一度出合えば足が変わる!理想的なインソールの探し方。

シューズ売り場で横目に見がちなインソール。しかし、足の健康を考えると決して素通りはできない。専門家の話を頼りに、奥深いインソールの世界を知ろう。

取材・文/山梨幸輝 撮影/石渡 朋

初出『Tarzan』No.889・2024年10月10日発売

教えてくれた人

小谷野きよみ/〈スーパースポーツゼビオ調布東京スタジアム前店〉のスタッフ。豊富な知識をもとに、丁寧かつ情熱的に接客。今回はインソールの基礎理論や選び方を中心に教えてくれた。「まずは〈シダス〉か〈ザムスト〉がおすすめ」。

片山徹/福岡の〈SATAスポーツ医科学研究所〉所属。2万人を診た“足”の専門家。「おすすめのインソールブランドは〈スーパーフィート〉と〈NWPL〉」。WEBサイト

自分の足にマッチする「運命のインソール」を見つけたい。

インソール売り場をよく見ると、想像以上にさまざまな形状のインソールがあることがわかる。足の構造自体はみんな同じなのに、なぜここまで違いがあるのだろうか?

「インソールの理論は“出尽くしている”と言えるくらい豊富なんです」とは福岡県にある〈SATAスポーツ医科学研究所〉の片山徹さん。

市販されている既製品だけでなく「成形」「オーダーメイド」などの選択肢も。価格帯も数千円から数万円まで広いので予算も検討したい。

「まずは自分の足を知るところから。“アーチ”“隠れ扁平足”などの用語も覚えるといいですよ」と片山さん。ここでは、まず知っておきたい5つのキーワードを紹介する。

インソール選びの前に知っておくべきキーワード5。

1.アライメント

そもそもなぜインソールが必要なのだろうか。一番の目的は、乱れた“アライメント”を整えるためだ。ヒトの体重は両足の親指と小指の付け根にあるふくらみの「拇趾球」「小趾球」、そして「踵」の3点で支えられている。さらに、それぞれを橋のように繫ぐ靱帯や筋肉などのことを「アーチ」と呼ぶ。

足は左右それぞれにある3点とアーチによって絶妙なバランスで保たれており、これを「足部アライメント」という。アーチは遺伝や筋力低下などの要因で衰えやすく、その結果、足が内側や外側に倒れ込むなどの“アライメントの乱れ”に繫がる。それを人工的に補助するのがインソールだ。

2.扁平足

「子供が裸足で野原を走る」。そんな風景が貴重になった今、年齢問わず直面しやすいのが扁平足。筋力低下により内側縦アーチ(土踏まず)が低くなった状態のことで、蹴り出す力が弱まり、足が疲労しやすくなるなどのデメリットがある。さらに、足に体重がかかった時だけアーチが崩れる“隠れ扁平足”も。座ると判別しにくいため見過ごしやすいが、片山さん曰く日本人の75%が隠れ扁平足。つまり、ほとんどの人はインソールが必要だ。

3.アーチ

自分に合ったインソールを探す際にまず参照したいのがアーチタイプ。足の甲が標準的な高さの人は「ミドルアーチ」、高めの人は「ハイアーチ」、扁平足気味の人は「ローアーチ」のものを選べば極端な失敗をしにくい。自分がどのタイプかは〈スーパースポーツゼビオ〉などのスポーツ専門店に行けば無料で詳しく診断してもらえるほか、〈ザムスト〉がブランドの公式YouTubeで公開している1分程度の診断動画なども参考あれ。

4.成形・オーダー

インソールを大まかに分けると「既製品」と「オーダーメイド」の2種類。スポーツ量販店などで手に入る「既製品」は比較的安価で手に入るのがメリットだが、アーチの形状に左右差がある人や、ベストな着用感を求める場合は物足りなさを感じやすい。

反対に専門知識を備えた人が自分の足やお悩みに合わせて作ってくれる「オーダーメイド」は着用感こそ抜群だが、安価なものでも3万〜5万円はするのが難点。

また、〈スーパースポーツゼビオ 調布東京スタジアム前店〉の小谷野きよみさん曰く、その“折衷案”も。「その場で熱成形するタイプもあります。1万円前後から選べて、10分程度で作れますよ」。

5.アメリカ・ヨーロッパ

アライメントの乱れを直すという目的は一緒でも、アーチを持ち上げたり、踵をサポートしたりと、アプローチはブランドごとに異なる。インソールの理論はなぜここまで多様なのか?

一因として考えられるのが、ルーツの違いだ。大まかに分けると、中世から貴族専門の足治療が行われていたドイツやフランスから広がった理論と、19世紀後半に世界で初めて足にまつわる医学「足病学」の学校が作られたアメリカで発達した理論がある。

今回取材した専門家が口を揃えて言ったのは「自分の理論には自信があるが、他も否定しない」ということ。とにかく数を試して自分に合う“正解”を探すのが近道と言えそうだ。

理想のインソールと出会うための4つの選択肢。

1.大型スポーツ専門店に行く。

スーパースポーツゼビオ

インソールの重要性が分かったら、どこで手に入れよう?まず訪れるべきは、やはり品揃え豊富な大型スポーツ専門店だ。例えば〈スーパースポーツゼビオ〉なら5000円以下から1万円台まで幅広いインソールがずらり。さらに3D足型計測サービス《フィートアクシス》も全国の店舗に。自分の足の形のほか、アーチタイプや、歩き方の癖が分かるなど至れり尽くせりだ。都内最大級の〈調布東京スタジアム前店〉スタッフ・小谷野きよみさんはこう語る。

「私が重視するのは“ウィンドラス”理論。足の指先をインソールで持ち上げることで土踏まずの腱を引っ張り上げ、足部の剛性を高めるという考え方です。当店で作れる〈ザムスト〉の成形インソール《フットクラフト カスタム》も、同じ理論。実際に試して、効果を体験してもらいたいですね」スーパースポーツゼビオスーパースポーツゼビオ全国の〈スーパースポーツゼビオ〉で体験できる3D足型計測サービス《フィートアクシス》。上に乗るだけで足型の3Dスキャンやサイズデータが分かる。また専用機材の上を歩くことで歩行時の圧力のバランスや左右左なども計測。自分に合ったスニーカーブランドやモデルなども分かる。インソールを手に入れる前に参考にしたい。ちなみに、15歳までの子どもなら、足のサイズが今後どのように変化するかも分かる。

スーパースポーツゼビオ

全国にある大型スポーツ用品店。今回取材で訪れた〈調布東京スタジアム前店〉は都内最大級の敷地面積1,000坪以上。ランニングや球技、アウトドアまでなんでもござれな品揃え。WEBサイト

2.職人に依頼する。

“一生モノ”のインソールをオーダーする手も。東京・谷中にある〈オーダーメイドインソールと靴の店ルッチェ〉では、鍼灸師・靴職人でもある村山孝太郎さんがお出迎え。複合的な視点で理想の一品を手がける。

「同じ“踵が痛い”という悩みでも、その原因は十人十色。じっくりヒアリングをしたあと、アナログとデジタルで丁寧に計測しながらアプローチを探ります。インソールを削り出すのも手作業ですね」

横浜の〈フットケアラボ新横浜〉にも注目。独自のシステムで足を3D計測し、そのデータを基にアメリカの職人がハンドメイドする流れだ。

「最大の特徴は横になった状態で体重をかけずに計測すること。最も足のアライメントが安定する“ニュートラルポジション”を見つけます」

両店とも予算は最低4万〜5万円程度から。最高のフィット感と10年使える耐久性を考えれば、“健康への初期投資”としてぜひ検討したい。

オーダーメイドインソールと靴の店ルッチェ

村山さんは日本で鍼灸学校を卒業した後、靴づくりを学び、ドイツでインソール職人に弟子入りした経歴の持ち主。筋肉、骨格、靴などの幅広い知見が強みだ。「鍼治療が有効ならその場で施術します」(村山さん)。インソールは38,500円〜。既製品も展開(4,100円〜)。オーダーメイドのスニーカーも(132,000円〜)。WEBサイト

アメリカのインソールブランド〈NWPL〉が開発した独自システム「スマートキャスト」を用いて3D計測。“隠れ扁平足”などの対策として、寝た状態で足に体重をかけずに行う。計測は10分程度。

フットケアラボ新横浜

アメリカ発の「下肢バイオメカニクス理論」に基づいてインソールを製作(52,800円〜)。完全予約制。WEBサイト

3.スマホでサクッと作る。

HOCOH(ホコウ)インソール

「職人が近くにいない!」という方は、スマホ一台で作ることも。HOCOH(ホコウ)インソールは足を数か所から撮影して送れば、3〜4週間後にオーダーメイドのインソールが届くサービスだ。

「指定の方法で撮影してもらえれば遠隔でも足型を解析できます。その後、弊社にある3Dプリンターでインソールを作る流れですね。大事にしているのは、硬質な素材で踵をサポートすること。足本来のクッション性を引き出すのが狙いです」

そう語るのは開発者である医師の岡部大地先生。届いたインソールを試してみると、リモートで作ったとは思えない快適さだった。

「足腰が弱い人ほど外出がしづらいジレンマに一石投じたいです」

HOCOH(ホコウ)インソール

HOCOH(ホコウ)インソール

写真はA4用紙の上に乗った状態と、左右、後ろから、規定の画角で足を撮影すればOK。インソールは吸湿性や防臭性にすぐれた和紙綿とクッション素材、タフな樹脂素材を用いた3層構造が特徴。38,500円。WEBサイト

4,未来感じる“スマート”なインソールの実力とは?

フリックフィット

“歩行をサポートする”という固定観念を覆すインソールも。靴に入れる薄型デバイス《フリックフィット》は、圧力や角度、加速度に反応する複数のセンサーを搭載。歩数や移動距離のほか、重心の偏りや蹴り出し角度、脚を組んだ回数も計測してくれる。さらに歩行年齢や「安定性」「対称性」などの観点を踏まえた“歩行評価”も分かるのだ。《フリックフィット》は貸し出しキャンペーン中。2025年に商品化も計画中とのことで、今後の動向に注目だ!

フリックフィット

重心のブレなどを感知する圧力センサーと、歩行速度などを記録する運動センサーを搭載。“歩行評価”は平らな場所で1分間歩くだけで分析することができる。レンタル5,800円。WEBサイト

インソール売り場へ行く前にチェック。プロが注目する6ブランドは?

インソールの代名詞的存在から、唯一無二なデザインの気鋭ブランドまで。インソール選びの前に知りたい6ブランドを紹介。

知名度No.1ブランドは“多層構造”に自信あり。|ZAMST(ザムスト)

ZAMST

サポーターでお馴染みの日本発ブランド。爪先を持ち上げることで足部の剛性を高める“ウィンドラスメカニズム”を採用。複数のパーツを重ねた構造が本来足が持つ機能の発揮をサポートする。多くの専門店で手に入るのが魅力。ベーシックな《フットクラフト スタンダード》(5,280円)や、成形モデル《フットクラフト カスタム バランス》(9,900円)を展開。WEBサイト

クッション性にこだわったヨーロッパ代表。|SIDAS(シダス)

SIDAS

1975年にフランスで創業。前足部に高反発素材を、踵部分にゲルを配置した高いクッション性が特徴。エントリーモデルの《マックス プロテクトラン》(2,970円)やアーチに合わせて選べる《3フィート・アクティブ》(7,590円)、球技やランニングなどの競技特化型まで展開。南青山の〈シダス フィッティング ラボ〉ではオーダーメイドも(24,970円〜)。WEBサイト

日本人のために作られたフィット感抜群インソール。|BaNe(バネ)

BaNe

日本人の足型に合わせたインソールを手がける東京生まれのブランド。特徴は踵から前足部にかけて配置された立体的な形状の「コントロールカップ」。内側と外側のアーチをサポートすることで左右の体軸移動や足を前に運ぶ運動がスムーズに。基本的な機能を盛り込んだ《ベーシック》(5,390円)や、長時間着用に適した《バランスフィット》(6,380円)が展開。WEBサイト

圧倒的な業界内支持を誇るアメリカの老舗ブランド。|NWPL(ノースウェスト・ボディアトリック・ラボラトリー)

NWPL

1964年からアメリカでカスタムインソールを手がけてきたブランド。足のアライメントが整った「ニュートラルポジション」を維持する設計が特徴。薄さと耐久性、しなやかさを兼ね備えた「カーボングラファイト」を用いた《ノースウェスト スーパーグラス》(99,000円〜)や、既製モデル《ライフ オーティーシー》(22,000円)などを展開。WEBサイト

「立方骨」をサポートする独自理論を提唱。|BMZ(ビーエムゼット)

BMZ

スキー選手向けのシューズやインソール開発からスタートした日本発ブランド。外アーチの中間部分にある「立方骨」を支えることで安定性と運動機能を両立させる独自の理論に基づいている。軽量でタフなカーボン素材を使った高機能インソール《アシトレマジックカーボン スポーツ》(19,800円)や累計400万足を販売した人気モデル《アシトレ》(2,9
80円)などが展開。WEBサイト

元・下駄屋のインソールは足指鍛える鼻緒付き。|NOSAKA(ノサカ)

NOSAKA

下駄屋にルーツを持つ石川県発のシューズ専門店〈のさか〉が独自開発した《スライドループインソール》(8,030円)は、鼻緒が付いたユニークなデザイン。5本指ソックスなどと一緒に履くことで、足指を使って歩く感覚を鍛えられる。筋力アップに加え、外反拇趾の予防や血行促進などの効果も期待できる。WEBサイト