若年層も要注意。高すぎる枕が脳卒中を招く! 寿命を縮める悪いクセ
普段何気なく繰り返している生活様式や行動も、やり方を間違えるとカラダへの影響は大。小さな差が積もりに積もって寿命を縮めることにもなりかねない、危険な悪いクセを探っていこう。
取材・文/井上健二 撮影/五十嵐一晴 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/岡田成生 取材協力・監修/柳澤綾子(東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員)、本間龍介(スクエアクリニック副院長) 撮影協力/UTUWA
初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日発売
教えてくれた人:柳澤綾子さん
やなぎさわ・あやこ/医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、麻酔科指導医。社会疫学、医療経済学、データサイエンスが専門。年間500本以上の医学論文を読み解く。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)など。
教えてくれた人:本間龍介さん
ほんま・りゅうすけ/抗加齢医、医学博士。スクエアクリニック副院長。日本抗加齢医学会専門医、米国抗加齢医学会フェロー、日本医師会認定産業医。世界の最先端医療に詳しく、アンチエイジングの最新の知見に基づく診察と治療を行う。
目次
ダイエットのため赤身肉を食べる
牛肉や豚肉を食べ過ぎない。肉好きならチキンがベター
ご飯やパンなどの主食より、おかずで肉類を増やした方が太りにくい。そう信じているなら、残念ながら見当違いのよう。
「約12万人を対象としたハーバード大の研究で、牛肉など赤肉(レッドミート)の摂取が増えるほど、体重は増加傾向にあるとわかりました」(東京大学医学系研究科客員研究員の柳澤綾子さん)
赤肉とは牛、豚、羊のように、調理前に赤みがかった肉類。脂質が少ない牛ヒレ肉(赤身肉)でも、食べ過ぎると太りやすくなるかも。
赤肉は減量に向かないだけでなく、がんリスクも上げてしまう。2015年の国際がん研究機構のレポートは、赤肉の摂取が1日当たり100g増えるごとに、大腸がんリスクが17%ずつ増加すると推定している。
日本人の赤肉の1日平均摂取量は50gほどだから、普通に食べる分には減量にも大腸がんにも差し障りはないだろう。それ以上食べるのは控え、肉類の摂取を増やすなら、白肉の鶏肉をチョイスするのが無難。
健康のために和食を選ぶ
塩分過多に注意して醬油などの調味料を減らす
世界で大人気の和食。ヘルシーフードの鉄板的な存在だが、塩分の摂取量が多くなりやすいのが玉に瑕。
「ヒトは血管から老いる」という名言もあるように、全身に血液を届ける血管にダメージを受けたら、エイジングは進みやすい。和食などによる塩分の過剰摂取は、高血圧リスクを高めて血管を傷つけるのだ。
「世界保健機関(WHO)は塩分摂取を1日5g未満にするよう推奨していますが、日本人は1日平均10〜11g。1日に男性7.5g未満、女性6.5g未満という国の目標をクリアするため醬油や味噌など調味料からの塩分摂取を減らしましょう」
オリーブオイルが苦手
美味なる本物を買い、地中海食にチャレンジ
地中海食を食べている人は健康寿命が長いというエビデンスはかなり蓄積している。さらにWHOが公表した認知症予防のガイドラインでも、地中海食を名指しで推している。
地中海食とはギリシャ、イタリア、フランス、スペインなど地中海沿岸諸国の伝統的な食生活。オリーブオイルを多用し、野菜、果物、魚類、ナッツ類、全粒粉穀物などを食す。
無理は禁物だが、食わず嫌い程度なら、多少高価でも本物のオリーブオイルを買い、サラダにかけてみよう。美味しく感じて苦手意識が克服できたら、それをきっかけに本格的な地中海食にもトライしてみて。
白米、食パンを好む
玄米ご飯や全粒粉パンなど茶色い穀物をチョイスする
米などの穀物をはじめとする糖質は控えるべきか。それとも制限しすぎると寿命は縮んでしまうのか。
賛否両論だが、確実に言えることがある。穀物を食べるなら、白米や食パン、うどんのような白い穀物よりも、玄米、雑穀米、全粒粉パン、挽きぐるみの蕎麦のように、茶色い穀物を選ぶべきなのだ。
「白い穀物を食べるより、茶色い穀物の方が体重増加を抑制し、糖尿病や大腸がんのリスクが下がり、死亡率も低いという研究があります」
理由としては、茶色い穀物により多く含まれる食物繊維により、腸内環境が改善するためとの説が有力。
ツナサンドよりツナマヨおにぎりを選ぶ
毎食タンパク源を摂り、タンパク質を充足させる
日本人のタンパク質摂取量は年々減り続け、近年では1945年の終戦直後と同レベルまで落ちたとか。
タンパク質を補うなら、ツナマヨおにぎりよりツナサンドで。どちらもツナ(マグロ)が具材だが、おにぎりより、サンドイッチの方が総じてタンパク質の含有量が多いからだ。選べるなら全粒粉パンを。
「筋肉だけではなく、脳内で情報をやり取りする神経伝達物資や、免疫を担う免疫グロブリンも、すべてタンパク質から作られます。タンパク質が足りないと筋肉が減り、病気と闘う免疫力も落ちてしまいます」
ツナに限らず、肉類、魚類、卵、乳製品、大豆食品からタンパク質を毎食摂るように意識してほしい。
いつも坐っている
食事が終わったら、即座に立って動こう
日本人は世界でもっとも坐っている時間が長いとされる。坐りすぎは寿命を短くする恐れがある。
オーストラリア在住の45歳以上の成人約22万人を2.8年間追跡調査すると、1日11時間以上坐る人は、1日4時間未満の人と比べて死亡率が40%上がるという結果が出た。
坐る時間が長いほど、血液循環が悪くなり、エネルギー代謝も減り、筋肉も衰えやすくなる。そうしたネガティブな反応が積み重なり、エイジングを進めてしまうのだろう。
食事を終えたら、すぐに立つ。デスクワーク中も30分に一度は立ち上がり、軽く歩いてカラダを動かそう。
健康のためにとにかく歩きまくる
7500歩からが効果的な量。歩く時間を少し増やそう
運動は健康の礎であり、なかでもウォーキングはいちばん手軽な運動。昔から1日1万歩が理想とされるが、それは本当なのだろうか。
2019年に発表されたハーバード大学の研究では、およそ1万7000人(平均年齢72歳)の歩数を調べて4年間追跡調査したところ、歩数が多い人ほど死亡率も低く抑えられたという。
では、歩けば歩くほど健康かというと、どうも“コスパ”の良い歩数が存在しているようだ。
「2020年の別の研究では、1日7500歩から1万2000歩あたりまでは、歩けば歩くほど死亡率は下がりますが、それ以上歩いてもさほど大きなメリットはないと指摘しています。まずは1日7500歩を目指して歩いてみましょう」
日本の成人男子の歩数は1日6793歩、成人女性は5832歩。1分≒100歩だから、男性はあと7分、女性は17分ほど歩く時間を増やすことを目安に。それなら通勤時にひと駅分歩くなどで達成できそう。
主治医が男性医ばかり
選べるなら、担当医は女性にした方がいい?
病院で担当が女医だと不安になるとしたら、それは前時代的な偏見。男性ドクターが女医より優秀という根拠はない。むしろ女医が担当してくれたら、喜んだ方がいいようだ。
「海外で、内科の入院患者の主治医が女医だと死亡率・再入院率が3〜4%下がるという報告があります」
なぜ男女差があるかは不明だが、柳澤先生は次のように推測する。
「女医は患者の様子をマメに見て異変にいち早く気付けたり、話し相手になって相手のストレスを鎮めたりするタイプが多いからだと私は思っています」
週2時間以上筋トレをする
筋トレは15~30分×週2回。それに有酸素運動をプラス
WHOの運動ガイドラインでは、健康のために週2回以上の筋トレを薦めている。でも、長生きしたいなら、週2時間を超えないようにトレーニングした方がよさそう。
筋トレの時間が週140分を超える人たちでは、筋トレをやらない人たちよりも、糖尿病を除く全疾患のリスクが上がり、死亡率も高まることがわかったからだ。
この研究を行ったのは、東北大学、早稲田大学、九州大学のグループ。18歳以上の筋トレと疾患・死亡リスクを調べた論文1252本から、信頼性の高い16本を選び、その結果を統合して解析。前述のようなショッキングな結論を導き出したのだ。
筋トレで筋力を高め、筋肉を増やすことは健康作りに欠かせない。筋肉が分泌するマイオカインというホルモンには、疾病リスクを下げて寿命を延ばす働きもある。だが、何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。中庸が肝心のようだ。
筋トレにおける中庸とは、週30〜60分。この研究では、週30分でがんリスク、週40分で死亡リスク、週60分で心臓病リスクが、それぞれ最低になるというデータが示されている。
加えて筋トレ単体で頑張るより、ランニングなどの有酸素運動を組み合わせた方がいずれのリスクも下がりやすいとわかっている。1回15〜30分の筋トレを週2回、それに好きな有酸素を組み合わせるメニューが、現状ではベストと言えそう。
毎週の筋トレ時間と死亡リスク
東北大学、早稲田大学、九州大学の研究グループによる分析。18歳以上の人の筋トレと病気、死亡リスクの関係について国内外の研究論文1252本を集計・整理。そこから信頼性の高いものを選び、分析した結果。筋トレしない人と比べて週40分で死亡率が最低になり、週140分を超えると死亡率は上がる。
動物と触れ合わない
ペットと楽しく戯れてストレスを緩和する
ストレスは万病の元だが、ペットと触れ合うとストレスは下がる。高齢者施設には、ペットとの触れ合いで入所者のストレスを減らすアニマルセラピーを導入するところも。
「ペットと楽しく戯れると、オキシトシンというホルモンが増える。オキシトシンはストレスを和らげてくれます。またペットを残して先に死ねないと思うと、自らの健康にも一層気を配るようになるでしょう」
散歩が欠かせない犬を飼うと歩数が増えて運動量はアップ。減量にも健康寿命の延長にもプラスだろう。
何事にも無関心
自分なりの贔屓を作り、推し活、オタ活に励む
推し活やオタ活を冷ややかに見る人もいるが、贔屓を作って夢中で全力応援するとストレス軽減となり、アンチエイジングにも一役買う。
「脳内ではセロトニンやドーパミンといった幸せホルモンの分泌が増えます。健康作りに有益な人脈などの社会資本(詳細は後述)が広がるきっかけの一つにもなるでしょう」
推す相手は韓流スターでも、地下アイドルでも誰でもいい。アニメのキャラ、パンダやペンギンといった動物園・水族館のスターでもOK。こうして守備範囲を広げると推したい対象が見つかり、健康寿命を延ばす貴重な契機を提供してくれそう。
高い枕で寝ている
12cm未満の低くて柔らかい枕で眠る
日本人の死因の4位を占めるのは、脳卒中。そんな脳卒中の新たなリスクとして注目したいのが、高すぎる枕で寝ること。
国立循環器病研究センターは2024年、脳卒中の原因の一つになり得る「特発性椎骨動脈解離」は枕が高いほど発症率が高く、より硬い枕ではその関連が顕著になると立証したのである。
脳卒中は高齢者に多いけれど、働き盛りの若者や中年でも罹るケースがある。その一因となるのが、特発性椎骨動脈解離。首の後ろの椎骨動脈が破れて出血し、脳卒中を起こしてしまう。
この研究によると、枕の高さ15cm以上だと、12cm未満と比べて特発性椎骨動脈解離の発症率が約2倍になっていた。
その理由として研究チームは、高すぎる枕で首が折れ曲がることに加えて、寝返りなどで捻りの動作が入り、特発性椎骨動脈解離が起こりやすくなるのではと推察している。
安心してぐっすり眠ることを「枕を高くして眠る」というが、高く硬すぎる枕では安心して眠れないのだ。
枕の高さと特発性椎骨動脈解離の発症率
国立循環器病研究センターが行った53人の症例群と53人の対照群による研究。脳卒中の一因となる特発性椎骨動脈解離の発症率は、枕の高さが高くなるほどアップしていた。
断固として独身を貫く
独身者は社会や他者とのつながりを広げる活動を
結婚するかしないかは自由だが、ずっと独身だと寿命は短くなるかも。男女約9万人の婚姻状況とその後の死亡との関連を分析した日本の研究で、既婚と比べて独身だと男性で1.9倍、女性で1.5倍、各々死亡リスクが上がるとわかったのだ。
因果関係をひもとくのは容易ではないけれど、柳澤先生はその背景に「社会資本」の違いがあるのではないかと言う。
社会資本とは、人脈、コネ、顔の広さなど、地域社会に広がる人間関係のこと。社会資本がリッチだと人と人とのつながりでストレスが緩和されたり、健康の維持・向上に役立つ活動のチャンスが増えたりすると考えられる。
一方、総じて既婚者よりも独り身の方が、社会資本はプアになりやすいだろう。
独身者は、ボランティア活動で地域と関わったり、仕事以外の趣味やスポーツで人脈を広げたりするなどの努力で社会資本の拡充に励もう。
婚姻の状況と死亡率
研究開始時にアンケートで婚姻状況(既婚、離別、離婚、独身)について尋ね、その質問に回答した40〜79歳の男女90,064人について、婚姻状況とその後の死亡との関連を分析した。その結果、独身だと男女ともに死亡率が上がることがわかった。
シャワーで済ませることが多い
ヒートショックを避けつつ、できるだけ浴槽入浴しよう
日本人の寿命が長いのには、お風呂好きが多いことも関連していそう。
「約3万人を10年間追跡したところ、入浴により、脳卒中や心臓病といった血管の異変で起こる病気のリスクが下がることがわかりました」
また2024年、〈バスクリン〉と東京都市大学の早坂信哉教授の研究グループによる共同研究では、入浴頻度が週4回以上の群と、週3回以下の群を比べると、前者の方が幸福度、主観的健康感、睡眠の満足度がそれぞれ高い傾向があったという。
ただし入浴時に、温かい浴槽と寒い脱衣場の気温差などにより、血管や心臓に急激な負担がかかるヒートショックが生じないように留意。
ほとんど笑わない
お笑い番組などを観て、週1回以上笑おう
昔から「笑う門には福来る」という。笑いの絶えない家庭には幸福が訪れるという意味だが、笑いは一人ひとりのエイジングにも深く関わる。笑うとストレスが減り、免疫を担うNK細胞が活性化したりするため、どうやら寿命も延びるみたいだ。
裏付けるデータもある。山形大学医学部の研究グループは、40歳以上の約1万7000人の住民を対象に、質問票を用いた調査を実施。
よく笑う(1週間に1度以上)、たまに笑う(月1回以上かつ1週間1回未満)、ほとんど笑わない(月1回未満)の3群に分けて調べたところ、ほとんど笑わない群は、よく笑う・たまに笑う群と比べて、全死亡率が2倍近くも高くなると判明したのだ。
このリサーチでは、笑う頻度が少なかったのは、男性、喫煙者、飲酒者、運動しない人、一人暮らしだったとか。
思い当たる人は1週間に一度でいいから、昼間にカフェで気の置けない友人と馬鹿話をしたり、お笑い番組を観たり、寄席に出かけたりして、笑いの絶えないハッピーな日々を送るように心がけよう。
笑う頻度と死亡リスクの関係
山形県全域を対象とする「山形県コホート研究」からのデータ解析。40歳以上の1万7000人ほどを対象に笑う頻度と死亡率を調べたところ、笑う頻度が少ないほど死亡率が上がるという結果に。
家ですぐ蛍光灯をつける
夕方以降は光源が目に直接入らない照明にする
睡眠不足は老化を進め、寿命を縮める。質の高い眠りを過不足なく取るために味方につけたいのは、メラトニンというホルモン。起床時に朝日を浴びて体内時計をリセットすると、12〜14時間後に分泌されて深い眠りへと誘ってくれる。
メラトニンが分泌されるのは日が落ちてから。メラトニンは光を浴びると分泌がストップするという性質がある。夕方以降、蛍光灯を煌々と照らしたり、スマホを見続けたりするとメラトニン分泌が不十分となり、眠りに悪影響が出てしまう。
そればかりか、メラトニンが機能しないと寿命だって縮みやすい。
「有害な活性酸素による酸化は老化やがんの誘因ですが、メラトニンには活性酸素を無力化する強力な抗酸化作用があります。夜はできるだけ余計な光をカットしましょう」(抗加齢医の本間龍介先生)
夕方以降は、ダウンライトや間接照明などで目に直接光源が入らない工夫を。スマホやタブレットなども長い時間見続けない方が賢明。