あなたは「隠れ脂肪肝」かも?自分の肝臓の状態をチェック。
沈黙の臓器といわれる肝臓。そもそもあなたのそれは正常なのか。衰え、壊れていく最大の原因と、現状をチェックする方法を知ろう。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/Yua 取材協力/泉 並木(医学博士、武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長)
初出『Tarzan』No.893・2024年12月12日発売
教えてくれた人
泉並木(いずみ・なみき)/武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉医院長。専門は消化器内科全般、B型肝炎・C型肝炎や肝臓がんなどの診断と治療を得意とする。日本消化器学会消化器専門医、日本肝臓学会肝臓指導医等多くの資格を持つ。
目次
日本人の3人に1人以上は脂肪肝!
お腹が出てきて周りの人間から「太った?」と言われたらかなり落ち込む。でも年に一度の健康診断で「脂肪肝」と診断されたらテヘヘと照れ笑いを浮かべ、大人の男の勲章とばかりにちと誇らしげ。
この反応はまったくもってナンセンス。指でつまめるお腹の脂肪は皮下脂肪。溜まりすぎると見てくれはカッコ悪くなるけれど、それで健康が害されたりカラダに不具合が起こることはほとんどない。
脂肪肝は皮下脂肪とは訳が違う。食事で摂った栄養は小腸から吸収され、速やかに肝臓に送られる。これが適正な量であればカラダに必要なエネルギーや組織の材料として適所に運ばれ活用される。
ところが、過剰な糖質や脂質は肝臓で中性脂肪として蓄えられてしまう。この状態が高じて、肝臓の約30%以上が脂肪で占められるようになると脂肪肝。日本人の3人に1人以上に当てはまる。
皮下脂肪は飢餓対策として人類が手に入れた必須の組織。これと違って肝臓は本来、脂肪を蓄える組織ではない。脂肪肝はいわば異常事態。少し前まで脂肪肝は軽視されていたが、近年は肝臓の重篤な機能不全の入り口と考えられるようになってきた。テヘヘと笑って済ませている場合ではない。
健康診断を受けた人のうち、脂肪肝と診断された人の割合を調べた論文の検証データ。1990年代には21.9%だったが、2010年代には35.5%と1.6倍に増加。今、3人に1人以上は脂肪肝!
出典/Yamamichi N, Shimamoto T, Okushin K, et al. 2022
ウイルスやアルコールより怖いのは過食による脂肪!
さて、健康診断であなたが脂肪肝と診断されたとしよう。その先には一体何が待っているのか?
ひと口に脂肪肝といっても原因は主に2つある。ひとつはみなさんご存じのアルコール性脂肪肝。もうひとつは過食と運動不足による脂肪肝。こちらは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる。
NAFLDはさらに比較的簡単に改善できる非アルコール性脂肪肝(NAFL)と重症の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分かれる。肝炎はウイルス感染でも発症するが、現在はこのNASHが急増中。炎症が起こると肝臓に線維化が起こり、肝機能が低下して、最悪の場合は肝硬変や肝がんに進行する。
武蔵野赤十字病院統括管理監・名誉院長の泉並木さんはこう言う。
「肝臓に脂肪が溜まることでなぜ炎症が起こるのかは分かっていません。ただ、どちらか見分けることは重要。現在は脂肪肝と診断されたら超音波などで肝臓の硬さを調べる検査が導入されています」
MAFLDという新たな概念。
NAFLDとはNonAlcoholic Fatty Liver Diseaseの略。でも、ある人はアルコール性、ある人は非アルコール性の脂肪疾患とはっきり分類するのは難しい。そこで、2020年に新たな名称が提案された。それがMAFLD(Metabolic dyfanction Associated Fatty Liver Disease)で、日本語では代謝異常関連脂肪肝。
脂肪肝に加えて「肥満」や「2型糖尿病」、腹囲や血圧や脂質異常など2種類以上の「代謝異常」のいずれかが合併する場合、MAFLDの診断が下る。
よくよくヒアリングしてみると、NASHと診断された人でお酒を一滴も飲まない人はほとんどいない。ならば脂肪肝から線維化に進行するリスクがある場合はアルコール関係なしに一括で早期発見に努めようという流れに。
もしやあなたも隠れ脂肪肝かも。
ご存じの通り、肝臓は沈黙の臓器。相当具合が悪くならないと弱音を吐かない。肌が黄色くなる黄疸、全身の倦怠感、むくみや腹水や吐き気、こうした症状が表れたときはすでに肝硬変まで進行している可能性がある。自覚症状が表れたら時すでに遅しだ。
だからこそまだ引き返し可能な脂肪肝のうちに炙り出し、生活習慣を改善する必要がある。下の隠れ脂肪肝チェックを行ってみてほしい。7つの質問について当てはまる回答を正直に選び、合計点を割り出してみよう。あなたの脂肪肝リスクはいかに?
1. お酒を多量(日本酒3合以上、ビール大瓶3本以上)に飲む頻度は?
・ほぼ毎日=8点
・週3回程度=3点
・週1回程度=2点
・多量に飲むことはない=0点
2. ジュースなどの甘いものを飲むか?
・毎日飲む=3点
・ときどき飲む=2点
・ほとんど飲む=0点
3. 寝る前2時間以内に食事を摂るか?
・毎日食べる=3点
・ときどき食べる=2点
・ほとんど食べない=0点
4. 車やエレベーターをよく利用するか?
・ほとんど毎日=2点
・ときどき利用=1点
・利用しない=0点
5. 20歳の時の体重より20kg以上増えたか?
・増えた=2点
・増えてない=1点
6. タンパク質の多い食品(肉・魚・卵・豆製品)をよく食べるか?
・ほとんど食べない=2点
・あまり食べない=1点
・よく食べる=0点
7. 睡眠時間はどれくらいか?
・6時間未満=1点
・6時間以上=0点
合計点は?
●0〜5点 脂肪肝リスク【低い】
肝臓が健康な状態である可能性が高い。現在の食習慣を維持して運動を取り入れれば、なおよし。
●6〜7点 脂肪肝リスク【中】
日常生活の習慣に脂肪肝になりやすい傾向が見られる。アルコールや甘いものの摂りすぎに注意。
●8点以上 脂肪肝リスク【高い】
完全に肝臓に脂肪が溜まりやすい生活習慣。脂肪肝の可能性がかなり高い。すぐに生活習慣の見直しを。
血液検査で注目すべき数値は?
毎年の健康診断や人間ドックで受ける血液検査も、肝臓の機能を「見える化」する方法。
たとえば肝細胞が炎症を起こして傷つくと細胞内のALTやASTといった酵素が血液中に漏れ出して血中濃度が上昇する。また、肝炎になると血液を固める血小板の数が減少したり、肝硬変ではビリルビンという色素が増える。
とくに肝臓疾患の早期発見のために重要なのはALT。日本肝臓学会は2023年、この数値が30U/Lを超えたら医師に相談せよ、という「奈良宣言」を発信した。背景には代謝異常による脂肪肝や肝炎の増加という事実がある。次回のALT値にご注目!
隠れ脂肪肝チェック
1. ALT(GPT)、 AST(GOT)
【基準値】ALT:30U/L以下 AST:30U/L以下
【肝臓病が疑われる目安】それぞれ基準値よりも高い
最もベーシックな肝機能を示す数値。どちらも肝細胞に含まれている酵素だが、ASTは心臓や腎臓、筋肉にも含まれているので「奈良宣言」では肝臓特有の酵素・ALTが指標となった。
2. γ-GPT(γーGT)
【基準値】50U/L以下
【肝臓病が疑われる目安】200U/L以上で1が基準値より高い
肝臓が生成した胆汁を十二指腸に運ぶ胆管で作られる酵素。飲酒や薬の影響によって数値が上昇。ALTやASTとセットで高い場合は脂肪肝が疑われる。
3. 血小板数
【基準値】14.5〜32.9×104/μL
【肝臓病が疑われる目安】基準値よりも低い
脂肪肝から肝炎に進んで肝臓の線維化が始まると肝臓の血流が悪くなり、血液の凝固に関わる血小板が破壊される。この数値が下がってきたら肝硬変かも。
4. ビリルビン数
【基準値】0.4〜1.5㎎/dL
【肝臓病が疑われる目安】1.5㎎/dL以上で1が基準値より高い
ビリルビンは赤血球の色素成分のヘモグロビンが分解したときに作られる黄色い色素で黄疸の原因。ALTやASTとともに上昇していたらおそらく肝硬変。
出典/1、3の基準値は日本人間ドック学会「判別区分(2023年版)」、他は武蔵野赤十字病院「検査値案内(2019年)」
FIB-4 インデックスって何だ?
単なる脂肪肝なのか、肝硬変や肝がんに進行する可能性がある肝炎なのか。臨床現場ではそのどちらかを見極めることが非常に重要。
NASHなどの肝炎は肝臓の細胞を取り出し、顕微鏡による組織検査を行うことで診断が確定する。とはいえ、片っ端から組織検査をするというのは現実的ではないので現在推奨されているのがFIB-4インデックスという指標。
これは肝臓の線維化のレベルを評価するスコアリングシステムで、年齢と血液検査の値から割り出すことができる。基準値は1.3未満でそれ以上になると肝臓が硬いということ。計算式は複雑なので日本肝臓学会HPの計算サイトへ。
FIB-4インデックスの計算方法
FIB-4 Index=(年齢(歳)× AST(IU/L))/(血小板数(109/L)× √ALT(IU/L))
●ある編集部員の例
年齢49 AST34 血小板数15.6 ALT(GPT)16 計算結果2.67
【FIB-4index】基準値:1.3未満 前肝硬変:2.67以上 肝硬変:3.25以上
日本肝臓学会WEBサイト
50代までに肝炎を遠ざける準備を。
ALTが30U/Lを超えたら血液検査の値からFIB—4を計算したり、肝臓専門医による超音波やMRI検査を受けて肝臓の硬さを調べてもらう。で、数値がちょっとでもヤバいとなったらそこから即、引き返すしか道はない。というか、そこで引き返さなければ待っているのは肝硬変もしくは肝がんという将来だ。
「基準値から外れたら真面目に生活習慣の改善に取り組んで肝臓の脂肪を取り除く努力を。とくに30代から50代くらいの間に生活習慣を改めることが必要です。60代になってから頑張って習慣を変えることはかなり難しいので、50代までに真剣に肝臓を守る準備をしておきましょう」