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自体重トレを“効かせる”ための新9ルール。

自体重トレ 効かせるルール

トレーニングこそ、具体的な道標に沿って進みたい。ここに並べた9つのルールは、この先、よりカラダ作りを極めたくなったときにも基礎となる。覚えておいて損はない!

教えてくれた

中村雅俊(なかむら・まさとし)/西九州大学リハビリテーション学科理学療法学専攻主任、准教授。理学療法士、博士(人間健康科学)。201323年の10年間において「Expertscape」によりストレッチ分野の世界No.1研究者にランキング。

①10回×3セットを基本に週90回をクリアする。

自体重トレ 効かせるルール

筋トレを少しでもかじった人なら、誰でも知っているゴールデンルールがある。それが「10回×3セットを週2〜3回やる」というプロトコル(約束事)だ。

「筋肥大を効率化するなら、ゴールデンルールに則したトレーニングがやはり効果的。自体重トレでは高負荷で鍛えるのが難しい分、週2回よりも3回の方が成果は出やすいでしょう」(西九州大学の中村雅俊准教授)

その一方で、中村先生はゴールデンルールに縛られすぎる必要はないとも指摘する。

「肝心なのはセット数や頻度より、1週間トータルでどのくらいのボリュームの筋トレができたか。10回×3セット×週3回=週90回。毎週90回がクリアできたら、ゴールデンルールから外れても問題ないのです」(中村先生)

一度のセッションは、キリ良く10回で終えるのがオススメ。一度に長くやりたくないなら、1日10回×週7日+土日10回ずつ追加で週90回。週末しかできないなら、土日で10回×9セットを終えれば週90回。生活習慣に応じて自在にプランニングして長続きさせよう。

②終わったとき「やや辛い」と感じる深さ、時間で行う。

自体重トレ 効かせるルール

次の1回が「辛くてムリ」と思える負荷をかけよう。

1週間のトータルボリュームの他にも大事なことがある。それは筋肉にどの程度の負荷(抵抗)をかけるか。「メカニカルストレス(力学的な刺激)」という。

一度に10回で終える大前提は、10回以上続けるのが難しい負荷をかけること。30回以上も余裕で続けられる負荷で10回だけやっても、筋肥大にはつながりにくい。ゴールデンルールから外れて一度に何回やるにしても、1セッションでそれ以上反復するのが難しい負荷をかけることが重要。

「1セット10回を基本に自体重トレを行うなら、フォーム、稼働域、時間を変えながら、10回を終えて“やや辛い”と感じ、11回目が“辛くてムリ”と思えるストイックなトレーニングを追求してみてください」(中村先生)

同じスクワットでも、フォームを変えるとキツさは変わる。さらにお尻を深く下げて稼働域を広げるほど、またゆっくり長く時間をかけるほどしんどい。他の種目でも、同じように試行錯誤しながら、1セット終えたときに「やや辛い」と思えるやり方を探そう。

③インターバルにこだわりすぎない。

自体重トレ 効かせるルール

あえて長めに休憩して1回の質を高めるのも有効。

10回×3セットのゴールデンルールにはもう一つポイントがある。セット間のインターバル(休憩)にスマホを見たりしてダラダラせず、60〜90秒と短めの休息で次のセットに臨むのだ。そのメリットは、筋肉にケミカル(化学的)ストレスがかけられること。でも、それにこだわらなくてもいいというのが新説。

筋トレでハードに鍛えると筋肉内には乳酸などの代謝性産物が溜まる。これがケミカルストレスの正体。その信号が脳に伝わると筋肥大が一層促される。

しかし、一度に3セットも続けないプロトコルだと、代謝性産物は毎回スムーズに処理されて蓄積しないため、ケミカルストレスを経由した脳への刺激は得られない。それでも構わないのだろうか。

「ケミカルストレスも大事ですが、メカニカルストレスをしっかり加えていれば、ケミカルなしで筋肉はきちんと肥大します」(中村先生)

短い休憩でやろうとすると疲労が抜けず、フォームが乱れてメカニカルストレスが筋肉に十分加わらないこともある。一度に複数セットやりたいなら、インターバルをたっぷり取り、1セットごと確実に行う方が賢明だ。

④エキセンを丁寧にやる。

自体重トレ 効かせるルール

プッシュアップもなるべく時間をかけて下がろう。

筋トレには2つの局面がある。1つ目は、スクワットでしゃがむときのように、筋肉が引き伸ばされながら(正確には元の長さに戻りながら)力を発揮するエキセントリック(伸張性)筋収縮。2つ目は、スクワットで立ち上がるときのように、筋肉が縮みながら力を出すコンセントリック(短縮性)筋収縮。

筋肉を大きくしたいなら、このうちエキセンを丁寧にやるべき。筋肉は速筋線維と遅筋線維という2種類の筋線維のブレンドだが、このうち肥大するのはもっぱら速筋。

エキセンでは速筋が使われやすいという特性があるので、そこを重視すべきなのだ。自体重トレでもエキセンをできるだけゆっくり行い、速筋に負荷をかける時間(タイム・アンダー・テンション)を長くする。

「極論を言うなら、エキセンさえしっかりやれば、コンセンはあってもなくてもOK。スクワットなら、立ち上がり動作のコンセンは膝に手をついてサポートしながら省力化し、その分だけしゃがむエキセンをじっくりスローに行えたら、筋肥大は効率化するのです」(中村先生)

⑤オールアウトしなくてもいい。

自体重トレ 効かせるルール

疲労困憊は必要十分条件ではないのだ。

筋肉は無数の筋線維からなる。筋肥大=筋線維の肥大にほかならない。一方、筋線維は毎回100%働いているわけではなく、疲労が蓄積しないようにシフトを組んで交代制で働いている。

筋肥大を加速させるなら、筋線維をくまなく使い倒すべき。ゆえに筋トレは1セットで終わらせず、数セット波状的に繰り返し、セッションに参加する筋線維を増やすことが大切だといわれてきた。

その理想形がオールアウト。ほとんどすべての筋線維を使い果たし、疲労困憊まで追い込んだ状態だ。でも、オールアウトに到達するのはかなりしんどい。できればそんな辛いことはしたくないのだが…。

「1セッションで頑張ってオールアウトしなくても、トレーニングのボリュームを増やせば筋線維はそれだけ多く使われます。筋肉をもっと肥大させたいなら、先述のように1週間トータルの回数を増やしてあげましょう」(中村先生)

⑥「超回復理論」にこだわる必要はない。

自体重トレ 効かせるルール

自体重トレは即回復するから毎日やっても全然OK。

筋トレに励むと一時的に筋力が低下。その後、しばらく休養して栄養を摂ると筋力が回復、以前よりアップする「超回復」が起こるから、そのタイミングでトレーニングを続けると、筋肉は右肩上がりで大きくなるという。

これがお馴染みの「超回復理論」。超回復が起こるまで通常48〜72時間かかるので、同じ部位は2〜3日おきに休み休み鍛えるのが正しいとされてきた。

「重たいウェイトを扱う筋トレでは、フォームが崩れてケガをするリスクを避けるため、ちゃんと休養すべき。ですが、ケガのリスクがほとんどない自体重トレは同じところを毎日やっても大丈夫。トレーニング後しばらく休めば筋力は十二分に回復しています」(中村先生)

超回復を待たなくて済むなら、トレーニングプランの自由度はそれだけ高まる。継続しやすいスケジューリングをしてみよう。

⑦筋肉痛があっても鍛えてヨシ。

自体重トレ 効かせるルール

自体重で筋肉痛が出るのは運動不足の何よりの証し。

激しい動き、慣れない動きをしたときなどに起こるのが、筋肉痛。実態は完全には解明されていないが、筋肉を作っている筋線維や、筋肉や筋線維を包む筋膜にミクロな損傷が生じて痛みを発すると考えられている。

重たいダンベルやバーベルを駆使した“攻めた”トレーニングで筋肉痛が生じるなら話はわかるが、それほど“攻めない”自体重トレで筋肉痛に見舞われることはさほど多くない。

「軽い自体重トレで筋肉痛が出たら、それまでいかに運動不足だったか反省しましょう」(中村先生)

仮に自体重トレで軽い筋肉痛が出ても、ケガや故障がない限りトレーニングを休む理由にはならない。筋肉痛では肉離れ(筋断裂)などの故障は起こっていない。多少痛くてもルーティンは支障なくこなせるはず。筋肉がほぐれるうちにいつしか痛みは消えるし、トレーニング効果に悪影響が出る心配もない。

⑧筋トレは有酸素運動より先にやる。

自体重トレ 効かせるルール

筋トレで分泌された成長ホルモンで有酸素効果をUP。

理想のボディに最速で近づくなら、筋トレに加えて有酸素運動もやっておきたいもの。せっかく筋肉をつけても、無駄な体脂肪に覆われていると体型はポッチャリしたまま。

有酸素は酸素を介して体脂肪を燃やすから、鍛えた筋肉をよりアピールできる。有酸素にはいろいろなタイプがあるが、ランならシューズさえあれば自宅周辺で手軽に始められる。

では、筋トレと有酸素を同じ日にやるとしたら、どちらを先にやるべきなのだろう。

「トレーニングはシンプルに、重視する種目から始めるのが鉄則。筋肥大を優先したいなら筋トレを先に始めてください」(中村先生)

筋トレを先にすると、あとで行う有酸素にもプラス。エキセンがメインの筋トレでは、成長ホルモンが分泌されやすい。成長ホルモンには体脂肪の分解を促す作用があるため、有酸素の体脂肪燃焼効果もアップするのだ。

⑨上半身ばかりやると下半身は細くなる。

自体重トレ 効かせるルール

チキンレッグが嫌なら、下半身もちゃんと鍛えよう。

鍛えた筋肉は大きくなり、鍛えていない筋肉は大きくならない。そんな常識をひっくり返すような研究が、24年にベルギーのゲント大学で行われた。

「その結果、鍛えていない筋肉は単に大きくならないだけでなく、萎縮する可能性があるとわかったのです」(中村先生)

筋肉の原料はタンパク質。筋肉のタンパク質(正確にはタンパク質を作るアミノ酸)はつねに分解と合成を繰り返すが、トレーニングで刺激した筋肉ではタンパク質の分解を合成が上回り、筋肥大を招く。

その際タンパク摂取が足りないと、鍛えていない筋肉から分解されたタンパク質が、タンパク合成が高まった筋肉へと“横流し”されて、鍛えていない筋肉の萎縮が起こるらしいのだ。

上半身ばかり鍛えると下半身が萎縮して細くなる「チキンレッグ」になる恐れがあるし、下半身ばかり鍛えると上半身が貧相になる。全身偏りなく鍛えるのが正解だ。

取材・文/井上健二 イラストレーション/三上数馬 取材協力/中村雅俊(西九州大学リハビリテーション学科理学療法学専攻主任、准教授)

初出『Tarzan』No.887・2024年9月12日発売

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