ダイエットが原因で脂肪肝? 内臓を痛める悪いクセ
健康診断の際でなければなかなか意識することがない内臓。しかし、食事や服薬で思わぬダメージを受けているケースもある。自分の体調やカラダの特徴を知って、危ないクセは事前に回避しよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/イマイヤスフミ 取材協力・監修/山本健人(医学研究所北野病院消化器外科医)
初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売
教えてくれた人:山本健人さん
やまもと・たけひと/外科医、医学博士。医学研究所北野病院消化器センター消化器外科医。ウェブメディアやSNSで正しい医療情報を発信している。『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(ダイヤモンド社)がベストセラーに。
目次
ダイエットを頑張る
肝臓を傷める!
過食などで太ると、元来は溜まらない場所にも体脂肪が溜まる。これが「異所性脂肪」。代表格は「脂肪肝」だ。
脂肪肝とは、肝臓内に余分な体脂肪が溜まるもの。肝臓の5%以上の体脂肪が溜まると脂肪肝とされる。超音波などの画像診断で判定されるほか、血液検査でALTという酵素の値が30オーバーだと、脂肪肝の疑いアリ。
脂肪肝になると肝機能が落ちるし、放置していると肝硬変や肝臓がんに進行するケースもある。
脂肪肝は過食などによる肥満以外にも、飲酒で起こりやすい。それ以外に見落とされがちなのが、ダイエットなどによる低栄養が招く脂肪肝。低栄養性脂肪肝だ。
低栄養性脂肪肝のメカニズムは複雑だが、鍵を握るのはタンパク質不足。タンパク質が足りないと肝臓の代謝のスイッチが切り替わり、脂肪を溜めやすくなる。
この他、タンパク質の摂取が減り筋肉が減少すると、全身の代謝が落ちて脂肪肝を招きやすい。
過度なダイエットは持続せず、いずれリバウンドを招くばかりか脂肪肝の心配もある。タンパク質をきちんと摂り、月2kg減ペースの緩やかなダイエットが王道と知るべし。
痛み止めをよく飲む
胃・十二指腸を傷める!
頭痛、肩こりなどの痛みで痛み止めが手放せない人は、薬のパッケージを確かめてみよう。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が含まれるなら、飲み過ぎで胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍を起こすこともあるからだ。
NSAIDsは解熱鎮痛剤の一種。イブプロフェン、ロキソニンなどがあり、コロナ禍で流通量も増えた。
短期的な服用なら問題は少ないが、飲み続けると胃粘膜を胃酸から保護するプロスタグランジンの生成を邪魔し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に陥りやすい。
「消化性潰瘍の9割以上は、痛み止めの服用かピロリ菌感染です」(外科医の山本健人さん)
胃腸を荒らしたくないなら、選ぶべき解熱鎮痛剤は、アセトアミノフェン。プロスタグランジンを抑える作用はないからだ。薬局やドラッグストアなどでは《カロナール》や《タイレノール》といった商品名で売られている。
「NSAIDsが使えない小さい子供なら、解熱鎮痛剤はアセトアミノフェン一択。アセトアミノフェンは肝臓で分解されるため、腎機能が落ちている高齢者でも安心して服用できるのも利点です」
水をたくさん飲む
心臓・腎臓を傷める!
カラダの60%前後は水分。脱水すると全身の臓器に悪影響が及ぶ。高温多湿の夏場に脱水が進むと、熱中症で死に至ることだって考えられる。なかでも、喉の渇きを感じにくい子供や高齢者は水分補給を忘れてはならない。
水分不足は避けたいが、必要以上に水分を摂りすぎるのも良くない。ことに心臓や腎機能が弱っているタイプは、過剰摂取は避けたい。
「水分が増えすぎると血液を循環させる心臓、水分を排泄する腎臓の負担になります」
1日の水分摂取量の目安は、体重(kg)×30。体重70kgなら70×30=2100mLだ。
ただし、これは水を2L飲めという意味ではない。食べ物には多くの水分が含まれており(たとえば、野菜の90%以上は水分だ)、平均的な日本人は水分のおよそ半分を食事から摂っていると推定される。だから、体重×30=水分摂取量の半分ほどを飲み物から摂ると考えるといいだろう。
詳しくいうと、食べ物に含まれる水分量には、食生活で差がある。脂質多めの欧米型の食事からは全体の20〜30%ほどしか水分が摂れないため、水分リッチな和食より多くの水分摂取が求められる。
貧血予防に鉄剤を飲む
肝臓を傷める!
鉄は必須ミネラル。体内には釘1本分(5g)ほどの鉄が存在し、各種酵素の働きに必須なほか、血中で酸素を運ぶヘモグロビンの成分となる。鉄が足りないと酸素が組織に十分行き渡らず、貧血になることもある。
だが、ウイルス性肝炎などの慢性的な肝臓病の患者は、鉄剤などからの過剰摂取を控える。鉄が肝臓に溜まりやすく、鉄が媒介する酸化ストレスで肝臓がんの発症率が上がることも考えられる。
鉄に限らず、サプリで特定の栄養素ばかり摂るのはNG。貧血が気になるなら鉄剤ではなく、貝類、納豆、小松菜などの食品から適度に摂ろう。
高重量でスクワットに挑む
肛門を傷める!
痔でもっとも有病率が高いのが、いぼ痔(痔核)。肛門の外側にできる外痔核と、内側にできる内痔核がある。
いぼ痔の多くは、排便時の息みや便秘などで肛門周辺に荷重がかかり、毛細血管が集まる静脈叢が鬱血して生じる。同じ姿勢で坐りすぎたり、肛門に長時間ストレスをかけ続けたりしないこと。
意外な誘因が、重たいものを扱うこと。一時的に腹圧を上げて息むため、肛門近辺が鬱血しやすく、なかでも外痔核に悩まされやすい。スクワットを行うなら高重量で攻める「高負荷低回数」ではなく、負荷を落として回数を増やす「低負荷高回数」で。
耳かきが好きすぎる
耳を傷める!
身だしなみの一環として、綿棒や耳かきなどで耳をキレイにすることは重要。
「でも、医学的には耳かきは不要。外耳道炎を起こすことがあり、耳鼻科医は耳かきを戒めています」
耳垢は、耳からの分泌物と古くなった細胞が混じったもの。掃除をしなくても、いずれ耳の外へ排出される。耳の穴から鼓膜までの外耳道の長さは約3cm。その皮膚は薄く繊細なため、耳掃除で傷ついてしまうと炎症(外耳道炎)が生じやすいのだ。
耳の奥が痒くて耳掃除したくなる人は、すでにちょっとした外耳道炎が生じているサインかも。掃除したくなっても、耳の穴の周りを軽く拭き取る程度に留めておこう。
枕を使わずに眠る
食道を傷める!
高すぎる枕は危険だが(詳しくはこちらの記事:若年層も要注意。高すぎる枕が脳卒中を招く! 寿命を縮める悪いクセ)、枕なしで眠るのもダメ。逆流性食道炎の人は症状が出やすくなる。
逆流性食道炎とは、胃酸が食道へ逆流して炎症が生じるもの。胸が焼けたり、酸っぱいものが上がってきたりする感じがしたら要注意だ。ことに夜間に逆流性食道炎の症状が出やすいタイプは、逆流予防に枕を少し高くして眠ることも有効。
逆流性食道炎は、食べ過ぎ、早食い、脂質が多い食事、飲酒、喫煙などによって起こる。いずれも悪癖だが、なかには良かれと思って行ったことで生じるケースもある。胃に潜むピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)の除菌だ。
ピロリ菌感染は、日本人に多い胃がんの最大のリスクファクター。だが、除菌がきっかけとなり、逆流性食道炎に悩まされる場合もある。
ピロリ菌を取り除くと、ピロリ菌による慢性的な胃炎で抑えられていた胃酸の分泌が強まるため、逆流性食道炎の症状が出やすくなってしまうのだ。
「ただそうしたデメリットを踏まえても、ピロリ菌除菌のメリットの方が大きい。除菌を躊躇う理由はありません」
筋トレをサボりがち
肝臓を傷める!
内臓は協力して働く。なかでも中心的な存在が、肝臓。代謝、解毒、胆汁の分泌といった地道な業務をこなして、内臓ファミリーを支える。
そこで取り組みたいのが、筋トレ。なぜなら筋肉は肝臓と似た役目を果たし、“第二の肝臓”とも呼ばれるほど。筋肉が衰えると、それだけ肝臓の仕事が増えるからだ。
筋肉と肝臓がどう関連するか。例を2つ挙げよう。
1つ目は血糖値。食後増えすぎた血糖を取り込み、グリコーゲンとして貯蔵できるのは肝臓と筋肉だけ。筋肉が減ると血糖を蓄えにくくなり、肝臓で脂肪として蓄積しやすくなる。そこから脂肪肝に至ると肝機能は格段に落ちる。
2つ目はアンモニア代謝。タンパク質に含まれる窒素はアンモニアに変わる。アンモニアは有害なので肝臓で尿素に変わり、尿で排泄される。
肝機能が落ちるとアンモニア処理が滞り、血中アンモニア濃度が上昇。頭がぼんやりするなどの症状が出る。アンモニアの最大30%ほどは筋肉でも処理されており、肝臓がダウンすると筋肉が肩代わりして解毒を進めてくれる。
週2回程度の筋トレで筋肉を保ち、肝臓を助けてやろう。
健康法をネットに頼る
内臓全般を傷める!
内臓をヘルシーに保つにも、健康に関する情報は広く深く集めたい。お役立ちなのは、やはりネット検索だ。
健康を高めるうえで大切な情報にアクセスして利用できない“情弱者”にはなりたくない。一方でネット界は玉石混淆の健康情報で溢れており、眉唾モノも多い。
困ったことに医師発でも怪しい情報があり、検索結果で上位にランクされるサイトはそれだけ信頼性が高いという保証もない。
「ニセ情報を見分けるコツの一つは、キーワードを検索窓に打ち込み、スペースを空けて“or.jp”と入れること。すると公的機関や学会のサイトが出てきますから、個人発などの怪しげな情報に惑わされる恐れが減ります」
抗生物質を漫然と飲む
大腸を傷める!
20世紀最大の発明の一つが、抗生物質。肺炎など死を招く感染症に優れた効き目を示し、多数の人命を救った。抗生物質とはカビなどの微生物が、他の微生物の活動や生育を阻害するために作る物質だ。
ただ抗生物質が効力を発揮するのは、細菌による感染症。風邪や新型コロナ、インフルエンザなどは細菌ではなくウイルスによる感染症だから、抗生物質は効かない。
抗生物質は医師しか処方できないが、患者の求めに応じ、必要性に乏しい抗生物質を出す医師もいる。乱用で抗生物質が効かない耐性菌が登場するなど社会問題化している。
抗生物質の乱用は内臓にもダメージを与える。大腸内で共生する腸内細菌まで殺菌し、腸内環境を乱しかねないのだ。
「抗生物質ですべての腸内細菌が死ぬわけではありません。ただ、生き残る腸内細菌には“悪玉”もいて、ライバルが減った腸内で悪玉がはびこると腸内環境の乱れにより、さまざまな不調が生じます」
肺炎や膀胱炎などのように、抗生物質が有力な治療法なら躊躇なく服用すべき。でも、風邪など抗生物質が原理的に効かない病気で服用するのは百害あって一利なし。
コロナが怖いから空間除菌をする
肺を傷める!
5類へ移行した後も、新型コロナに感染する人は多い。換気や手洗いなどの基本対策は怠らないようにしたい。
だが、コロナが怖いからといって、空間除菌に精を出すのは間違い。
ことに、一時話題になった次亜塩素酸ナトリウムをスプレーしても、ウイルス除去は望めないばかりか、肺などの呼吸器を傷つけることがある。
次亜塩素酸ナトリウムは消毒薬の一種。目に入ると危険だし、空気とともに肺に吸い込むと急性肺障害を起こす可能性もあり得るのだ。
「コロナ対策を主導した世界保健機関(WHO)は、“いかなる状況下でも空間除菌は推奨されない”と断言しています。アメリカの疾病予防管理センター(CDC)も有害になり得ると警告しており、厚生労働省も目や皮膚への吸着と吸入による健康被害の恐れを指摘しています」
空間除菌したいなら、むしろきちんと換気するのが望ましい。新型コロナのみならず、さまざまな感染症対策として有効だ。とくに人が過密になる場所では、換気設備を適切に運転したり、30分に一度以上窓を全開して外気を取り入れたりしよう。
朝食はハムエッグと決めている
腎臓を傷める!
成人の7人に1人が罹っている新たな国民病が、慢性腎臓病(CKD)。腎臓が慢性的な機能低下に見舞われる。
健康診断でCKDが疑われたら、摂取を控えたいのはリン(P)というミネラル。
リンはカルシウムと結合して骨や歯を丈夫にする働きがある。腎機能が落ちた人がリンを摂取しすぎると、余分なリンの排泄が滞り、蓄積したリンとバランスを取るために骨からカルシウムが溶け出すため、骨が脆くなりやすい。リンが血管に沈着すると動脈硬化を招くこともある。
リンはハムやソーセージ、加工食品などに幅広く含まれる。腎機能に不安があるなら、リン制限の必要性について主治医に一度確認してみよう。
気づけば口呼吸をしている
内臓全般を傷める!
呼吸は本来鼻でするもの。鼻は優れた加湿加温器であり、異物が入らないように除去する空気清浄機でもある。
ところがストレスや不安があると、鼻ではなく口で呼吸する機会が無意識に増える。
口呼吸がクセになると、唾液が減り、口の中の粘膜や歯ぐきが乾くドライマウスに陥りやすく、歯周病のリスクが上がってしまう。
歯周病とは、歯周病菌により慢性的な炎症が続くもの。歯を支える歯ぐきや骨(歯槽骨)が壊される怖い病気だ。
さらに近年、歯周病菌は全身で炎症を起こし、心臓病、脳卒中、糖尿病といった生活習慣病の引き金になり、内臓も蝕むとわかってきた。
日頃から意識して鼻呼吸を。
赤ら顔でお酒を飲む
肝臓・食道を傷める!
お酒は「百薬の長」ともいうが、少量の飲酒でも肝臓などに有害という報告も増えた。なかでも気をつけたいのは、飲酒ですぐ赤くなるフラッシャーというタイプ。
お酒のアルコールは、肝臓の酵素で一度アセトアルデヒドに分解されてから、酢酸→二酸化炭素+水という具合に無毒化される。フラッシャーはアセトアルデヒドを分解する酵素の活性が弱いため、顔が赤くなりやすいのだ。
酵素の活性がまったくない人は辛すぎて飲酒できないが、酵素の働きが弱いタイプは我慢すれば何とか飲める。でも、アセトアルデヒドは顔を赤くするだけでなく、毒性が強く発がん性も高い。
たとえば、日本をはじめとする東アジアではフラッシャーが多く、飲酒は食道がんの危険因子になり得る。一方、フラッシャーがほぼいない欧米では飲酒は食道がんのリスクになりにくいのである。
飲める人の適正飲酒は純アルコールで1日20g以内。ビールならロング缶1本(500mL)、日本酒なら1合(180mL)、ワインならグラス2杯弱(200mL)が目安。「それでは足りない!」というならノンアルを利用しよう。
サウナで「整う」
心臓を傷める!
北欧フィンランド発の健康法として世界的にブームのサウナ。以前は一部の愛好者だけに知られていたが、日本でも数年前からファン層が急増している。
サウナは血液循環を良くしたり、自律神経を整えたりして「整う」ことが期待できるという。
2015年、アメリカの権威ある医学誌『JAMA』に掲載された東フィンランド大学の研究でも、フィンランド在住の男性2315人を20年追跡調査したところ、サウナに通う頻度が多い人ほど、心臓病を含む全死因リスクが低いという結論が出た。
「しかし、室温80〜100度という熱いドライサウナ室から、水温10度前後という冷たい水風呂に飛び込むような極端な入り方は、ヒートショックが心配。万人に薦められる健康法ではありません」
ヒートショックとは、急激な温度変化により、血圧や脈拍が乱高下する現象。心臓と血管に負担がかかり、死に至ることもある。
健常者でも体調がすぐれない日のサウナは避けるべき。ましてや肥満などで心臓や血管に少しでも不安があるなら、サウナによるヒートショックにくれぐれもご用心。