【専門医も実践】腎臓ケアに効果的な運動習慣。

以前は「腎機能が弱い人は安静に」とも言われていたが、研究が進むにつれ「むしろ運動したほうが腎臓に良い」ということが明らかに。では、腎機能に効果的な運動の仕方とは?名医が実践・提案する運動法を見ていこう。

取材・文/石飛カノ 撮影/石原敦志 ヘア&メイク/村田真弓 スタイリスト/高島聖子 取材協力/川嶋 朗(医学博士、神奈川歯科大学大学院特任教授)、川村哲也(東京慈恵会医科大学客員教授)、上月正博(医学博士、山形県立保健医療大学学長、理事長、東北大学名誉教授) トレーニング指導/澤木一貴(SAWAKI GYM代表) 

初出『Tarzan』No.893・2024年12月12日発売

腎臓活性ウォーキング
教えてくれた人

川嶋朗(かわしま・あきら)/神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授。〈統合医療SDMクリニック〉院長。東京女子医科大学で腎臓の代謝研究および西洋医学と代替医療を統合した医療実践を背景に、2014年より現職。

川村哲也(かわむら・てつや)/東京慈恵会医科大学客員教授。同大学卒業後、米バンダービルト大学腎臓小児科へ留学。東京慈恵会医科大学教授、同臨床研修センター長を経て2022年より現職。患者のための腎臓病教室などを開催。

上月正博(こうづき・まさひろ)/山形県立保健医療大学学長、理事長。東北大学名誉教授。腎臓専門医。日本および国際腎臓リハビリテーション学会理事長を歴任。2018年腎臓リハビリの功績により「ハンス・セリエメダル」を受賞。

毎日血圧と体重をモニターを朝のルーティンに組み込む。

腎臓も肝臓に負けず劣らずの忍耐の臓器。かなりのダメージを受けていても健気に働き続け、持ち主がおかしいと気づいたときにはもう手遅れ、というケースも珍しくない。

というわけで、日頃から血圧や体重などをモニターしておくことはとても重要。加齢の影響を受けやすいだけに、40歳以降は毎日の血圧&体重計測を習慣化したい。年々血圧が右肩上がりになっている、急に太ったなどの変調は腎臓リスク大。捉えたら即、対策を。

「私は40代から血圧が高くなってきたので、ある程度以上に血圧が高くなった時点から現在まで降圧剤を服用し続けています。体重も毎朝トイレに行った後に量っていて、前日に何をしたら体重が増えるのかが大体分かるようになりました。1㎏増えたら食事や運動で1㎏落とす生活をしています」(川村さん)

洗面所に体重計をセットし、トイレを済ませた後に必ず乗る習慣をつける。その後1時間以内に血圧を測る。このように朝のルーティンに組み込んでしまえばとりこぼしなし。

血圧はまずは130を目指す。

現在の指標では収縮期血圧が140mmHg以上になると高血圧と診断される。これに対して正常血圧は収縮期血圧が120mmHg未満で拡張期血圧が80㎜Hg未満とキビしい。

「以前は130〜139/85〜89mmHgが高血圧と正常血圧の間の“正常高値血圧”と呼ばれていましたが、現在は“高値血圧”に。最終的には120mmHg未満を目指すとしてもいきなり血圧を下げるのは難しいと思います。まずは130mmHgを目指しましょう」(川村さん)

血圧のガイドライン2019年の血圧ガイドラインで、それまで正常高値血圧だった130〜139/85〜89mmHgは高値血圧。正常だった120〜129/80mmHg未満が正常高値血圧とされ、一段階キビしくなった。

高血圧治療ガイドライン2019より

標準体重を把握しておく。

自分くらいの身長ではどのあたりの体重を目指せばいいのか、把握しておくこともまた大事。体重を身長の2乗で割って計算する肥満の指標、BMIの正常値は16.5〜25未満。このレンジにある22が最も健康的な数値といわれている。なので標準体重は身長の2乗×22。身長が170cmだったら63.6kgが標準だ。覚えておこう。

標準体重の計算式|身長(m)×身長(m)×22

身長が170cmの場合1.7×1.7×22=63.6kg

BMI 肥満の判定
18.5未満 低体重(やせ)
18.5〜25未満 普通体重
25〜30未満 肥満(1度)
30〜35未満 肥満(2度)
35〜40未満 肥満(3度)
40以上 肥満(4度)

BMIはビルダーやトップアスリートなど筋肉隆々の人以外なら誰にでも当てはまる肥満指標。22の体重を目指そう。

安静ではなく動きなさい。名医たちの運動習慣。

CKDが重症化すると有害な物質を排泄する腎臓の機能はほとんど失われてしまう。よって行き着く先は器械を用いる血液透析や腹膜の浸透圧を用いる腹膜透析。こうした透析治療を受けている間、以前は運動はタブーとされていた。理由は腎臓に負担をかけるから。

ところが現在ではむしろ運動を取り入れた方が腎機能が改善するということが明らかに。運動療法によって腎不全患者の死亡率が低下したという報告もある。やはり運動、腎臓ケアにもマストなのだ。

運動が腎臓の機能を改善させるということを名医たちはもちろん知っている。そして実際に自ら実践もしている。

「自宅のある文京区から病院のある高輪までの往復25kmを毎日自転車で移動しています。基本は有酸素運動ですが力を入れてぐいぐい漕げば筋トレにもなります」(川嶋さん)

「腕立て伏せを200回から始めて毎週100回ずつ増やし、今は週に3回、仕事の合間に1日1000回行っています。今後はランジなど下半身の筋トレも加えようと思っています」(上月さん)

運動不足は喫煙と同じ。

運動不足のリスクは喫煙がもたらすリスクと同じ、という報告がある。

「2011年に『ランセット』という学術誌で世界でタバコの害で510万人、運動不足で530万人が死んでいるとの報告が。運動不足が原因で生じた心臓病や脳卒中、腎臓病などいわゆる循環器疾患、大腸がん・乳がん、糖尿病の死亡率が高かったというのが理由です。同年、日本でも調査され、世界に比較し喫煙者が多く、タバコの害のほうが運動不足の害を少し上まわりましたが、ほぼ同様の結果でした」(上月さん)

強すぎる運動は余計活性酸素が増えるので注意。

加齢によって弱っていく腎臓を守るために運動は必須。かといっていきなり強度の高い運動を取り入れるのは逆効果。長時間のランニングはエネルギー消費はするが、活性酸素が発生。

「マラソンなどの運動では逆に活性酸素が腎臓を痛めつけてしまいます。息切れするかしないかギリギリのレベルの運動がおすすめです」(上月さん)

歩くならこう歩け。腎臓活性ウォーキング!

まずは10分1000歩から。
腎臓活性ウォーキング

水分補給も大事!

腎臓を確実に活性化する運動はウォーキング。上月さんの研究グループが心筋梗塞の術後の患者の腎機能と運動の関係を調べたところ、1日4000歩以上歩くと腎機能が改善することが判明。

「4000歩は最低ラインですが、10分1000歩のウォーキングでも死亡率は4%減ると考えられています。軽いウォーキングから始めて少しずつ歩く時間を延ばしていきましょう」

腎臓活性ウォーキング

写真に示したポイントを押さえ週3〜5回、10分をクリアしたら次は20分、30分とステップアップしていこう。

東北大学式・腎臓筋トレに挑戦。

ウォーキングに加え、週に2〜3回の筋トレを行えばより完璧。プログラムは全身の筋肉をまんべんなく鍛えられる5種目。ノーマルは腎不全の人でも行える東北大学病院式の腎臓リハビリ。アドバンストはノーマルの要素に負荷をプラスした、体力のある人向けの『ターザン』オリジナルプログラム。

ノーマル|腎不全の人も行える5種目

1. 壁プッシュ

壁プッシュ

壁の前で両足を肩幅に開いて立つ。両手を肩の高さで壁につけ、5秒かけて肘を曲げ、上体を壁に近づける。1秒キープし5秒かけて元の姿勢に。5回繰り返し。

2.バックキック

バックキック

壁の横に立ち右手を壁につける。左手は腰に当てる。5秒かけて左膝を腰の高さに上げ、息を吸いながら5秒で左脚の膝を伸ばして後ろに蹴り出す。左右各3回。

3.背筋そらし

背筋そらし

うつ伏せになり両腕と両脚を伸ばす。5秒かけて右手と左脚を上げ1秒キープ。5秒で元の姿勢に戻り、次は左手と右脚で同様に上げ下ろし。左右交互に6回。

4.レッグレイズ

レッグレイズ

両脚を肩幅に開いて仰向けになり、5秒かけて両膝を曲げ、胸に近づける。1秒キープしたら息を吸いながら5秒かけて膝を伸ばし元の姿勢に。5回繰り返し。

5.バックブリッジ

バックブリッジ

床に仰向けになり、両膝を肩幅に開いて立てる。5秒かけてゆっくりお尻を持ち上げる。そのまま10秒キープしたら息を吸いながら5秒で元の姿勢に。3回。

アドバンスト|体力がある人向けの5種目

1. 膝つきプッシュアップ

膝つきプッシュアップ

四つん這いの姿勢になり、足首をクロスさせて膝下を上げる。5秒かけて肘を曲げ上体を床ギリギリまで近づけたら1秒キープ。5秒で元の姿勢に。5回。

2.スタンディングバックキック

スタンディングバックキック

両手を頭の後ろで組んでまっすぐに立つ。5秒かけて左脚の膝を腰の高さまで上げ、息を吸いながら5秒で左脚の膝を伸ばして後ろに蹴り出す。3回行ったら逆脚で。

3.チェアローワーバック

チェアローワーバック

椅子の横に立ち片手で椅子の背を摑む。上体を倒して左腕と右脚を伸ばす。5秒かけて左手と右脚をできるだけ上げ1秒キープ。5秒で元へ。3回行ったら逆も。

4.ニーストレートレッグレイズ

ニーストレートレッグレイズ

床に仰向けになり両脚を揃えて床から浮かせる。5秒かけて両脚を伸ばしたまま天井に向かって上げる。1秒キープしたら5秒かけて元の姿勢に。5回繰り返し。

5.シングルレッググルートブリッジ

シングルレッググルートブリッジ

床に仰向けになり両手を床につけて膝を立て、お尻を床から浮かせる。膝を直角に保ったまま5秒かけて片脚を上げ10秒キープ。5秒で元へ。左右交互に6回。

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