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あなたの肺は平気?突然の不調に備え知っておくべきこと。

肺 病気

あなたの胸に隣り合わせて収まるのが、心臓と肺。その働きは生きるうえで必要不可欠であり、両者が活動を終える「心肺停止」は、高い確率で死を意味する。大切な生命維持装置である心臓と肺を深く知り、養生術を学ぶことこそ健康寿命を延ばす最善手だ。幸いなことに心臓も肺も、不調を知らせるサインをちゃんと出している。血圧や血糖値がちょっと高い、息が切れる、咳が止まらないといった症状は心臓、肺からのSOSかも。心臓と肺を守るヒントは、日々の小さな生活習慣にある。専門家に学び、心臓と肺の異変を捉え、正しく対処する知恵を身につけよう。今回は「肺」にまつわる知識を紹介する。

教えてくれた人

奥仲哲弥(おくなか・てつや)/呼吸器外科専門医。前国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授、医学博士。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医・指導医。メディアでも専門的な知識をわかりやすく丁寧に解説。

宮崎雅樹(みやざき・まさき)/呼吸器専門医。みやざきRCクリニック理事長、医学博士。済生会宇都宮病院、慶應義塾大学病院呼吸器内科助教などを経て独立開業。日本呼吸器学会呼吸器専門医。新型コロナ流行時には正しい情報発信に努めた。

喘息患者は1000万人!

心臓でパンデミックを起こしているのが心不全なら、肺でもパンデミックは生じている。それが喘息だ。

「喘息患者は全国に1000万人いるといわれており、男女ともに徐々に増えているのが現状です」(宮崎雅樹医師)

喘息にはさまざまなタイプがあるが、簡単に言うと肺へ空気を送る気管支に慢性的な炎症が生じている状態。ハウスダストなどを誘因(アレルゲン)とするアレルギー疾患の一種だが、これといったアレルゲンがないのに喘息になる人も多い。

「風邪をひいた後、発熱などの症状が治まったにもかかわらず、咳だけが3週間以上続くとしたら、かなりの確率で喘息が疑われます。喘息と診断されたら、ステロイド系の吸入薬を用いた治療が求められます」(宮崎医師)

咳が止まらないのに軽視して放ったらかしにしてはダメ。気管支が炎症を起こして回復し、また炎症が生じるというプロセスを繰り返すと、気管支の内側が分厚くなる「リモデリング」が起こる。

すると気管支が狭くなり、呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューといった音が鳴る「喘鳴」などが出現。呼吸困難に陥ることもある。そうなる前に手を打とう。

肺はもっとも疾患が多い臓器である。

コロナによる肺炎でようやくスポットライトが当たったけれど、健康なうちは肺の心配をしていたわる人はめったにいないだろう。

でも、肺は意外に病気のデパートのような臓器でもある。

「あらゆる臓器のなかで、疾患がもっとも多いのはおそらく肺。医師の国家試験の際も、肺関連は覚えるべき病名がいちばん多いのです」(奥仲哲弥医師)

肺の病気は、なぜそんなにも多いのか。理由は、肺が外界とダイレクトにつながっている、ほとんど唯一の臓器だからにほかならない。

吸い込んだ空気に含まれる細菌やカビ、タバコの煙などの有害物は、肺にダメージを与えて疾患を起こしやすい。

鼻や口から肺に至るまでの咽頭、喉頭、気管といったルート上に生じるものまで含めると、全身の臓器で肺を中軸とする呼吸器こそがどこよりも病気になりやすく、ゆえに丁寧なケアが求められるのだ。

「肺以外に、外界と直接つながっているのは食道と膀胱くらいのもの。でも、食道も膀胱も、扉はつねにオープンではありません。呼吸を通じて四六時中外界とやり取りしているただ一つの臓器が、肺なのです」(奥仲医師)

レントゲンでは肺の7割しか写らない。ミカン大でもがんに気づかない。

肺の病気で怖いのは肺がん。部位別に見たがんの死亡率では、男性で1位、女性でも2位を占めており、男女合わせて年間7万5000人以上が亡くなっている。

かつては、タバコや大気汚染といった避けられる要因による肺がんリスクが問題視されていたが、現在はこうしたリスクが減ってきたのに、肺がんに罹る人は増えている。

そう聞くと「よし、次回も健康診断で肺レントゲンを必ず撮ろう!」と誓いたくなるが、肺レントゲンには思わぬ落とし穴がある。肺全域でがんの疑いを隈なくチェックできるわけではないのだ。

「レントゲンに写るのは、肺全体の70%程度。心臓や肝臓の後ろ側にも肺は広がっていますから、正面から撮影してもその部分は陰になり、がんの有無はわかりにくい。肺を包む胸膜に達しない限り、がんが生じても痛くも痒くもありませんから、なかにはがんがミカン大に成長するまで気づかず、治療が遅れるケースもあります」(奥仲医師)

喫煙者、家族に肺がんの人がいるといったハイリスク者は、断層写真で肺全体をチェックできる胸部CT検査を受けてみるといいだろう。

風邪から肺炎になる若者も増えている。

日本人の死因の6位は誤嚥性肺炎。食道に入るべき食べ物や唾液などが誤って気管に入り、肺まで流れ込み、炎症が起こる。

誤嚥性肺炎は、基本的に高齢者の病気。食べ物を飲み込む嚥下機能の低下などで生じる。高齢化が進み、2030年には誤嚥性肺炎の死者数が13万人になる予測もある。

死因5位は通常の肺炎。これも高齢者に多いが、30〜40代でも何かの拍子に肺炎を起こすことがある。

「高齢者では肺炎球菌などの細菌が引き金となりますが、若い世代でも侮れません。普通なら風邪か気管支炎で済むはずなのに、肺炎まで起こすことがあるのです。病状がさらに進み、痛みを伴う胸膜炎に至るケースもあります」(奥仲医師)

若い世代の肺炎の背景には2つの要因が考えられる。

「一つは抗生物質の使いすぎ。それにより抗生物質に強い菌が生まれ、広がっているのです。もう一つは、免疫力の低下。環境が清潔すぎて免疫の出番が減ると、運動不足で筋力が落ちるように、免疫力も下がります。それにより何気ない感染にすら対処できなくなり、肺炎が起こるのでしょう」(奥仲医師)

誤嚥性肺炎による死者数の推移と年次予測

肺 病気 グラフ

東京都健康安全研究センターで開発している「疾病動向予測システム」を用い、誤嚥性肺炎によるこれまでの死者数とこの先の死者数を予測したもの。2030年には男女合計で13万人が亡くなる予測が出ている。

出典/「人口動態統計からみた日本における肺炎による死亡について」(池田一夫、石川貴敏 東京健安研セ年報、69, 2018)

取材・文/井上健二 取材協力・監修/奥仲哲弥(前国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授)、宮崎雅樹(みやざきRCクリニック理事長)

初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売

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