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全体重の約30%を占めている。
ヒトのカラダの約3割はタンパク質で成り立っている。体重70㎏の男性ならば21㎏分はタンパク質。かなりの重量になる理由は、このうちの約65%が重い骨格筋で占められているから。残りの35%は骨、内臓、血液、肌、髪、爪……あなたという人間を形成している細胞や組織の材料として使われる。
そして、重要なのはこれらの細胞や組織はどっしり不動の状態で維持されているのではなく、刻々と分解・再生されていること。
「たとえば小腸の上皮細胞は24時間から数日で再生されます。古くなった細胞はうまく機能しなくなるので、重要な機能を持つ組織ほど代謝回転が早いのです」と言うのは、立命館大学スポーツ健康科学部教授、藤田聡さん。
表は主な臓器や組織の大まかな代謝サイクル。スピードに差はあれ、古くなったものを新しくするために、食事で材料となるタンパク質を摂る必要があるということ。
タンパク質を材料とする組織や臓器の寿命は?
小腸上皮細胞 | 24時間〜数日 |
胃粘膜 | 約3日 |
肌・爪 | 約28日 |
肝臓 | 約60日 |
筋肉 | 60〜200日 |
血液 | 約4か月 |
骨 | 3〜5年 |
毛髪 | 数か月〜6年 |
ホルモンや免疫細胞の材料にもなる。
ツヤツヤの髪、ピカピカの肌、隆々とした筋肉。タンパク質を摂る理由は、これらのような目に見える組織を維持するためだけではない。
たとえば糖質を分解するアミラーゼやタンパク質を分解するプロテアーゼなどの酵素。あるいは外から侵入してきたウイルスや細菌に対抗する白血球や抗体などの免疫細胞や分子。もしくは体温や血圧、血糖値などを一定に保つホルモン。生命を担保するこれらの物質もタンパク質でできている。やはりタンパク質、超大事。
「タンパク質をたくさん摂れば免疫力が上がるという話ではありませんが、減量で摂取量が減ると免疫力が下がります。タンパク質不足が免疫に直接関係している可能性はあると思います」
生命活動を維持する物質もタンパク質からできている。
- 糖質やあの代謝に関わる酵素
- 免疫システムを支える免疫細胞
- ホルモンや免疫細胞の材料にもなる。
不足すると太る原因になる。
お肉は太るから食べません、とサラダをつつく女性がいまだにいる。何度でも訂正しよう。脂身が少ない肉ならば、積極的に食べることで逆に太りにくいカラダになれる。
「朝食でタンパク質をしっかり摂るグループと摂らないグループを比較すると、前者の方が間食が減り、1日の摂取エネルギーが減ったという報告があります。また、タンパク質を食べることで小腸からコレシストキニンという消化管ホルモンが分泌され、食欲が抑制されることも分かっています」
タンパク質が乏しい加工食品では満腹感を得られず肥満に陥る報告も。食べよう、タンパク質。
その材料は20種類のアミノ酸。
肉や魚などのタンパク質食材をむしゃむしゃ食べた後、食材は胃から小腸に送られて細かく分解された形で吸収される。その分解物の最小単位がアミノ酸だ。
筋肉、内臓、肌、髪、免疫細胞にホルモン、カラダの各部位で機能するタンパク質の種類は約10万種類。これだけのタンパク質は50個から数十万個のアミノ酸の組み合わせでできている。で、これらを構成するのが20種類のアミノ酸。
どのアミノ酸がどれくらい含まれているかは食材によって異なり、これらがいったんバラバラにされて吸収され再びタンパク質として構成されるのだ。よくできている。
肉ばかりでなく豆にも注目。
タンパク質食材としてパッと思いつくのはチキンにポークにビーフにフィッシュ。これらは動物性タンパク質食材でアミノ酸バランスも優秀。ヒトが自力で作れないアミノ酸を必須アミノ酸と言うが、これらも効率よく摂れる。でも、忘れちゃならないのが大豆など植物性のタンパク質食材。
「最近では大豆製品も動物性と同様にアミノ酸バランスがいいことが分かっています。動物性の食材に偏ると脂質の摂取量が多くなり、カロリーオーバーになりやすいというデメリットがあるので、基本的には動物性と植物性、1対1くらいの比率で摂りたいですね」
動物性と植物性タンパク質のメリットとデメリット
動物性タンパク質 (肉、魚、卵、乳製品など) |
植物性タンパク質 (大豆製品、きのこ、小麦粉など) |
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長所 | ・必須アミノ酸が豊富 ・体内吸収率が95%以上 |
・脂質が少ない ・食物繊維が豊富 |
短所 | カロリーオーバーしやすい | 体内吸収率が80%台 |
筋肉は1日に1.8%が生まれ変わる。
肉がすっかり新しく入れ替わるまでには2〜3か月かかるが、実は1日につき1.8%ずつ地味に再生されている。筋肉は日々、合成と分解を繰り返すなかで、ランダムに1.8%ずつ新しいパーツに変換されているのだ。
合成と分解のイメージは図の通り。食事をすると筋肉の合成が始まり、空腹を感じると筋肉は分解される。空腹時は血糖値が下がった状態。ある意味、生命の危機なのでカラダは筋肉を分解してエネルギーを得ようとするのだ。
つまり、1回食事を抜けば筋肉は分解され続けることになり、食事でのタンパク質摂取が足りなければ材料不足で筋肉の合成が妨げられる。筋肉の適正量の維持。1日3回タンパク質リッチな食事を摂る理由がここにある。
食事でタンパク質を十分に摂ると、アミノ酸が筋肉に運ばれて筋肉の合成が起こる。血糖値が下がった空腹時には筋肉が分解されてエネルギーに変換される。1日3食きっちり食べた状態で筋肉は1日1.8%ずつリニューアルされる。
『眠れなくなるほど面白い 図解 たんぱく質の話』(日本文芸社)より
筋タンパクを1㎏作るには1食分のエネルギーが必要。
じっとしているだけで消費されるエネルギー、基礎代謝のうち約22%は骨格筋が賄っている。
「筋肉を合成するときにはエネルギー消費が起こります。筋肉を1㎏合成するためには541キロカロリーのエネルギーが必要。この合成で使われるエネルギーが基礎代謝に反映されます」
筋肉が20㎏ある場合、1日1.8%リサイクルされるとすると0.36㎏×541キロカロリー=194キロカロリー。1日につきこれだけのエネルギー消費が見込める。つまり、筋肉の量が多い人ほど1日の筋肉合成量が多く、結果的に基礎代謝アップが見込める。
タンパク質って筋トレしている人にだけ必要なんでしょ?という大いなる誤解は解けたことと思う。
2週間歩数を減らすだけで筋肉激減。
そんなにドラスティックに筋肉で合成と分解が繰り返されているということに、人は普通気づかない。でもタンパク質が不足すれば合成は阻まれ、不活動な生活でも同じことが起こる。
「ある研究によると、1日6000歩歩いていた人が意図的に1500歩歩数を減らしてみたところ、2週間後に脚の筋肉が約4%減ったという報告があります」
道具と同様、使っていないということは機能していないということ。放置されたハサミが錆びつくように、使っていない筋肉には刺激が入らず新たな合成が起きない。分解が合成を上回り、筋肉は減り代謝は落ちる。えらいことです。
4%というのは筋力トレーニングを3か月続けて増える脚の筋肉量と同等の数値。と考えると、合成するのは大変だが分解するのはいとも簡単。必要十分なタンパク質を摂り、適度に動かなければ筋肉は維持できないのだ。
加齢と不活動で筋肉作りは下手になる。
たった2週間、歩数を減らしただけで筋肉が減るという衝撃の事実。酷いようだがさらにもうひとつ、悪いニュースがある。それは加齢や不活動によって、十分なタンパク質を摂っても筋肉が合成されにくくなるということ。これをタンパク質の“同化抵抗性”という。
「原因は血管を拡張させてアミノ酸を筋肉に運ぶインスリンの働きが悪くなることや、筋合成のスイッチを入れるアミノ酸、ロイシンに対する感受性が鈍くなることなどです」
実際、若い頃には適量のタンパク質で十分な筋合成が起こるが、高齢者はさらに多くのタンパク質を摂らないと同レベルの筋合成が起こらない。歳をとるほどにより多くのタンパク質が必要なのだ。
ただ、若くても不活動で同様のことが起こるとしたら、活動量を維持すれば同化抵抗性のスピードを緩めることは十分可能。40代以降はしっかりタンパク質を食べて、しっかり動くことを意識したい。
青いラインは若年者、黄色いラインは高齢者。若者グループは体重1㎏当たり0.24gのタンパク質摂取で筋肉の合成速度のピークに達したが、高齢者グループは体重1㎏当たり0.4gのタンパク質摂取が必要だった。
材料不足と筋肉量減で生活習慣病のリスクが増す。
タンパク質不足と不活動、それに加齢が伴って筋肉が確実に減っていく。その行き着く先に待っているのが生活習慣病。
「代謝が落ちた状態で高脂肪食などを摂ると、筋肉内に脂肪が溜まります。するとインスリン抵抗性が高まることが分かっています」
インスリンの効きが悪くなれば血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まる。インスリンは筋合成にも関わっているのでますます筋肉が減るという悪循環に。
「食事調査を行うと中年以降の男性は、タンパク質摂取のつもりで鶏の唐揚げを食べるという人が結構多い。高タンパク質でも油が多い食事はやはり肥満や生活習慣病に繫がるので要注意です」
食材だけでなく調理法にも注目して必要なタンパク質を摂るべし。