西洋医学では治せない痛みにも対応!「ツボ押し」が侮れない理由。
WHO(世界医療機関)も認める医療メソッド・ツボ押し。ストレスによる痛みを和らげる、免疫力アップにつながるなど「西洋医学の手が届かない」部分までカバーしてくれる。そんな底知れぬ「ツボ押しの可能性」についてご紹介しよう。
取材・文/石飛カノ 撮影/幸喜ひかり スタイリスト/佐藤奈津美 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 取材協力/櫻庭 陽(筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター准教授)
初出『Tarzan』No.891・2024年11月7日発売
教えてくれた人
櫻庭陽 (さくらば・ひなた)/筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター准教授。鍼灸臨床では、医師や理学療法士等の医療スタッフと協働して、腰痛等の整形外科疾患のほか、頭痛や顔面神経麻痺等のさまざまな症状に対応。全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会委員として研究や臨床に携わる。
マルチな刺激を受け止める受容器である。
ツボの刺激の最初の受け皿となるのは、皮膚にあるレセプター。このうち「侵害受容器」と呼ばれる痛みを感じるレセプターがツボを押したときのイテテという感覚をもたらす。
で、もっと言うとツボを強く圧迫したときの機械的な刺激を最初に受け取る受容器がAδ神経を経由して脳にその情報を送る。続いて機械的な刺激や炎症などの化学的な刺激、熱による刺激などあらゆる刺激に反応するポリモーダル受容器が発動し、C神経という神経を経由して脳に情報を送る。
前者は突発的な刺激をいち早く脳に伝えて危機回避をサポートするのが主な仕事、後者はじわじわズーンと来る鈍い痛みを中枢に伝える役割を持っている。このうちツボ刺激の情報を脊髄や脳の中枢に伝える役割を果たすのは、後者のポリモーダル受容器と考えられているのだ。
ツボ刺激では最初に機械的刺激に反応する高閾値機械受容器が発動。続いてマルチな刺激に反応するポリモーダル受容器が働いて、ツボ刺激がもたらす情報を中枢に伝える。
西洋医学では治せない第3の痛みに対応する。
ひと口に痛みといってもさまざま。侵害受容器が感じるあらゆる痛み、帯状疱疹などビリビリする神経性の痛み、さらに機能障害や炎症など原因がないのに生じる“第3の痛み”。
これはストレス、不安、絶望感などから何の変調もない部位に痛みを感じ取る、いわゆる慢性痛の代表格。本来、痛み情報が脳に伝わると、脳からのドーパミン経由の指令でセロトニンなどの鎮痛物質が分泌され、痛みが和らぐという仕組み。ストレスや不安でこの働きが鈍った状態が続くと第3の痛みが生じるのだ。
ツボ刺激は脳に働きかけて痛みを和らげるカラダの反応を強化する作用がある。事実セロトニンが分泌され痛みが軽減する効果が期待できる。アメリカでは実際、この原理を利用して耳ツボの刺激で戦場に赴く兵士の疼痛管理をしているという話。これは西洋医学にはできないスゴ技だ。
噂のニューロモデュレーション治療ってなんだ?
「ニューロ」=「神経」、「モデュレーション」=「調節」。脳の神経に微弱な電気や磁気を流して神経の機能を調整する治療法のこと。神経に直接アプローチし、脳の異常な活動をコントロールして症状や障害の改善を図るこの療法は、鍼刺激に限りなく近い。
脳に電極を埋め込む方法や頭蓋骨の外側から電流を流す方法など、選択肢はさまざま。治療対象となるのは薬物では改善が見込めないパーキンソン病やうつ病などの精神疾患。パーキンソン病で歩けなかった患者が通電した直後に歩けるようになった症例もあるという。一部はすでに保険適用。
灸刺激で免疫力がアップする可能性。
お灸の刺激で免疫力がアップするという報告がいくつかある。灸刺激が免疫に関わる白血球そのものを刺激し、活性度を上げるのではないかと考えられている。
たとえば明治国際医療大学の研究によれば、以下のような結果が得られた。毒性の強いヘルペスウイルスをマウスに投与すると脳炎を起こして死んでしまうが、灸刺激をすると一部のマウスは生き残ったという。さらに、マウスの脾臓細胞ではNK(ナチュラルキラー)細胞という白血球の一種の活性度が増していたことが分かった。ツボへの刺激がウイルスの増殖を防ぐ可能性さえあるのだ。
灸刺激によりマウス牌臓細胞(リンパ系の細胞)中のNK細胞活性が増強。灸刺激が自然免疫系を活性化したことによって、ウイルス感染を予防できたと考えられた。
出典/明治国際医療大学