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我々が毎日当たり前のように呼吸できているのは、肺が正常に働いてくれているおかげ。心臓に負けず劣らずエネルギッシュに活動する肺について、驚きの機能と特徴を紹介しよう。
奥仲哲弥(おくなか・てつや)/呼吸器外科専門医。前国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授、医学博士。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医・指導医。メディアでも専門的な知識をわかりやすく丁寧に解説。
呼吸が止まると死んでしまうから、呼吸を司る肺は心臓と並ぶ生命維持装置。左右1対で予備力は高い。
画像左/真下に心臓があるため、左肺の方がやや小さく、右肺が全体の約55%、左肺が約45%を占めている。右肺は上から上葉、中葉、下葉の3パーツに分かれているのに対し、左肺には上葉と下葉の2パーツしかないのだ。
画像右/肺胞は直径0.1〜0.2mmのブドウ状の小さな袋。左右の肺に約3億個の肺胞があり、すべて広げるとテニスコート半分ほどの面積に。肺胞と毛細血管の壁は極めて薄いため、酸素も二酸化炭素も自由に行き来できる。
「肺がんなどでは、肺の10〜25%を切除する場合があります。いちばん大きな手術になると、左肺を全部取ることもある。肺全体の約45%が失われるのですが、それでも数か月ほどで元の生活に戻れるケースが大半。軽いランニング程度の運動なら問題なくこなせるのです」(奥仲哲弥医師)
むろん余力があるから多少乱暴に扱っても平気という話ではない。末長く人生を楽しむためにも、肺という生命維持装置のメンテは入念に。
肺は「肺胞」という細胞の集まり。心臓のように自ら伸縮できない。そこで活躍するのが、肺を収める胸郭の周りにある筋肉。呼吸筋だ。
呼吸筋のツートップは、横隔膜と肋間筋(外肋間筋と内肋間筋)。
息を吸うときは、呼吸筋で胸郭が広がって内圧が下がり、外気から自然に空気が入る。息を吐くときは呼吸筋によって胸郭が狭くなり、内圧が上がって空気は出ていく。
呼吸運動の中枢は脳の延髄にあり、横隔膜周辺には多くの自律神経が集まる。交感神経と副交感神経からなる自律神経は、生きるための内臓の働きを無意識に調整する。
でも、心臓の拍動や消化吸収と異なり、呼吸は意識的にも行える。
「意識して横隔膜を使い、深呼吸を行うと、周りの自律神経に作用できる。ストレス下の現代人は交感神経が優位になり、呼吸が浅く速くなりやすい。息を深く吐くと、緊張を緩める副交感神経が優位になります。深呼吸で気分が落ち着く理由です」
呼吸回数は通常1分間に12〜20回。1回に取り込める空気は500mLペットボトル1本分だ。1分間に15回呼吸すると、1日でボトル2万本以上の空気を吸うことになる。
取り入れた空気は気管支で左右の肺に入り、肺胞を満たす。肺胞の表面は毛細血管で覆われており、心臓から送られた血液が流れている。
心臓から来た血液は組織を回った静脈血。酸素(O₂)濃度は低く、二酸化炭素(CO₂)濃度が高い。一方、肺胞を満たす空気はそれよりO₂濃度が高く、CO₂濃度は低い。気体は濃度の高い方から低い方へ「拡散」するため、肺胞から毛細血管へO₂が流れ、毛細血管から肺胞へCO₂が流れるガス交換が進む。
肋骨、胸骨、胸椎が作る鳥籠状のフレームが胸郭。その底をドーム状に支えるのが横隔膜、肋骨の間にあるのが肋間筋。横隔膜が収縮して下がり、肋間筋が縮むと胸郭が広がる。横隔膜が緩んで上がり、肋間筋が弛緩して胸郭が狭まる。
血中で酸素を運ぶのは赤血球のヘモグロビン。浅くて速い呼吸だと、へモグロビンから細胞への酸素の受け渡しが滞る恐れがある。鍵を握るのは二酸化炭素(CO₂)。
ヘモグロビンは、血中のpHが酸性に傾くほど、酸素を切り離しやすい。CO₂濃度が低いとpHは逆にアルカリ性に傾きやすく(呼吸性アルカローシス)、ヘモグロビンは酸素を切り離しにくい。血液は酸素たっぷりでも、大半が素通りして肝心の細胞に供給されないのだ。
空気中のCO₂濃度は約0.04%だが、吐く息のCO₂濃度は5%前後。1回の呼吸で入る100倍以上のCO₂を吐くため、浅く速い呼吸で息を吐きすぎると呼吸性アルカローシスに陥り、酸素不足でめまいなどが起こる。これが不安や緊張で息を吐きすぎる「過換気症候群」。
「つねに緊張して浅く速い呼吸をする現代人は“プチ過換気症候群”。呼吸筋をフルに使って深く呼吸し、しっかり息を吐いて吸いましょう」
取材・文/井上健二 イラストレーション/川本まる 取材協力・監修/奥仲哲弥(前国際医療福祉大学医学部呼吸器外科教授)
初出『Tarzan』No.886・2024年8月22日発売