疲れ目や肩こり、イライラに効く!【肝】にまつわる漢方薬7選。
「五臓」、つまり「肝、心、脾、肺、腎」ごとに不調の表れ方や効果的な漢方薬は異なる。今回は、気の流れを調整する【肝】に効く漢方を紹介。【肝】の不調は不眠やイライラ、疲れ目や肩こりなどに直結。各症状にどうアプローチすべきか、漢方を処方してもらう前の事前知識としてお目通しを。
取材・文/鍵和田啓介 取材協力/杉山卓也(漢方のスギヤマ薬局)
初出『Tarzan』No.895・2025年1月23日発売

教えてくれた人
杉山卓也(すぎやま・たくや)/薬剤師・漢方アドバイザー。あらゆる人生相談に乗れる漢方薬剤師をモットーに、寄り添った相談を受ける。講師として年100回を超えるセミナーも開催。近著『「漢方」を仕事にしたいと思ったら読む本』(翔泳社)が2月25日に発売。
目次
【肝】は感情の起伏を調整し、カラダ全体の機能を保つ統括部。
気の流れ(代謝)を調整する肝は、自律神経の働きを整えてカラダ全体の機能(内臓機能)を保つ役割を担い、情緒や筋肉、目の働きなどに影響する。また、気から作られた血を一時的に貯蔵し、必要に応じてカラダの各部位に配分する働きもある。
表裏の関係にある胆は、胆汁を生成し、巡らせる消化機能を調整する。また「胆力」という言葉もあるように、勇ましさや決断力など精神面を担う部位でもある。そのため、胆が弱ると、気が小さくなったり、優柔不断になったりする。
生活習慣の心得。
- ストレスを避ける。
- リラックスできる時間を確保する。
- ストレッチやヨガをする。
- 自然散歩などで気の巡りを良くする。
かすみ・疲れ目|杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)。
地黄、山茱萸、山薬、牡丹皮、 沢瀉、茯苓、枸杞子、菊花を配合。腎の不調を補う基本処方である六味丸がベースになっている。そこに肝に潤いを与える枸杞子、肝の余分な熱を除去する菊花を加えた漢方薬で、「飲む目薬」としても知られている。
目の失調は、肝血(肝に貯蔵されている血)の不足や循環の不全が原因とされる。杞菊地黄丸に含まれる枸杞子と菊花は、肝の機能低下が目に与えるダメージを癒やす効果に優れている。
肩こり|四逆散(しぎゃくさん)。
柴胡、芍薬、枳実、甘草を配合。精神的な緊張や情緒不安に端を発する胃炎や腹痛、胃潰瘍、脇や肩の痛みなどに幅広く用いられる。とりわけカラダのエネルギーを代謝させる肝の機能(疏泄作用)の低下を改善する。
肝の失調により、疏泄作用が低下すると、筋肉に栄養が行き届かなくなるため、凝りや張りが強く出る。四逆散に含まれる柴胡と枳実は、この疏泄作用の滞りを改善するのに特化している。
イライラ|加味逍遙散(かみしゅようさん)。
柴胡、薄荷、生姜、甘草、白朮、 茯苓、当帰、芍薬、牡丹皮、山梔子を配合。精神的なストレスに効き目のある柴胡、芍薬、血を補う作用(補血)のある当帰、さらに気を補い脾を健やか(補気健脾)にする生姜や茯苓などが含まれる。
肝は怒りの感情をコントロールする場所。ゆえに、疏泄作用が低下すると、精神的なイライラ状態に陥る。加味逍遙散に含まれる柴胡や薄荷は、そうした肝の昂りを鎮める働きがある。
貧血(フェリチン)|婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)。
当帰、地黄、川芎、芍薬、黄耆、 党参、茯苓、甘草、阿膠を配合。補血、血の巡りを良くする作用(活血)、補気健脾薬の役割を果たす生薬に、カラダに潤いを与える阿膠を加えた漢方薬。阿膠には止血作用もある。
肝の失調により、疏泄作用や蔵血作用が低下することで貧血は起きる。イライラや精神不調をあまり伴わない貧血の場合は、肝血の貯蔵能力が不足している可能性が高く、補血作用の割合が非常に高い婦宝当帰膠が効果的。
緊張性頭痛(普通の頭痛)|釣藤散(ちょうとうさん)。
釣藤鈎、菊花、防風、石膏、半夏、 生姜、陳皮、人参、甘草、茯苓、麦門冬を配合。主薬である釣藤鈎は、脳の興奮や自律神経系の緊張緩和に作用がある。その働きを、気を巡らせ余分な水分を取り除く効果(理気化湿)や、補気健脾の作用を持つ生薬で補助する構成になっている。
緊張やストレスで肝の働きが鈍ると、熱が生まれてカラダの上部(主に頭部)に停滞し、頭痛が起きる。そうしたタイプには肝の高揚を抑制する釣藤散を。
不眠/興奮により目が醒める|柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)。
柴胡、黄芩、大黄、茯苓、半夏、生姜、 人参、大棗、桂皮、竜骨、牡蛎を配合。竜骨はもともと大型哺乳類の化石(現在はそれに準ずる成分の鉱石)、牡蛎は牡蠣の貝殻のこと。これら重い生薬は、肝の昂りを抑える、重鎮安神の効果がある。
脳が興奮して眠れないのは、疏泄作用が妨げられ、肝が昂っている状態。柴胡加竜骨牡蛎湯はそれを竜骨と牡蛎で抑制しつつ、安眠作用がある柴胡、黄芩で眠りに誘ってくれる。
円形脱毛|抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんびはんげ)。
釣藤鈎、柴胡、白朮、茯苓、甘草、当帰、陳皮、半夏を配合。自律神経の興奮を鎮める釣藤鈎、柴胡が主薬。
脱毛のメカニズムは医学的に完全に解明されてない。しかし、東洋医学では、血液を貯蔵する肝の不調により、その循環が悪化し、栄養が行き渡らなくなることが原因とされる。そこにストレスが加わると、いわゆる円形脱毛になる。ゆえに、ストレス性の興奮を抑え、血液循環不足を改善する抑肝散加陳皮半夏が効果的。
※紹介する漢方薬には保険適用外のものも含まれています。