが、より効率的かつ確実な走り方はある。「なぜ走れば痩せるのか」を正しく理解したうえで、3つのプランから自分に合う走り方をチョイス!

取材・文/石飛カノ イラストレーション/高橋 潤 監修/石井好二郎(同志社大学スポーツ健康科学部教授) 走り方の提案/神戸貴宏(Body Design Studio ASK代表)

初出『Tarzan』No.897・2025年2月20日発売

効率よく痩せる走り方

歩くよりも走る方が痩せやすい。

1日15分めっちゃ高強度の運動をした人と1日1時間だらだら歩いた人は、強度は違えどトータルのエネルギー消費量は一緒。「同じ活動量ならば等しく痩せていくはず」と多くの人は考えるだろう。

でもこれはあくまで理論上の話。走っている人と歩いている人の痩せっぷりを実際に調べたところ、同じ活動量でも肥満の指標であるBMIとウェスト周囲径、どちらも前者の方が減っていたという。

ランナーとウォーカーのダイエット比較

3万人以上のランナーと1万5000人強のウォーカーを1日の運動量の低い順に4グループに分けて比較。同じ運動量でもBMIとウェストサイズの低下はランの方が有効。

Willams PT. Med. Sci. Sports Exerc. 2013より抜粋

走ると運動後も脂肪が燃える。

なぜ運動中のエネルギー消費量は変わらないのに、両者の間で変化が生まれるのだろうか。近年では、運動中ではなく「運動後」にダイエットへ繫がるファクターがあるのでは……という説が浮上している。

有力とされている候補のひとつがEPOCという現象。日本語で「運動後過剰酸素消費」と呼ばれるもので、運動中に消費した酸素や糖質を補充したり、体温や血液循環を平常に戻したりするために若干のエネルギーが費やされる現象のことだ。

ただし、EPOCは息切れするレベルの運動でないと生じない。歩く程度ではカラダは平常時とさほど変わらないものだ。よってラン中やラン後にのみ、エネルギーが消費されるという仕組み。

EPOC効果のイメージ図

EPOC効果のイメージ図。一定以上の強度の運動をすると、運動後にはカラダを平常状態にするためのシステムが働き、エネルギーが消費される。その持続時間は24〜48時間。

走ることで食欲も抑えられる。

学生時代、体育会系の部活をしていた人なら知っている。がっつり動いた部活の直後、いきなり「腹減った!」とはならないことを。あんなに動いてエネルギー消費をしたのなら補充する必要があるはずなのに、お腹はいっぱい。その原因はホルモン分泌にある。

運動すると消化管、主に腸から消化管ホルモンが分泌されることが分かっている。たとえばPYYというホルモンは脳に作用して食欲を抑制する。またGLP—1というホルモンは食欲抑制のほか、インスリンの分泌を促すので血糖値の急上昇も防いでくれる。

強度の高い運動の方が、これらのホルモン分泌は促される。やはりウォークよりランの方が食べ過ぎ防止になり、結果として痩せやすいのだ。

運動で食欲は抑えられるのか比較図

安静時に比べると中強度と高強度運動の方がPYYとGLP-1、どちらのホルモンも分泌が促されていることが分かる。ただPYYは時間とともに分泌が低下していくので、食事は運動後30分以内に摂るべし。

Ueda SY et al. 2009より

いよいよ本題!効率よく痩せる走り方。

どっちにしろそこそこ強度の高い運動を行わないと、EPOC効果もホルモンの効果も期待できない。では、「効率的に痩せたい」という願いを叶えるためには、どのように走ればいいのか?

同志社大学スボーツ健康科学部教授、石井好二郎さんによれば、

「EPOCは持久力の指標である最大酸素摂取量の70%以上の運動で効果が期待できます。消化管ホルモンも安静時より強度が高い運動の方が分泌が高まります。走る量を増やすことも大事ですが、たまに強度が高いランニングを取り入れることが痩せるためのポイントになると思います」とのこと。

主観的に運動強度を把握。
ボルグ指数 感じ方
6
7 非常に楽である
8
9 かなり楽である
10
11 楽である
12
13 ややきつい
14
15 きつい
16
17 かなりきつい
18
19 非常にきつい
20

最大酸素摂取量の70%は上の主観的運動指標であるボルグスケールでは「ややきつい」から「きつい」レベルに相当する。会話するのは少々困難なラン。

3つのプランから選択。効果的に脂肪を燃やそう。

いきなり最大酸素摂取量70%と言われましても……。ここからは、そんなあなたに向けてより具体的な走り方を解説。プランはA、B、Cの3つだ。

プランA|初心者向け。4ステップで30分のペースランを目指す。

ランニング初心者に最もおすすめなのがこのプラン。一定のペースを一定の距離キープして、最終的に最大酸素摂取量70%強度の30分ランを目指す。

最初はウォークとジョグを組み合わせて30分間移動することに慣れる。この段階では鼻歌まじりでOK。

慣れてきたら5分、10分、20分と徐々に走る時間を増やしていき、30分間同じペースで走ることができたら、最後はボルグ指数「ややきつい」から「きつい」ペースで30分間走に挑もう。急いでステップを進める必要はない。じわじわ確実に走る力を養おう。プランA 4ステップで30分ラン

プランB|コースに目印を設定して自由にペースを上げ下げ。

インターバルを挟んで走る現時点では最大酸素摂取量70%程度のランをキープするほどの体力がないし、どちらかというとマイペースで走りたいという人はこちらのプランがおすすめ。

基本ペースはゆっくりで構わない。そのかわり、随所にインターバルを挟むスタイル。たとえば、信号や標識や街灯、なんでもいいので目印を設定し、その区間だけはペースを上げて、ややきついランを実践する。

次の区間はまたゆっくりペースに戻す。この繰り返し。やはり徐々に距離を延ばしていき、最終的にはトータルで30分間走りたい。

プランC|上半身トレの後にゆっくりランで脂肪燃焼。

走るペースについてあれこれ考えるのが面倒、または筋トレを取り入れることに抵抗がないという人はこちらのプランを。

走る前に筋トレを取り入れ、筋トレ後は速やかに外に出て走り出す。この際ペースは問わない。スロージョギングでも何でもいいので30分走ろう。

筋トレを取り入れる理由は筋肥大ではなく、交感神経を優位にしてその後のランorジョグでの脂肪燃焼を促すためだ。

ただし、取り入れる筋トレは下記の上半身トレ。スクワットなどの下半身トレでは脚が疲れて走るパワーが削がれてしまうから。

タオルラットプル(20回×2セット)タオルラットプル

  1. 床に腹這いになり、ヘソを軸に上体を持ち上げる。
  2. 左右の手でタオルの端を持って頭上に伸ばす。肘を曲げ、タオルを頭の後ろから背中側に引き下ろす。

ワイドプッシュアップ(20回×2セット)ワイドプッシュアップ

  1. 両手を肩幅の約2倍の広さに広げて床につく。
  2. 両足は腰幅に開いて爪先を床につく。肘を直角になるまで曲げて胸をできるだけ床に近づける。
痩せるためのプチアイデア。

●走る前にコーヒーを飲む。

走る前には血液循環を促すために水分補給がマスト。でも目的がダイエットならドリンクはカフェインを含むコーヒーやお茶がベター。理由はカフェインに交感神経を活性化させ脂肪燃焼を促す作用があるため。

●空腹の状態で走る。

空腹状態で走ると、すぐに脂肪分解が促されて遊離脂肪酸が血液中に放出される。これをどんどん消費すれば痩せていくという仕組み。ただし遊離脂肪酸は不整脈のリスクを高めるので動脈硬化の気がある人は要注意。