肺炎に気管支喘息、肺結核。覚えておきたい肺の病気7選。
人間の活動の根幹を支える肺。気になる不具合があればすぐにでも解決したい。ここでは肺を巡る7の代表的な病気をピックアップ。正しい知識と理解で備えよう。
取材・文/鈴木一朗 イラストレーション/泰間敬視 監修/松本都恵子(松本内科院長) 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売
目次
煙草が元凶のCOPD・慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせい はいしっかん)。
COPDでは気管支や肺胞が炎症を起こし、気道が狭くなったり、肺胞が破壊されたりする。症状にはまず息切れがある。階段を上るときに息が切れるのは初期段階で、平地でも辛くなる。そして、運動量が減って筋肉が衰え、骨粗鬆症などに陥ることもある。
「COPDは肺機能検査で知ることができます。肺活量を測ったりウォーキングマシンで歩行したりで、肺の状態を調べる。レントゲンやCT検査で行うこともあります」(松本先生)
治療としては気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を使用する。が、呼吸不全が進行した場合は酸素濃縮器とマスクを使って酸素を送り込む、在宅酸素療法が用いられる。
怖いのは後戻りできないこと。一度破壊された肺胞は再生しない。つまり、人工呼吸器をつけたら、ずっとそれを続けなくてはならないのだ。COPDの大きな原因は喫煙。喫煙者の15~20%が罹患する。
「禁煙は必須。そのうえで歌う、大声で笑うのも正解。肺を積極的に使いましょう」(松本先生)
現状で留めて進行させない。煙草と人生、どちらが大事?
風邪や誤嚥が原因の肺炎(はいえん)。
肺炎には2種類ある。一つがウイルス性で、風邪やインフルエンザやコロナなどに罹患して起きる。もう一つが細菌性で、高齢者は唾液や食物がいわゆる誤嚥によって流れ込み、細菌が繁殖する。また、アレルギー体質の人は気管支が弱いので肺炎になりやすい。
「ウイルス性、細菌性ともに同じような症状が出ます。代表的なものは胸の痛み、痰、咳、息切れなどの呼吸器の症状があり、発熱や食欲低下など全身症状も表れます」(松本先生)
昔は風邪をこじらせて肺炎になって命を落とすことも多かったが、今は軽度なら抗生物質で治る。重篤な場合は入院して、点滴治療が一般的だ。しかし、侮ってはいけない。疾患別の死因順位は男性が4位、女性が5位なのである。
レントゲンでの定点観測が重要な肺がん(はいがん)。
がんの死亡率で男性トップなのが肺がんである。特に60歳以上の男性に多い。煙草の副流煙で罹患するので、喫煙する人は(やめるのがいいが)、マナーを守るのが大切。
この疾患は気管支や肺胞などががん化する。全身を巡った血液は心臓へと戻され、そこから肺を通って再度全身へと送られていく。つまり、肺にがんがあるということは、血液を通じて全身へ転移する可能性がある。これは怖い。
そこで、検診が大事になってくる。一番いいのはCTスキャンによる検査だ。肺をスライスするように撮影するので、腫瘍があればはっきりわかる。ただし、かかりつけの病院にCTがない場合もあるし、検査も多少高額になる。
「レントゲン検査という方法もあります。かかりつけの病院で、毎年同じ環境で撮影を行う。定点観測といったところですね。肺がんはレントゲンでは白っぽく写って、一目ではわかりにくいが、定点観測することで、白い部分が去年より増したなど、より詳しい情報が得られるんですよ」(松本先生)
転移する前の早期発見が肝。
血栓が肺に押し出されて起きる肺血栓塞栓症(はいけっせん そくせんしょう)。
肺血栓塞栓症は、いわゆるエコノミークラス症候群のこと。飛行機のエコノミークラスのような狭い座席で長時間座っていると発症しやすく、この名称で呼ばれる。長時間動かないと起こりやすい疾患。最近では震災の避難先で、じっとしていることが発症に繫がると問題にもなっている。
「長時間、同じ姿勢でいると、とくに脚の血液循環が悪くなります。血栓ができやすくなり、次に動き出したとき血流によって血栓が運ばれ、肺の血管を詰まらせるのです」(松本先生)
下肢でできた血栓が血管を巡り肺に届く。
長時間、同じ姿勢でいると、血栓が発生しやすい。これが肺へと届くと、肺血栓塞栓症になり、呼吸困難などの症状が起きてしまう。
呼吸困難、胸の痛み、意識障害まで起きて最悪は死に至る。治療では血栓を溶かす薬を使うが、薬がなければアウト。予防として下肢を動かそう。有効なのは1時間に一度の貧乏ゆすり。脚の血流が滞らなければ、血栓はできにくい。今や貧乏ゆすりは“健康ゆすり”と呼ばれるようになっている。立派な運動なのだ。
アレルギー反応が原因の気管支喘息(きかんしぜんそく)。
気管支は口から肺へと空気を送り込む器官。ここに炎症が起きて喘息になる。代表的な症状は咳や痰、呼吸困難などだ。ひとつ大きな原因としてアレルギー反応がある。
アレルギー物質はさまざま。ハウスダスト、ペット、アルコール、喫煙、大気汚染など、無数にある。また、アレルギー以外にもストレスや外的環境(寒暖の差など)の変化で発症することも。子供のほうが罹患しやすいといわれるが、高齢者がかかると命取りになってしまう場合もある。
ただ、気管支喘息はわりとコントロールしやすい疾患なのだ。治療ではステロイド吸入や飲み薬の使用が一般的だが、原因によっては他の方法も用いられることがある。
「以前から気管支喘息には水泳がいいといわれました。確証はないけれど心肺機能を鍛えられるし、プールは湿度が高く気管支が乾燥しにくい環境。好材料は揃っています」(松本先生)
水泳の選手では喘息がきっかけで始めて、トップアスリートになったケースも。子供の気管支喘息で悩んでいるなら、水泳教室もひとつの手。
子供なら水泳教室も一つの手!?
ストレスが原因の場合もあるコロナの後遺症(ころなのこういしょう)。
また再流行の兆しを見せている新型コロナウイルス。発症してからの3日間がウイルスの増加期間であり、5日あたりまではもっとも強い症状が出る。発熱、倦怠感、咳などがそれで、とくに咳は感染3か月後まで残ったり、ごく少数の例だが、なんと1年後でも悩まされている人もいる。
「これだけ長期にわたると、この咳はコロナだけのせいとは考えにくいです。なぜなら、体内のウイルスは完全に排除されてしまっていますから」(松本先生)
ストレスが関係している可能性がある。心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)と呼ぶが、コロナで咳が半ばクセのようになり、日常のストレスと相まって続いているのかもしれない。ずっと長引いているなら、医者に相談しつつ、周囲にも理解を求めよう。
空気感染で広がる肺結核(はいけっかく)。
結核は結核菌の感染によって発症する疾患。症状は咳、痰、発熱、倦怠感、食欲不振などで、進行すると血痰や喀血、胸部の痛みなどが起きる。空気感染で感染力は強く、たとえば家族の1人がかかったら、まず全員が感染する。
また、感染しても症状が出ない人もいて、そこから広がっていくこともある。人混みや多くの人と接触するときは、マスクを着けて予防したい。
「結核の検査はまずレントゲン。それで結核の疑いが出たら、培養検査を行って菌の有無を調べます。昔は、死病と恐れられましたが、今は薬で治すことができる。ただ、高齢者は重篤になることも。まわりが注意したいですね」(松本先生)
そして最近、女性に増えているのが非結核性抗酸菌症。結核菌は抗酸菌の一種なのだが、結核菌以外の抗酸菌によって起きる疾患だ。こちらはほとんど人には感染しない。
「症状は結核と同じですが、困ったことに長引くことがあるし、確実な治療法も今はない。抗菌薬などで症状を抑えていきますが、重篤な場合は手術を行う場合もあります」(松本先生)