健康な肺づくりは良質なアブラ摂取から。呼吸器を改善する生活習慣5選。

肺をいたわるためには、毎日当たり前に繰り返す“呼吸”の仕方や、生活環境がカギを握っていた。今回は肺が喜ぶポジティブな呼吸習慣を5つ紹介。日々少しずつ意識を向けることで、肺との末長いお付き合いを目指そう。

取材・文/井上健二 撮影/園山友基、小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾、村田真弓 取材協力・監修/奥仲哲弥(前国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授)、宮崎雅樹(みやざきRCクリニック理事長) 撮影協力/UTUWA

初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売

1.室内の温度と湿度をコントロールする。

胃腸の調子が何を食べるかに左右されるとしたら、肺のコンディションは何を吸い込むかで決まる。

肺は外界とシームレスにつながっているから、外気(空気)の影響を受けやすい。ことに気をつけたいのは温度と湿度だ。

口呼吸をしていると、外気の影響をモロに食らう。鼻呼吸なら、鼻という天然のラジエーターで温度&湿度を調整できるとはいえ、吸い込む空気がカラダに優しい方が肺のストレスは少ない。

屋外では温度と湿度はコントロールできないけれど、せめて室内では肺のために快適な温度と湿度にキープしておくべき。

「肺にもっとも優しいのは、温度は25度ほど、湿度は50%前後とされています」(宮崎医師)

温度ばかりに目が向きがちだが、湿度も疎かにしてはダメ。湿度40%未満だと乾燥が進んで気管支に良くないし、湿度60%以上だと肺に各種の感染症をもたらすカビが繁殖しやすくなる。だから湿度50%くらいが肺にはベストなのである。

エアコンは温度が調節できても、湿度まで制御できるものは少ない。湿気が多い夏場は除湿器、乾燥しやすい冬場は加湿器も併用しながら、肺に心地よい空気を保とう。

2.誤嚥を防ぐエクササイズに挑戦。

食べる、飲み込む、話すといった口の働きが衰えるオーラルフレイルがあると、食べカスが誤って気道に入り、誤嚥性肺炎を起こしやすい。

「それを防ぐのが、舌を鍛えるベロトレ。舌自体も筋肉で、舌を動かす筋肉とともに強化すると誤嚥予防効果が期待できます」(宮崎医師)

加えてやりたいのは唾液腺トレ。ファストフードなどを食べる機会が増えると咀嚼回数が減り、唾液の分泌量も減る。唾液が足りないと前述のように口腔内の歯周病菌が増殖。誤嚥すると肺炎が生じやすい。よく嚙むクセをつけ、マッサージで唾液分泌を促そう。

肺

ターゲットは唾液の約9割を分泌する耳下腺、顎下腺、舌下腺の3大唾液腺だ。

ベロトレ

肺

口を大きく開け、舌を長く伸ばし、できるだけ下へ伸ばす。

肺

舌を長く伸ばしたまま、できるだけ右側へ伸ばす。

肺 誤嚥 防止

舌を長く伸ばしたまま、できるだけ左側へ伸ばす。

肺 誤嚥 防止

舌を鼻の下につけるように、できるだけ上へ伸ばす。以上を10回。

唾液腺トレ

舌下腺のマッサージ(5回×1〜2セット)

肺

顎の中心に、両手の親指を揃えて下から押し当てる。下から突き上げるように5回ほどマッサージする。喉仏を誤って突かないこと。

顎下腺のマッサージ(各5回×1〜2セット)

肺

両手の親指を、顎の骨の下の柔らかい部分に下から当て、押し揉む。耳の下から顎の下までを5か所くらいに分けてマッサージする。

耳下腺のマッサージ(10回×1〜2セット)

肺

両手の親指以外の4指を左右の頰(上の奥歯のあたり)に添える。後ろから前へ、円を描くように丁寧にマッサージしていく。

3.良質なアブラを摂取する。

喫煙などで呼吸しづらくなるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)になると、食欲が落ち、お茶漬けやそうめんのようなアッサリ系の食事を好むようになる。でも、こうした食事を続けるのは、弱った肺にムチ打つようなもの。糖質メインであり、脂質やタンパク質が少なすぎるからだ。

「糖質に偏りすぎる食事だと消費する酸素( O₂)の量が増え、二酸化炭素(C O₂)の排出量も増えるため、肺に余計な負荷がかかります」(呼吸器専門医の宮崎雅樹医師)

体内でエネルギーを作り出す際にO₂を消費し、代わりにC O₂を排出する。単位時間当たりのC O₂排出量を、 O₂消費量で割った数字を「呼吸商」と呼ぶ。呼吸商が低いほど、 O₂とC O₂のガス交換を担う肺の仕事量は少なくてラクになる。

糖質のみを燃焼すると O₂消費量とC O₂発生量は同じ。呼吸商は1.0だが、脂質のみだと呼吸商は約0.7、タンパク質のみだと約0.8でC O₂排出量が少なくて済む。

糖質メインの食事だと呼吸商は1.0に近づくため、肺の負担が増える。糖質をセーブし、良質の脂質、肉や魚や大豆製品などからタンパク質をしっかり補ってやろう。

肺

体内でエネルギーとなる3大栄養素では、元素の構成が異なるため、呼吸時の酸素の消費量と二酸化炭素の排出量が異なる。

4.舌を上顎につけるクセをつける。

肺

本来息は鼻でするもの。鼻は呼吸器だが、口は食べ物を食べる消化器。哺乳類は例外なく鼻呼吸だが(犬が口を大きく開け、舌を出して呼吸する“パンティング”は体温を下げるための行動)、言葉を操るヒトのみが口でも呼吸できる。

鼻の穴より口は大きく、一度にたくさん息ができるため、マスクを着けて呼吸が制限されたり、仕事などに集中しすぎたりすると、ついつい口呼吸がメインになりがち。

だが、口呼吸には弊害がある。空気と一緒にカビなどの細菌やウイルスを吸い込み、肺に感染症が生じる可能性もあるのだ。

「鼻呼吸だと鼻毛や副鼻腔で細菌やウイルスなどの外敵をトラップし、鼻をかんで排出できます。口呼吸ではフィルターを通さずに空気がダイレクトに入るため、無防備な肺には危険な状況。口呼吸だと口が乾いて唾液が減り、歯周病菌も増殖。唾液とともに誤って肺に入ると、誤嚥性肺炎の恐れが高まります」(呼吸器外科専門医の奥仲哲弥医師)

口呼吸を避けるには、舌を上顎につけておくことが有効。そもそも舌の定位置は、そこなのだ。舌の縁をチェックしてみて、ギザギザした下顎の歯列の跡がついていたら、舌が落ちて口呼吸が習慣になっているかも。舌を定位置に据えよう。

5.ストレッチ気分で1分間に10回呼吸する。

四六時中ストレスにさらされていると、緊張して横隔膜を使わない浅く速いハァハァ呼吸をしがち。それは肺に余分な仕事をさせるうえに、呼吸の効率も落ちる。

酸素と二酸化炭素のガス交換を行っているのは、肺を満たす肺胞。

肺に空気を送る通り道に肺胞は存在しないため、吸った空気のうち肺胞まで入らないものはガス交換に関わることができない。これは「死腔量」と呼ばれており、1回当たり約150mLにもなる。

呼吸回数が増えるほど死腔量も増えてしまうため、ハァハァ呼吸では盛んに呼吸しているわりには、酸素と二酸化炭素のガス交換は低調に留まる。

「6〜7秒かけて口から息をすっかり吐き切り、その後空っぽの肺へ自然にスッと鼻から息が入るのが理想。1分間に10回以下の深い呼吸だと死腔量が最小限に抑えられるため、肺の負担なく能率的に呼吸が続けられます」(奥仲医師)

参考になるのは、静的ストレッチをするときの呼吸。ストレッチ時は誰でも静かに深く息を吐きながら筋肉を伸ばすはず。そのイメージで日頃からゆったりしたスローな呼吸を意識していると、肺へのプレッシャーも少なく呼吸効率がアップする。

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