実は石器時代から押さえられていた!意外と知らない”ツボ”のこと。

今もなお医療現場で活用されている経穴=ツボはリアルな医療メソッド。その実力はWHO(世界医療機関)も認めている。しかし「ツボ」とは一体何者なのだろうか?なぜツボを押すとカラダに効くのか。ツボのメカニズムから歴史までを紹介。

取材・文/石飛カノ 撮影/幸喜ひかり スタイリスト/佐藤奈津美 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 取材協力/櫻庭 陽(筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター准教授)

初出『Tarzan』No.891・2024年11月7日発売

教えてくれた人

櫻庭陽 (さくらば・ひなた)/筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター准教授。鍼灸臨床では、医師や理学療法士等の医療スタッフと協働して、腰痛等の整形外科疾患のほか、頭痛や顔面神経麻痺等のさまざまな症状に対応。全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会委員として研究や臨床に携わる。

ツボとはエネルギーライン上の気の出入り口である。

ツボ 正穴

脾・肺・肝・大腸・胃・心包・胆・三焦・膀胱・心・腎・小腸の12の経絡にカラダの前と後ろの正中線を走る任脈と督脈。計14本の経絡上にあるのが、“正穴”と呼ばれる正統派のツボ。

「ツボを押さえた」とか「ツボを心得ている」とか、要点を摑んでいる様を表す「ツボ」という言葉は鍼灸治療で使われる「ツボ」のこと。

実際に的確なツボを的確に刺激すればカラダの不調の改善が図れる。その理由は以下の通り。東洋医学ではカラダに「気」や「血」といったエネルギーが巡っていると考えられている。その通り道が、全身に14本ある“経絡”というエネルギーライン。肝、心、脾、肺、腎といった臓器に関わる経絡12本に加え、カラダの中心線にある“督脈”と“任脈”を合わせて計14本。この経絡上にほとんどのツボ=経穴が存在している。

経絡は互いに繫がっていて、「気」や「血」の巡りの不具合が臓器やメンタルの不調、不定愁訴の原因となる。ゆえに対策はエネルギーの出入り口、ツボを刺激し巡りを整えること。古来中国の偉大なる知恵だ。

反応、診断、治療の3つが同時に行える。

ある朝目覚めたら熱っぽく喉が痛かったとしよう。近所の病院に行き、体温計を渡されて熱を測ったらやっぱり微熱。解熱剤とうがい薬を処方されて帰途につく。カラダがウイルスや細菌に「反応」し、病院で風邪症候群と「診断」され、薬の処方という形の「治療」を受ける。西洋医学ではそれぞれのフェーズが時系列上で展開する。

一方、東洋医学によるツボを活用すると次のようになる。ある朝目覚めたら熱っぽく喉が痛かった。風邪の初期症状に対応するツボを指で押してみた。そこで圧痛を感じるという「反応」が見られ、痛いということはやはり風邪なのだという「診断」がつき、刺激によって風邪の初期症状の改善が見られるという「治療」が成立する。つまり、ツボとは「反応点」であり「診断点」であり「治療点」、一石三鳥の要点なのだ。

実は石器時代から行われていた。

90年代初頭にアルプス山脈の氷河で発見された男性のミイラ、通称「アイスマン」。彼が生きていたのは5300年前の石器時代で、肉体はもちろん、当時の着衣や道具類がかなりいい状態で保存されていたことから世界中の注目を浴びた。

で、このアイスマンのカラダにはいくつか刺青が施されていて、半分以上が現在知られているツボと重なることが判明。しかも彼自身が腰を痛めていて、その症状に関連するツボ=刺青という話。ん?ってことはツボの発祥は古代中国より遥か昔の石器時代にまで遡る?

真偽は不明。でも、私たちがカラダのどこかに痛みや疲れを感じたとき、無意識に手を当てる場所がツボとかぶっていることは珍しくない。石器時代の人々もそれと同じことをしていた可能性は否めない。

70年代中国の麻酔治療で世界が注視するように。

1971年、『ニューヨークタイムズ』の記者が訪中した際、運悪く虫垂炎を発症。旅先で西洋医学の手術を受けたものの、予後が悪く痛みや不快感を訴えた。そこで鍼治療を受けたところ、見事に不調が改善したという。

帰国後、記者はこの経験を『ニューヨークタイムズ』で大々的に紹介。この後、中国では麻酔薬を使わずに鍼で麻酔をかけるという例も珍しくないという情報も発信した。

マジで?ツボに鍼を刺すだけで外科的な処置ができるわけ?それまで西洋医学一辺倒だったアメリカ人にとっては驚愕の事実。

この出来事がきっかけで、欧米で鍼灸やツボの医療効果が認められる。2000年代に入るとWHO(世界保健機関)で361個のツボが正式に認定されるという運びとなった。